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一章 死亡確率99%の少女
第一話
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『─本日、七月二十四日は快晴が続き、また、今週いっぱいも真夏の暑さが続く一週間となるでしょう。夏バテや脱水症状には十分に注意して…』
狭い一人部屋で目を覚ます。
淡々と夏の残酷を突きつけてくるニュースキャスターに、睨むような視線を投げつけるが、届くはずもなく言葉は続けられる。そのまま逸らした視線の先では、言葉通りの空を切り取ったような一面の青が、窓越しから視界に入る。
「…何するんだっけな」
なんだか長い夢を見ていたような気がして、窓の外を眺めてしばらく黄昏れる。
ハッとして、学校に行く用事を思い出した。制服に着替えて駐輪場に向かう。
改めて空を見渡すけれど、やはり雲は見つからない。見つけたところで蒸し返るような暑さは変わらないだろうけど、せめて快晴は否定してやりたいという期待があった。たった今、その期待も破られたわけだが。
自転車のスタンドを蹴り倒し、学校までの道を走らせる。もう夏季休業が始まって数日たつというのに、その分の課題を受け取りにわざわざ登校しなければならない。すべては前日に休んだ自分自身に非があるのだが。
その面倒を煽るかのように、蝉は騒がしく鳴いていた。
「─まったく。去年もだろ、伊織」
「はい、すみません…」
「自分のためにも、今後は気をつけなさい」
生徒指導に厳しいメガネの担任から、小言と共に課題を受け取り、そそくさと職員室を出る。
いざ校舎を去ろうと廊下を歩いていると、昇降口の人影が目に留まった。
それは、遠目でも目立つ艶やかな黒髪に、華奢なシルエット。近づくほどにはっきりしていく可憐な瞳は、見ているだけで引き込まれてしまう。
高校2年生になった今までで、見覚えのない存在だった。転入生だろうか。
その、"もしかして転入生"の視線がこちらに気づいて、胸のあたりで小さく手を振ってくる。何かの勘違いだろう。そのまま歩き横を通り過ぎて行くが、彼女はこちらに駆け寄って…初対面早々、口を開いてこう言った。
「おはよう、伊織君」
たった十文字にも満たない言葉だが、俺を混乱させるには十分だった。"もしかして転入生"に、もしかせずとも馴れ馴れしく名前を呼ばれることはあるのだろうか。それとも、"もしかしてストーカー"!?
迷った結果、自分が忘れているだけという結論に至り、その"もしかして失礼"な事態を回避することにした。
「あ、あぁ、おはよう。俺はもう帰るところだけど」
「そかぁ。丁度良かった。私も今帰りだし、一緒に帰ろっか」
「は…?」
話を進める彼女だが、ますます混乱できそうな提案なので、申し訳ないが断る理由を探っていく。
「悪いけど、このあとバイトがあるから急いでる」
「あー、急いじゃだめだよ。それに、バイト先までは歩いても十分かからないでしょ」
「いや、それはそうだけど。いや、それをどうして」
「いいからいいから」
「えーっと、眠い。せめて教室で寝てから」
「だーめ。と、に、か、く。私についてきてもらいます。大丈夫、バイトには遅れないから」
半ば強引に手を引かれるようにして、不思議な彼女と校舎を飛び出した。
眩しい光が瞼をかすめる。
今日、七月二十四日、二度目の快晴の下。
それは、『他人の死亡確率が見える』俺が、偶然にも出会ってしまった、『死亡確率、99%』の少女との出会いから始まった。
狭い一人部屋で目を覚ます。
淡々と夏の残酷を突きつけてくるニュースキャスターに、睨むような視線を投げつけるが、届くはずもなく言葉は続けられる。そのまま逸らした視線の先では、言葉通りの空を切り取ったような一面の青が、窓越しから視界に入る。
「…何するんだっけな」
なんだか長い夢を見ていたような気がして、窓の外を眺めてしばらく黄昏れる。
ハッとして、学校に行く用事を思い出した。制服に着替えて駐輪場に向かう。
改めて空を見渡すけれど、やはり雲は見つからない。見つけたところで蒸し返るような暑さは変わらないだろうけど、せめて快晴は否定してやりたいという期待があった。たった今、その期待も破られたわけだが。
自転車のスタンドを蹴り倒し、学校までの道を走らせる。もう夏季休業が始まって数日たつというのに、その分の課題を受け取りにわざわざ登校しなければならない。すべては前日に休んだ自分自身に非があるのだが。
その面倒を煽るかのように、蝉は騒がしく鳴いていた。
「─まったく。去年もだろ、伊織」
「はい、すみません…」
「自分のためにも、今後は気をつけなさい」
生徒指導に厳しいメガネの担任から、小言と共に課題を受け取り、そそくさと職員室を出る。
いざ校舎を去ろうと廊下を歩いていると、昇降口の人影が目に留まった。
それは、遠目でも目立つ艶やかな黒髪に、華奢なシルエット。近づくほどにはっきりしていく可憐な瞳は、見ているだけで引き込まれてしまう。
高校2年生になった今までで、見覚えのない存在だった。転入生だろうか。
その、"もしかして転入生"の視線がこちらに気づいて、胸のあたりで小さく手を振ってくる。何かの勘違いだろう。そのまま歩き横を通り過ぎて行くが、彼女はこちらに駆け寄って…初対面早々、口を開いてこう言った。
「おはよう、伊織君」
たった十文字にも満たない言葉だが、俺を混乱させるには十分だった。"もしかして転入生"に、もしかせずとも馴れ馴れしく名前を呼ばれることはあるのだろうか。それとも、"もしかしてストーカー"!?
迷った結果、自分が忘れているだけという結論に至り、その"もしかして失礼"な事態を回避することにした。
「あ、あぁ、おはよう。俺はもう帰るところだけど」
「そかぁ。丁度良かった。私も今帰りだし、一緒に帰ろっか」
「は…?」
話を進める彼女だが、ますます混乱できそうな提案なので、申し訳ないが断る理由を探っていく。
「悪いけど、このあとバイトがあるから急いでる」
「あー、急いじゃだめだよ。それに、バイト先までは歩いても十分かからないでしょ」
「いや、それはそうだけど。いや、それをどうして」
「いいからいいから」
「えーっと、眠い。せめて教室で寝てから」
「だーめ。と、に、か、く。私についてきてもらいます。大丈夫、バイトには遅れないから」
半ば強引に手を引かれるようにして、不思議な彼女と校舎を飛び出した。
眩しい光が瞼をかすめる。
今日、七月二十四日、二度目の快晴の下。
それは、『他人の死亡確率が見える』俺が、偶然にも出会ってしまった、『死亡確率、99%』の少女との出会いから始まった。
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