本好き魔導士の溺愛

夾竹桃

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<テオバルト視点>リスト

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 テオバルトは相変わらず仕事に追われていた。
グアンの件、イザベラの毒の件を早急に解決しなければならない。
その他にも、自身の領地の運営、商取引、屋敷の管理、上げたら切りがない。
その忙しさの中、継母が怒鳴り込んできた、
まあ、怒鳴り込むと言っても、本館の玄関前で奇声を発し暴れているだけなのだが……。

「テオバルトーーっ、玄関を開けなさいっ、中に入れないさいっ、テオバルトーーーっ」

 一体いつまで叫び続けるつもりか。
叫び始めて、もう一時間以上経過している。
いい加減堪忍袋が切れそうだが、それ以上に使用人達が困り果てている。
騎士を呼んで無理やり別邸に連れていくか、それとも話を聞くか。
まあ、おそらく継母は、あの事について激怒しているのだろう。
イザベラの件を探るにしても、継母と話した方がいいかもしれない。

 テオバルトは、自身の屋敷に掛けてある魔法を解いた。
その魔法とは、継母やイザベラなどの危険人物を屋敷に出入りさせないというもの。
そしてテオバルトは、継母を書斎に連れてくるよう執事に指示した。

「テオバルトっ、私を馬鹿にするのもいい加減になさい。私は絶対に、絶対に、ここを離れないわよっ」

 書斎に入ってきた継母は、額に青筋を張らせ、目じりを吊り上げ、激昂している。

「とりあえず、座ったらどうだ?」

「その口調、その目つき、その机に座っている姿、本当に先代公爵に瓜二つね。気味が悪いわ。いえ、気味の悪さではテオバルトの方が上ね」

 継母は唾を飛ばしながらテオバルトを罵倒する。
実は、継母は先代公爵、テオバルトの父を心底憎んでいる。
テオバルトの父は、テオバルトの実母を愛していたが、事故で亡くなると、実母そっくりな継母を後釜に据えた。
ただそっくりなのは外見だけで、中身は全く異なる。
テオバルトの実母は、小国の姫で、教養が高く5カ国語を話せる。
その上、上流階級の嗜みとされるマナーや音楽、ダンスなどは完璧にこなし、性格も穏やかで慈愛に満ちていた。
かたや継母は、平民かつ農民の出。
もちろん教養など皆無の、元気だけが取り柄の女性だった。
その継母に、テオバルトの父は、実母のような振る舞いを強制した。
しかし強制したからと言ってすぐにできるはずもなく、何もできない継母に対して、父は毎日のように罵倒した。
父は暴力こそ振るわないが、言葉の暴力、それも貴族的な言い回しの言葉の暴力を毎日のように継母に浴びせた。
それは、二人の間に娘のイザベラが誕生しても、変わらない。
いや、むしろ誕生してからの方が、継母にとって地獄の日々だっただろう。
なぜなら父は、継母の不貞を疑い、イザベラを決して実の娘とは認めなかった。
そんな日々を過ごすうち、誰もが壊れていった。

 晩年の父は、実の母の幻影を求めて彷徨い、酒に溺れ、最後は病に倒れた。
そして父が亡くなると、継母は、今までの鬱積を晴らすように薬や愛人、賭博に快楽を求める。
同時に継母は、10歳のテオバルトを折檻し始める。
父と似たテオバルトを折檻することで、遺恨を晴らすように。

 テオバルトはただ、耐えるしかなかった。
爵位こそ継承したテオバルトだったが、幼かったため、すべての権利を継母が代理管理していた。
それ故、テオバルトには継母を制する力がなく、毎日のように折檻され生き地獄を味わう。
さらにテオバルトを擁護していた執事、乳母、従者が次々と亡くなる。
いや、殺されたのだろう。
しかし、その過酷の環境がテオバルトを逆に強くした。
虐待ともとれる剣術指導はテオバルトの肉体を強靭にした。
また継母に打ち勝つためにあらゆる知識を習得し、魔法も極めた。
その結果、強くなったテオバルトに、継母は一切手が出せなくなった。

 そして今、テオバルトは、継母を殺すつもりでいる。
もっと早くに殺すべきだったが、大戦に出兵したせいで、その機会を逃していた。
今が殺すべき時なのだろう。
なぜなら、アメリアと結婚するには継母は邪魔でしかないから。
とりあえず、継母を田舎の領地に引っ越させ、呪いや毒で殺す。
ああ、やっと殺せる、そう思うとテオバルトは自然と顔がにやける。

「テオバルト、なに、何笑っているのよ。本当に気味が悪いわ」

「その気味悪い俺から、離れられるんだ。感謝されこそすれ、抗議される筋合いはない」

「なっ、なんですって。離れるというなら、テオバルトがどこかへ行くべきよ。わたくしは、絶対に田舎など行かないわ」

「それにしてもおかしいな。イザベラは貴方の具合が悪くなったから遠征先から急遽戻ったはず。それなのに貴方は元気そのものだ」

「そっ、それは、すぐにイザベラが治癒してくれたからよ」

「けれど、イザベラは教会にまだ戻っていない。てっきり貴方を看病しているものだと思っていたのだが……」

「そっ、それは。まっ、まだ、たまに調子が悪くなる時があるから、念のため、まだ私の傍にいるのよっ」

 イザベラは別邸に籠ったまま姿を現さない。
一体何を企んでいるのか早急に調べなければならないが、継母に問い詰めたところで何も答えは出なそうだ。
まあ、イザベラは継母のことを馬鹿にしているし、相手にしていない。
こんなにも可愛がっている娘に邪見にされるとは、この継母はとことん憐れだ。

