【R18】悪魔に魅入られて

夾竹桃

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調査(4)

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 セルは5種類の蜂蜜の評論をタブレットPCに打ち込み終わると、それを見計らったように執事のブレオが部屋をノックした。

「ブレオでございます。紅茶をお持ちしましたので中に入ってもよろしいでしょうか?」

 ブレオさんは、先程の出来事がまるで何もなかったように振る舞う。
ついさっきまで身体がボロボロだったのに⋯⋯。
驚異的な回復力だ。

「あぁ、入れ」

 セルも普通に返事をする。
どうやらもう怒っていないらしい。
悪魔って意外に根に持ったりしないんだな。

 ブレオさんは書斎に入ると、じっと私を見つめる。
私は破れたワンピースの胸元を手で覆い隠し、ブレオさんに背を向けた。
けれど、まだブレオさんの視線を感じる。
相変わらず、ブレオさんは気味が悪い。

「本日の紅茶はアールグレイです」

「いい匂いだ」

「天然香料100%の最高級茶葉を使用しています。サーラ様もどうぞお召し上がりください」

 ブレオさんはソファー脇にあるサイドテーブルにティーカップを置く。
チラリと見てみたけど、相変わらず高級そうなティーカップだ。

「ありがとうございます」

 私は蜂蜜を舐めすぎたせいで、喉が渇いていた。
だから早速、その高級そうなティーカップを傷つけないように慎重に飲む。

「サーラ様、先程は本当に申し訳ございませんでした。イク一歩手前を邪魔してしまい、心から反省しています」

「⋯⋯、もう、そういう話はいいですから。そんな事より盗撮してるって本当なんですか?」

「ええ、しています。セル様のお叱りをかい、大切な動画を半分ぐらいは消失してしまいましたが、一番大切なコレクションは無事でした。サーラ様のイク顔だけを集めた写真集です。見たいですか?」

「見たくないに決まってるじゃないですかっ! いい加減にして下さい。一刻も早く盗撮カメラを撤去して下さい」

「嫌です」

「⋯⋯、セル、ブレオさんに撤去する様に言ってっ!」

「そんなに嫌か?」

「嫌です。すっごく嫌です」

「そうか、なら撤去はさせない。サーラはマゾだから、嫌がる事をする方が興奮して濡れるだろう」

 そうだった、そうだった⋯⋯。
セルはSだから、嫌がるは私を虐めるのが好きなんだった。
この話はこれ以上すると私が不利になる気がする。
だから私は口をつぐんだ。

「セル様、ありがとうございます。今度ぜひ私のコレクションを見てください」

 ブレオさんは、セルに盗撮が認められて嬉しいのか、ニタリと気持ち悪い笑みを浮かべ、書斎から出て行った。
私は最低最悪な気分だ。
でもこうなったら実力行使で、盗撮カメラを見つけて、破棄してしまおう。
となるともう自分の部屋に戻りたい。
シャワーも浴びたいし。
あっ、でもその前にセルにお願いしたい事があったんだった。

