本好き魔導士の溺愛

夾竹桃

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「それで、テオバルト様、せっかくパーティーに来たんですから踊りましょうよ。こんな恰好で申し訳ないですが」

 私はパーティー会場の中央部でダンスを踊っている人達を指さしながら、テオバルト様に提案した。

「俺は踊れない。それに俺があそこに行ったら、演奏している奴らまでいなくなるはずだ」

「踊れないなんて、本当ですか? 公爵様なのに」

「俺と踊りたい奴は今までいなかったし、そもそも踊りのレッスンをしてくれる先生もいなかった。皆、俺に触れたくないからな」

「そっ、そんなことないと思いますけど……。あっ、では、私が踊りを伝授させて頂きます。踊りは得意なんです。私もローブを脱いで踊りたいので、どこか二人っきりになれる場所に行きましょうよ」

「二人っきりか、それはいいな」

 私とテオバルト様は、人気がない場所を探して歩き出した。
すぐに場所は見つけることができたが、その場所は高台にあり、私は少し息切れを起こしてしまった。

「はぁはぁっ、テオバルト様っ、ここは、どうでしょう? 音楽も微かに聞こえますしっ。はぁはぁ」

「そうだな。それにしてもアメリアは体力がなさすぎだ」

「はい。おっしゃる通りです」

「体力については、俺がおいおい向上させてやる」

「お手柔らかにお願いします」

「ああ」

「では、踊りのレッスンをさせて頂きます」

 私はまずは、ワルツの基本のステップをテオバルト様に伝授した。
テオバルト様は、もともと運動神経が良いらしく、数回ほど練習したら、完璧にマスターした。
体力も恐ろしいくらいあるせいか、その後、一人で何十回も黙々とステップを練習している。
さくらんぼの柄を結ぶ特訓の時も感じたけど、テオバルト様って努力家なのかも。
天才で努力家なんて、最強すぎだなと思いながらテオバルト様を見つめていると、テオバルト様の動きが止まり、私に来いっと手招きした。

「アメリア、そろそろ次のステップを教えてくれ」

「その前に、このステップで一曲、踊りましょうよ」

 私はローブを脱ぎ、テオバルト様と手を組み、肩に手を置いた。
ちょっと身長差がありすぎるけど、仕方ない。
テオバルト様は、ローブを脱いだドレス姿の私を見ると、少し頬を赤らめた。
なんか、ちょっと、可愛い。

 そして私達は、遠い所から聞こえる音楽に合わせて、踊り出した。
初めてにしては、テオバルト様は緊張していなく、リラックスしている。
いやそれどころか余裕さえ感じる。
これなら、リフトができるかも。

「テオバルト様、お願いがあります」

「なんだ?」

「ひょいっと、私を持ち上げて半回転してみてください」

「わかった」

 テオバルト様は私の腰を両手で持ち、持ち上げた。
思った通り、筋肉質のテオバルト様は、私を軽々と高々と持ち上げる。
そして、その持ち上げられた間、私は両手を鳥のように広げ、自分の身長の高さでは決して味わえない景色を堪能した。

「きゃーっ、すごーぃ。たか~ぃ、最高~」

「そんなにいいなら、もう一度するか?」

「いいんですか。ぜひお願いします」

 それからテオバルト様は何度も何度も、私を持ち上げ、ビューンと一回転する。
もう、あまりに楽しくって、私は、子供のようにケラケラと声を出して笑った。
テオバルト様も私につられ、笑顔になる。
なんか、ここいうテオバルト様、いいかも。
好きになっちゃうかもしれない。

