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第6章 三帝激突

ウムルの戦い その1

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 12月1日―

 惑星レーマースタインから、西に通常航行で1日の場所にあるガス惑星バートウーラ宙域に、1日半を掛けてエドガー艦隊は到着していた。

 それは誘引目標であるライヒェルト艦隊が、別動艦隊にエドガー艦隊の前方に回って挟み撃ちにするために、意図的に船速を抑えていたからである。

 だが、この広大な宇宙空間で、偵察艦を含めた索敵に気付かれずに周り込むには、それなりの時間が掛かり、そのため1日半も時間が掛かったのであった。

 その別動艦隊は司令官リッシェ少将に率いられ、エドガー艦隊から見て進行方向の斜め右(一時の方向)30万キロの地点まで迫っていた。

「前方の偵察艦より報告。敵艦隊は30万キロの地点をロイトリンデンの方向に、前進中とのことです」

「よし、全艦攻撃準備!」

 攻撃準備を命じるリッシェ少将に、オペレーターから立て続け様に報告が入る。

「後方の偵察艦より通信! 敵艦隊接近! 距離は約25万キロ! 艦数はおよそ2000隻!」

「何故、その距離まで気付かなかった!? 何のための偵察だ!」
「どうやら、敵はステルス艦のようで、レーダーに映らなかったそうです!」

「ステルス艦隊だと!? 馬鹿なその艦隊は、報告では合同演習に参加して、今頃はカレイからこちらに向かっている最中ではないのか?!」

 前回の戦いの報告書にステルス艦隊の事は記載されていたが、まだ到着しないという計算であったため、その存在を警戒していなかった。

「我々の計算を越えた行軍速度で来たのか、別の艦隊かはわかりませんか、解っていることは、このままでは逆に我が艦隊が挟み撃ちに遭ってしまうということです!」

「そんな事は、解っている!」

 だが、最大船速で迫るロイク艦隊は、リッシェ少将に熟考の時間を与えない速度で、迫ってきている。

 彼がこの状況で取りうる手は、麾下の艦艇3000隻の内2000隻でロイク艦隊と戦って、残り1000隻をエドガー艦隊に差し向け本隊と挟み撃ちにして、エドガー艦隊壊滅後に合流してきた本隊と一緒にロイク艦隊を撃滅する。

 交戦を一切避けて本隊と合流する。この2つである。

「エドガー艦隊に暗号通信を送れ。<予定通り、これよりツンデレ義妹モノを見るwww>だ」
「はっ」

 ゲンズブールは、もう何も言わず無心で暗号通信を送った。
 因みに暗号文の内容は、<予定通り、敵別動艦隊に攻撃を仕掛ける>である。

 その頃、エドガーの元にも前方の偵察艦から、敵の別働隊3000隻発見の報告が入り、その後に例の暗号通信が入る。

「 ―だそうです…」

「よし、速度を第二戦速に上げ、艦隊の進路を敵の別動艦隊に向けろ。後方の敵艦隊と距離を開けて、挟み撃ちを防ぎつつ別動艦隊の後方を叩く!」

 エドガー艦隊は進路を変えながら速度をあげて、ライヒェルト艦隊後方の振り切りに掛かる。

「敵艦隊が、船速をあげました。どうやら、別動艦隊に気付いたと思われます。そのため我が艦隊を振り切って、挟み撃ちを防ごうという算段でしょう」

「よし、全艦最大船速! リッシェに光信号で、<作戦通り挟み撃ちにしろ>と命じろ!」

 ライヒェルトは参謀のヴェルレの意見を聞いた後、すぐさま艦隊の速度を上げるように指示を出すが、先に加速したエドガー艦隊はその分だけ距離を稼ぐことに成功する。

 だが、これはライヒェルト達の計算の内で、エドガー艦隊が前方の別動艦隊と戦闘になれば、挟み撃ちにあわないために前進し続けながら、別動艦隊の上下左右どちらかに舵を切って、逃げなければならい。

 そうなると、例えば下方向に逃げれば艦の上部にシールドを張らねばならず、前面に張るよりエネルギーの消耗は激しくなる。

 そのため、どの方向に逃げてもエドガー艦隊は、第二戦速を維持と増えたシールドの分だけENの消耗が激しくなり、撃沈される危険性が大きくなる。

 これが例えライヒェルト艦隊が追いつけなくても、逃げる敵艦隊にそれなりの被害を出せるという計算である。

 その別動艦隊が、ロイク艦隊の奇襲を受けて、それどころではない事を知らずに。

「敵艦隊、交戦距離まであと5分!」
「全艦最大船速の後、進行方向11時に進路を転進!! 本隊と合流する!!」

 そして、そのリッシェ少将は“このまま最大船速で本隊と合流する”という艦隊の被害を一番軽微に抑える策を選択していた。

 彼がこの策を選んだ理由の1つは、別動艦隊は回り込むという任務の性質上から、船速の速い巡航艦と駆逐艦で編成されており、火力はともかく防御が低くいため敵の編成次第では、同数でも撃ち合えば撃ち負ける可能性は高い。

 そして、何より前方のロイク艦隊が横陣でありながら、最大船速であるにも関わらず陣形が乱れずに進軍しているのを見て、敵の手腕と練度の差に不安を感じたからであった。

(敵艦隊は、見事な練度だ。これでは、練度の低い我が艦隊では、同数でも勝てないかも知れない…)
 ロイクは変態紳士であるが、純粋な戦術家・指揮官としての現在の順番は、ヨハンセン>フラン≧ロイク>>ルイ>リュスとなっており、その彼の軍事的手腕はリッシェではとうてい及ばない。

「撃て!」

 ロイクは、高速戦艦が敵艦隊の後方にいる艦を射程距離に捉えると、容赦なく攻撃命令を出す。

「敵の戦力を削れるなら、削っておくに越したことはない。ただし、今回は削り過ぎては困るがな」

 ロイク艦隊の高速戦艦は、逃げる敵艦隊の後方の数隻にビームを集中させて、少しずつ撃沈させていく。

 そのため本隊から、挟み撃ちを指示する光信号が送られて来たが、リッシェ少将は敢えて無視して合流を急ぐ。

「閣下。敵の別動艦隊は我が艦隊1時の方向を、敵本隊に向けて移動中です」

「窮鼠猫を噛むというからな。放っておいて、このまま前進を続ける。それに我が艦隊も後方の艦隊から逃げるのに必死で、そんな余裕はないからな」

 エドガーは、自艦隊の進路上から逸れていく敵艦隊を、放置してそのまま前進を続ける。

「エドガー艦隊は、そのまま前進するようですな」

「それがいいだろう。ツンツンの時にツンデレの相手をするのは、得策ではないからな。デレるまで待つべきだ。」

「はあ、そうですな…」
(何言っているんだ、この人?)

 ゲンズブールは、ロイクの理由の分からない例えに、心の中で突っ込みながら、自分達も撤退する時期だと進言する。

「閣下。我が艦隊もそろそろ…」
「そうだな。全艦速度を維持しながら、反転開始せよ」

 ロイク艦隊は速度を維持しながら、前進してくるライヒェルト艦隊に補足される前に、∪ターンするとロイトリンデン方面に撤退を開始する。







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