【R18】悪魔に魅入られて

夾竹桃

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決意(1)

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 目が覚めると、西日の強い光が、部屋の中まで降り注いでいた。
いつもなら気持ちが悪い執事のブレオが私を見下ろしているのに、今回はブレオではなくセルが私を見下ろしている。

「目覚めたか。今からロンドンに帰るからすぐに支度しろ」

「ええっ、もう!? まだ居たかったな⋯⋯」

「早くしろ」

 セルは私から毛布を剥ぎ取り、早く支度するよう急かした。
相変わらず私は裸だったので、そのまま急いでシャワーを浴び、セルが選んでくれてあった紺のワンピースを素早く着た。
一息つく間も無く、またヘリコプターに乗り込み、ロンドンの家に向かう。
飛行中は夕暮れ時と重なり、空も地上も燃えるようなオレンジ色の夕陽に染まり、その景色がとても美しく、心が震えた。

 もしかして、この景色も計算してセルは私を急かしたのだろうか⋯⋯。
セルは賢いから、おそらくそうだろう。
きっと普通の恋人同士だったら、最高に幸せなデートだったんだろうな。
まぁ、私とセルの関係ってある意味、恋人よりも夫婦よりも強固な関係かもしれないけど。

 ロンドンに到着すると、すぐにセルは仕事の為、どこかに行ってしまった。
私はというと、執事のブレオに泣き付かれている。

「サーラ様、酷いです。酷すぎます」

「そんなこと言われても、私は知りませんよ」

「どうして、どうして私だけ⋯⋯、セル様も、マクラス様も酷すぎます」

「私にとっては逆に良かったですけどね」

「最高の、最高のシチュエーションなんですよ! サーラ様の犬の姿なんて。それなのにっ、録画も出来ていなければ、観ることも出来なかったなんて一生の不覚です」

 私こそ、犬のプレイなんて一生の不覚だ!
恥ずかしすぎて記憶から消し去りたいのに、録画なんてされてたらたまったものではない。

「というか、もうこれ以上録画しないで下さい」

「これ以上録画しない代わりに、また犬の姿になってくれますか?」

「なりません!」

 ブレオも、やっぱり悪魔だな。
もし私が犬の姿になっても、なんだかんだで録画を続けるに違いない。
もう絶対に悪魔と交渉なんか、するものか。

 その後、数日経ったけど相変わらずセルは帰ってこなかった。
けれどその間、私のクリトリスは何度も強烈な刺激に見舞われた。
指先でコロコロと転がされる感覚、舌で舐め回す感触や、ローターのような振動、一番辛かったのは、流水がずっと、ずっとクリトリスにあたる感覚だ。
また、その刺激がいつ始まるのか、いつ終わるのか全く予想できないのも辛かった。
これらの行為はセルが私のクリトリスとシンクロしている宝石で遊んでいるせいに違いない。

 今日もその刺激に怯えながら、私は大学に行き、いつものように帰宅する為、車に乗り込んだ。
車が走り始めて数分過ぎた時だろうか、突如運転手が急ブレーキをした。

「なっ、どうしたのっ」

「申し訳ございません。目の前にいきなり車が停車しました」

 前方を見ると、行く手を遮るように黒いセダン車が横付けされている。
その車から黒い服を着た男の人が降りてきて、いきなり銃を乱射した。
どうやら私が乗っている車は防弾仕様らしく、弾は貫通しなかったが、鋭い銃声が車の中まで響いた。

 私はあまりの恐怖で悲鳴さえ上げられなかった。
運転手は私とは違い冷静で、車をバックしようとギアをチェンジした。
しかし後方にも黒いセダンが近づきぶつかってしまった。
そのぶつかってきた車からも銃を持った男性が降りて来て、私が乗っている車のドアを開けようとする。

「サーラ様は車の中にいて下さい」

 運転手がそう言うと、ドアを開け外に出て、銃で応戦し始めた。
が、2対1のせいかあっさりとこの運転手は何発も銃撃され倒れてしまった。
そしてすぐに、男2人はドアに銃を撃ち込み、車のドアを開いた。

「魔女に制裁を!」

 男の一人がそう叫ぶと、私に銃を向け引き金を引いた。
その瞬間、私が身につけていたチョーカーネックレスのブラックダイヤから暗闇が出現し、私を飲み込んだ。

 それからどれくらい経ったのかわからないけど、私は、気が付いたらベッドに横たわっていた。
耳鳴りと目眩が酷く起き上がれない。
気持ちが悪く、吐きそう⋯⋯。

「サーラ、すぐに良くなる」

 セルの声が耳に響き、冷たく長い指先が私の瞼に触れた。
すると一瞬のうちに気持ち悪さがなくなり、耳鳴りも目眩も解消した。
ボーッと部屋を見渡すと明らかにセルの邸宅じゃない。