「セル、実はお願いがあるんだけど⋯⋯」

「なんだ?」

「学校帰りに、友達とお茶したりしたいんだけど⋯⋯、ダメかな?」

「駄目だな」

「1時間くらいお茶するだけなんだけど、それでもダメ?」

「駄目だ」

「どうして駄目なの?」

「サーラ、昨日誘拐されただろう? お前はある意味有名人だからな。これからもそういう危険が起こりうる。だから外でお茶なんかしては駄目だ」

「⋯⋯そうでした、誘拐されました。誰かに頼まれて私を誘拐したみたいだけど、誰に頼まれたんだろう⋯⋯。セル、分かったりする?」

「グレースだ」

「えっ、ええーーー! 酷い。酷すぎるっ。いくら私が邪魔だからってそんなことまでするなんて⋯⋯」

「あぁ、グレースは欲望に忠実な女だからな。色んな悪事に手を出している。まぁ、そこがグレースの良いところでもある」

「良いところって、全然良くない! 今すぐにグレースさんを追い出してよっ」

「慌てなくても、そのうちいなくなるさ」

 セルは、自信満々に答える。

「グレースさん、また私に何かしてこないかな。怖いんだけど」

「心配するな、もう誘拐などさせない。お前に恐怖を与えることができるのは、俺だけだからな」

 ええっと、セルが私の事守るから大丈夫だ、って言う解釈でいいのかな。
いいんだよね⋯⋯。
何か、間違っている気がするけど。

「私、そろそろ部屋に戻る。シャワー浴びたいし」

「シャワー浴びたら戻ってこい」

「どうして?」

「サーラの大学の成績を確認したが、最低だな。だから俺自ら、少し勉強を見てやる」

 最低じゃないし。
良くもないけど悪くも無いはず。
セルに勉強を見てもらうなんて、嫌な予感しかない。
けれど、ここで反論する方が事態を悪化させる気がする。
ここは素直にセルの言葉に従った方が良さそうだ。

 私は自分の部屋に行き、ブレオさんが設置したかもしれない盗撮カメラを探しつつ、シャワーを浴び、服を着替える。
けれど、どこを探しても盗撮カメラは無かった。
私の部屋にも絶対に盗撮カメラを取り付けてあると思ったのに⋯⋯。
あまりに時間がかかり過ぎるとセルから小言を言われそうなので、私はカメラ探しは諦め、素早く大学の資料を揃えて、再度セルがいる書斎へ赴いた。

 セルは、私が部屋に入ると、ここに座れと椅子をポンポンと叩く。
私は素直に、その椅子に座り大学の資料を開く。

「確か、サーラは建築学を専攻していたな。具体的に建築学の何を学んでいる?」

「中世から近世に掛けての建築史です。お城が大好きなんです」

「そうか、なら実物を見た方が早そうだな。2、3日後に行くとしよう」

「えっ⋯⋯、どこに?」

「城だ」

「えっと⋯⋯、どこの城?」

「俺の城」

「嘘っ⋯⋯、セルってお城持っているの?」

「当たり前だ」

「行く⋯⋯、行きます。是非とも行かせて下さい!」

「嬉しそうだな。じゃあ行く前にこの本を読んでおけ」

 セルは私に分厚い、いかにも難しそうな本を1冊手渡した。
チラッと中身を確認してみたけど、ほぼ文字しかない。
建築史の本は通常、写真とかイラストとか盛り沢山なのに⋯⋯。

「はい、頑張ります」

 私は城が見られる事の嬉しさから意気揚々とセルに大手を振って返事をした。

「あぁ、頑張れ。城に到着したらその本から問題を出す。答えられなかったら、分かってるよな?」

「お仕置きですか⋯⋯」

「そうだ」

 それから私は、セルから貰った本を英和辞典片手にひたすら読みまくる。
セルは隣でパッドやPCを見ながら仕事をしていて、時たま、頭を抱え込んでいる私に対し、適切な助言をくれる。
意外にもセルは建築学にも造詣が深いようだ。
だから私はセルの隣で何時間も本を読んだ。
途中、ブレオさんが夕食を持って来てくれたので少し休憩したが、それ以外は集中して本を読んでいた。

 そう、私は集中して本を読んでいたはずなのに⋯⋯、気付けば爆睡していて、今はもう夜中の2時。
私は自分の部屋のベットで知らない間に全裸で寝ていた。
私の服を脱がせたのは恐らくセルだろう。
あんなにも意気込んでいたのに、あっさりと寝てしまった私に対して、セルは幻滅したに違いない。
自分でもほんと情けないと思う。

 言い訳がましいと思いつつも私は、ベッドまで運んでくれたお礼と、寝てしまった弁明をセルにしようと思い、ベッドから起き上がりネグリジェを着た。
すぐにセルがいるであろう書斎へ向かったけれど書斎は真っ暗でセルはいない。
代わりに会議室の明かりが灯っていたので、私は躊躇う事なく、ノックもする事なく、扉を開いた。
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