「そうか。ならば尚更、空気がいい田舎で療養すべきだな」

「だから、何度も言っているでしょう。わたくしは、どこも行かないわ」

「いいや。行ってもらう。もし行かなければ牢屋に入ることになるだろう」

「一体どういうことっ、わっ、私が何をしたと言うのよーー」

「本当に、それを聞いているのか。殺人や横領、薬の不正取引など数え切れないほどの罪がある」

「いい加減なこと言わないで頂戴。証拠は、証拠はあるというの?」

「もちろんある。つい先日、貴方はまた殺人の依頼をしただろう。ジュリエッタという若い女性を殺して欲しいと。その女性は貴方の愛人と婚約していたらしいな」

「なっ、何言っているの、わたくしは、わたくしは、知らないわ、何も知らないわっ」

「残念だが、殺人を犯した実行犯を捕らえている。その実行犯はすべて自供したぞ。貴方から依頼されたとね」

 継母は今回の殺人依頼を、その辺のチンピラに依頼した。
いつもなら裏ギルドを通すのだが、おそらく資金が足りなかったのだろう。
裏ギルドは金さえ払えば、証拠なく完璧に殺人を行うため、今までの継母の悪行を曝け出すことは難しかった。
しかし今回、継母がチンピラに依頼したことで、簡単に足がつき、証拠を得ることができた。

「テオバルトっ、いい加減になさい。このわたくしが捕まれば、この公爵家にも被害が及ぶのよ。それでもいいと言うの?」

「何も問題はない。ただ、イザベラは困るかもしれないな。実の母が投獄され、またイザベラの血筋を暴露されれば、かなり問題だろうな」

「そんな、イザベラのこと調べたの? どこまで調べたの?」

「さあ、どこまでだろう」

「そんな、そんなっ」

「来月中には、別邸から出て行ってもらう。さもなければ通報する。どちらか好きな方を選べ」

 継母は血相を変えて、慌てふためいて、書斎から出て行った。
できれば、継母がイザベラに泣きついて欲しい。
そうすればイザベラが何かしら行動を起こすかもしれない。
その時こそ、イザベラを貶められる絶好のチャンスだ。

 それにしても、疲れた。
もう就寝しようと、テオバルトは自室に戻り、全ての明かりを消す。
しかし部屋全体が真っ暗になった時、テオバルトは居た堪れなくなった。
何故だかは、わかる。
アメリアが恋しいからだ。
この暗闇に、もう一人でいるのは、限界だ。
はやく、アメリアと共に過ごしたい。
アメリアとこのベッドで……。
まずアメリアを全裸にし、拘束し、隅々まで見る。
そして俺の触れていないところが全てなくなるよう、触りつくし、口付けしたい。
その間、アメリアの表情を余すことなく見ていたい。

 テオバルトは、そんなアメリアとの熱い夜を想像していたら、無性にアメリアに会いたくなった。
明日には会えるとわかっていても、どうしても今会いたい、アメリアを一目でいいから見たい。

 テオバルトは禁忌を犯した。
魔法を使い、アメリアがいる部屋の前に転移した。
アメリアがいる部屋には、アメリアの姉、聖女のレーナもいる。
今は夜中だから、おそらくレーナもいる。
レーナにばれないよう、アメリアを一目見て帰ろう。
そう思いながらテオバルトは部屋の扉をそっと開けた。

 部屋の奥のベッドで、アメリアがスヤスヤと寝ている。
髪は以前のように、ざんばら髪ではなく、綺麗に整えてある。
テオバルトは物音を立てないよう、できる限りそっと、ベッドの端に腰かけた。
一目みて帰るはずが、気づけばテオバルトはアメリアに触れていた。
アメリアの頬を手で優しくなぞり、口付けした。
テオバルトは、その時ふと思った。
もし、アメリアがいなくなったら、父と同じく狂人になるなと。
父とは見た目だけでなく、精神も似たのかもしれない、そう思った。
テオバルトは、今度はアメリアの唇に口付けしようとすると、アメリアの横で寝ていたレーナの目と合う。
レーナは上半身を起こし、盛大に溜息をついた。

「テオバルト様、とうとう頭狂いました?」

 レーナは冷ややかに、静かに言葉を発した

「そうかもな」

「はぁ……。このことは見なかったことにしますので、すぐにお帰り下さい。そして一刻も早くイザベラの件、解決してください」

「……」

 せっかくアメリアに会えたのに、もう帰らねばならないのか。
あの暗い部屋に一人で……。
それにしてもなぜ、アメリアの姉がよりによって、聖女のレーナなのか。
こいつは、一癖も、二癖もある。
なるべく付き合いたくない相手だが、アメリアと結婚するまでは、できるだけ良好な関係を築く必要がある。

「テオバルト様、黙ったままで何考えているのかしら、本当に、本当に、気味が悪い。一刻も早く出てってくれません? もしすぐに出ていかなければ叫びますよ。それも、テオバルト様に襲われたと言って叫びますよ。それを聞いたアメリアはどう思うでしょうね……」

「ちっ、わかった。もう消えてやる」

 テオバルトは魔法で自身の屋敷に戻った。
そしてこれからやるべきリストを作成した。

――――――――――――――――――――
・アメリアのデートプラン作成
・アメリアの両親、領地調査
・レーナ対応策構築
・グアンの魔法陣解読
・グアンのボス、組織を調査
・イザベラの毒の告発
・継母処分計画
・魔石(?)調査
―――――――――――――――――――――

 リストを眺めながら、テオバルトは心なしか、嬉しくなった。
どれも大変なことばかりだが、アメリアとのデートプランだけは、考えるのが楽しくて仕方がない。
次々に案も浮かぶし、やりたいこともいっぱいある。
一日だけでは足りなさそうだ。
とりあえず案を作成し、明日アメリアに確認させよう。






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