「セル⋯⋯」

「大丈夫か?」

「うっ、うん⋯⋯。ここどこ?」

「パリのホテルだ」

「えっ⋯⋯」

「殺されそうになっていたからな。強制的に転移させた」

「そう、そうなのっ、いきなり変な男が銃を撃ってきて⋯⋯。私の事⋯⋯、魔女って言ってた。悪魔と契約しているから、私って魔女なのかな⋯⋯?」

「悪魔と契約している女性を魔女と呼ぶならば、そうだろうな」

「魔法使えないのに⋯⋯、魔法が使えない魔女なんて、なんかヤダ。また襲われたりするのかな」

「ああいう神の狂信者は大勢いるからな。また襲われる可能性は充分にある。怖いか?」

「うん。怖い」

「まぁ、サーラを殺そうとした連中は始末したから、当分の間は問題ないだろう」

 セルは私が落ち着くように、頭をポンポンと撫でた。
どうしたのか、今のセルは怖いくらい優しい。

「そっ、そうなんだ⋯⋯⋯⋯。あっ、そうだ、運転手さん! 運転手さんが撃たれて倒れたのっ。どうしようっ、セル」

「問題ない。死んではいない」

「運転手さん大丈夫なんだ⋯⋯。それなら良かった⋯⋯」

「それでせっかくフランスに来たんだ。後で散策でもするか?」

「うん。私、フランスに初めて来たから色々と観光したい」

 セルは私にホットココアを渡してくれた。
一口飲むと、優しい甘さが口の中に広がり、同時に恐怖で冷たくなっていた身体が暖かくなった。
ほんとどうしちゃったんだろう⋯⋯、セルが優し過ぎて怖いんだけど。

 ホットココアを飲み干し、一息つくと、私とセルはパリの街へ繰り出した。
まずはショッピング。
相変わらずセルは高級ブテックでたくさん買い物をし、そこでセルが購入した黒のワンピースとハイヒールに私は着替えさせられた。

 少しセーヌ川沿いを歩いたが、ハイヒールのせいですぐに足が痛くなり、早々にレストランに向かった。
レストランは、豪華なシャンデリがいくつも垂れ下がり、至る所に価値がありそうな美術品、絵画が飾られてある。

 レストランの席に着くと、セルが適当にシャンパンを注文し、その後、続々とコース料理が運ばれてきた。
料理はどれも絶品で、その料理に合わせてワインもセルが注文し、気付いた時には、私はかなり酔っ払っていた。
人生でお酒を一番飲んだに違いない。

 セルは、私とは違い、全く酔っていない。
相変わらず、セルは食べる姿も、ワインを飲む姿も様になってて恐ろしくカッコいい。
スマートにフランス料理やワインをフランス語で注文出来てしまうのも、カッコいい⋯⋯。
そんなセルを見るたびドキドキしてしまう。
あぁ⋯⋯、私はもう堕ちちゃったんだ⋯⋯、私はセルに恋しちゃってるんだ。

「顔が異様に赤いぞ。かなり酔ったようだな」

「うっ、うん⋯⋯」

 どうしよう、セルに恋してるって認めたら、何故かセルの顔を直視できない。
これから私、どうセルと接したらいいんだろう。
そういえば、日本にいる姉も、強大な力を持つ物の怪と、主従契約を結んでいた。
もちろん主は姉だけど⋯⋯。
いつだったか私は姉にその物の怪についてどう思っているか聞いたことがある。
姉はそんな私の質問に対してニッコリを笑い、「もちろん愛しているわ。だからここまでやってこれたの。ただ、夫婦愛や家族愛と言った人間同士の愛情とは別の愛情なのかもしれないわね」と言っていた。
そんな姉はいつも幸せそうだった⋯⋯。
悪魔と契約した私だけど、私だって幸せになりたい。

「セル、私、決めた!」

「何を決めたんだ?」

「私、セルのこと愛してみる」

 そう私が言った瞬間、セルはお腹を抱え笑いを堪え始めた。

「どうして、笑うの?」

「サーラがおかしな事言うからだ」

「おかしくなんてない。私は⋯⋯、私はセルに恋してるんだと思う。だけどこの感情は、LOVEじゃなくLIKEだと思う」

「ふーん、それで今と何か変わるのか?」

「ええ、間違いなく変わるはず。私はセルのこと愛を持って接するし、セルにも愛されるよう努力する」

「俺がサーラを愛するようにするのか、それは難儀だな」

「でも、セルだって私の事嫌いじゃないでしょ? どちらかと言えば好きでしょ?」

「確かに、そうだな」

「その好きを愛に変えるの。私、頑張る」

「そうか、頑張れ。まぁ、せっかくだからその決意を表して乾杯でもするか」

 セルは新たに貴腐ワインを注文し、私達は乾杯した。
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