「曲が終わりましたね、テオバルト様。休憩しましょう」

「そうだな。さすがに少し目が回った」

 ずーっと回転ばかりしていた私達は、一曲が終わる頃には、目が回り、ヘトヘトに疲れ、原っぱにしゃがみこんでしまった。

「テオバルト様、ありがとうございました。とっても楽しかったです」

「いや、礼を言うのは俺の方だ。ありがとう、アメリア。初めてダンスをしたが、いいものだな」

「まあ、普通はこんなにも持ち上げたりしないんですけどね。今度は、普通のダンスを楽しみましょうね」

「あぁ」

「それで、パーティーももう終盤ですが、テオバルト様のお願い事って何ですか? そろそろ教えてください」

「……、明日の昼休みの時に言う」

「明日ですね。わかりました。事前に何か用意しておくこととかありますか?」

「特にない」

 テオバルト様、妙にそわそわしている。

「わかりました」

 その後は、レーナお姉様に軽く帰りの挨拶をし、馬車に乗って帰宅した。
それにしたって、テオバルト様のお願い事ってなんだろう。
また、枯れそうな植物を元気にして欲しいのかな。
いや、それなら仕事の一環として命令すればいいだけだし。
だったらなんだろう。
やっぱり、エッチなことかな。
ものすごくありえる。
テオバルト様は変態で変人だもんね。
でもさすがに、最後までするとかは……、ないよね。
テオバルト様、大貴族の公爵様だし紳士的常識持っていると信じたい。
だとしたら、何かな~。
あ、あれかな。縛りたいとか?
身体拘束の全てって言う本持っていたし。
うーん、前世でも縛られたことはないわ。
それか、やっぱりフェラとか。
前世で経験済みだけど、あれは愛が高まった時じゃないとできない。
今は、無理無理無理。
もしお願いされたら……、いや想像するのも無理。
って、悶々と考えてもしょうがないよね。
たいして対策も思いつかないし。
まぁ、なるようになるでしょ。

 私は、念のため身体中をピカピカに洗い上げ、あとは寝るだけとなった時、レーナお姉様が鼻歌を歌いながら帰ってきた。

「ただいま、アメリア~♪」

「おかえりなさい。なんか上機嫌だね」

「それは、そうよ。今日は最高で完璧な一日だったわ。全てアメリアのお陰よ。本当にありがとう」

「そっ、そう。そんなに役に立てたんだ。びっくり」

「ええ。まずは、殿下とテオバルトが運よく鉢合わせしたのが良かったわ」

「そうなの? なんで?」

「イザベルとテオバルトはいくら腹違いで仲が悪いと言っても、半分は血がつながった兄弟でしょう。だから、テオバルトは私よりもイザベラ側だと世間一般は認識してたの。けれど今日、テオバルトが私主催のパーティーに出席し、多額の寄付をし、私の妹を恋人と紹介したから、テオバルトは私側だと、殿下含め皆が判断したわ」

「テオバルト様がレーナお姉様側になると、いいことがあるの?」

「もちろんよ。テオバルトは公爵でしかも、国一番の富豪、そんなテオバルトが私の味方になったのだから、皇太子妃への道が断然近づいたわ」

「ふーん。皇太子殿下は、恋愛感情でお妃を選んだりしないの?」

「そうね……、最終的には恋愛感情でお決めになるかもしれないわね。それでも私は、少しでもイザベルには勝っていたいのよ」

「ふーん。レーナお姉様、大変そうだね。でもさー、もし私とテオバルト様が別れたらどうするの?」

「それは絶対にダメよ」

「ええっっ。だっ、だって、レーナお姉様、テオバルト様とキープとして付き合えばいいって言ってたよね」

「そんなこと言ったかしら。記憶にないわね」

「はぁ、出た出た、お得意の記憶にございませんね」

「ふふ。それにアメリア、テオバルトは幾ら寄付したと思う? 聞いたら絶対に別れられないわよ」

「幾らなの?」

「10億G(10億円)よ」

「ええーーーーー、本当に? 信じられない」

「ええ、本当。これで立派な学校が設立できるわ。それに加え、学校が出来たあかつきには、奨学金を給付していただける財団を設立してくれるそうよ」

「テオバルト様、凄すぎ」

「ええ。それなのに、テオバルトとアメリアが別れでもしたら、どうなると思うの。学校は設立できたとしても、奨学金の話はなかったことになるでしょうね」

「もの凄いプレッシャーを感じる」

「ええ、それはそうだわ。プレッシャーをかけているのだから」

「なんか、もう疲れた、寝るね」

「おやすみなさい、アメリア」

 本当に、私の身体は疲れていたようで、ものの5秒くらいで眠りについた気がする。
深い、深い、眠り。
ただ、ぐっすり寝たせいか次の日は目覚めが良かった。
が、今日は、テオバルト様のお願い事を聞く日。
不安でしかないけど、さすがに逃げ出せない。
なんせ、10億Gも寄付貰っちゃってるし。
まぁ、私じゃないけど。
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