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第5章 Vive L'Empereur(皇帝万歳)

予期せぬ要件 その1

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 入院してから約1週間が経ち、ルイは容態がかなり回復し暇を持て余し始める。

 そこで以前より、暇がなく中断していた小説の執筆を再開させようと思い、暇な時間はベッドに設置されたスライド式の食事を摂る為の机の上に、自分用の携帯端末を置きコンソールを叩いていた。

 端末と向き合いながら、彼はある事を考えていると病室の外から、こちらに駆け足で近づいてくる足音が聞こえてくる。

「フラン様か… 今日こそ話をしよう」

 ルイは打ち込んでいた文章をセーブすると、端末の電源をスリープにして、机と共にベッドの外にスライドさせると、フランがノックもせず病室だというのに扉を勢いよく開け、入室してくる。

「フラン様、そんなに慌ててどうしました?」

 彼の言う通り、入室したフランは彼女にしては珍しく冷静な表情ではなく、慌てて来たのか肩で息をしており、余程重要かつ緊急な要件で来たに違いない。

 ルイは一体どんな要件のかと固唾を飲むと、フランから語られた訪問の内容はこのようなものであった。

「ルイ!! オマエ、ガチムチに転んだりしないよな!?」
「突然何を言い出すんですか!?」

 全く以て要領の得ないその質問に、流石に優秀なルイも困惑する。

 フランは取り敢えず落ち着くようにと、ルイにベッドの近くにあるフラン専用の椅子に座るように促され、その座り心地のよい椅子に座る。

 ルイの病室には、医療従事者以外には基本面会者はフランだけであり、そのため彼女専用の椅子が用意されている。

 彼不在の艦隊運営を任されている、アナクレト・シャルトー准将とナルシス・クラヴェル代将が稀に来るが、ルイに負担を掛けてはいけないと5~10分くらいしか面会できないため、主にモニター越しで指示を仰ぎこれも10分ぐらいである。

 因みにフランとの面会は負担になるはずがないので、特別に10分以上面会しても良いことになっている…

 フランからクレールとのやり取りを聞かされたルイは、少し呆れながらこう答える。

「安心してください! 僕は女の子のほうが大好きですから!」

 そうキリッと答えたルイであったが、すぐさま言葉足らずであった事を後悔する。

「おい、ルイ… 『僕は女の子のほうが大好きです』とは、どういう事だ? オマエ、女の子はみんな好きとかいう軽薄な事を、私に公言しているのか?」

 フランは例の怖いヤンデレ目で、ルイを問い質す。
 その怖い目が、ルイの負担になるであろうことを想像もせずに…

「そこは、『女の子のほう』では無く… その… あの… 『フラン様が好き』だろうが… ゴニョ ゴニョ……」

 そして、フランは椅子に座りながら、胸の前辺りで両手の人差し指の先端を合わせ、ルイから視線を逸しモジモジしながらそう言葉を発するが、<その… あの…>のあたりから、恥ずかしさで声が極端に小さくなって、ルイには全く聞き取れない。

 そのあと、いつものように他愛もない会話を20分程おこなう。

 といっても、主に会話するのはフランであり、会話のキャッチボールというよりフランが一方的に10個程ボールを投げつけてきて、ルイが1~2個返球している間に、更に10個程投げつけられるという図式である。

 散々喋って満足したフランが休憩していると、意を決したルイは遂に彼女が入室する前に話そうとしていた事を話し出す。

「フラン様…… お話があります… 」
「どうした?」

 神妙な面持ちで話し始めたルイの表情を見て、聡明なフランはその内容が重要なものであると直ぐに察して、表情からは先程までの笑顔は消え自然と緊張した表情になってしまう。

「フラン様……   僕は帰国したら、軍を除隊しようと思っています」

「?!」

 突然のルイの告白は、フランにとってはまさに青天の霹靂であり、鋭敏な頭脳を持つ彼女ではあったが、その言葉の意味を理解しきれずに言葉を返す事もできずにいる。

 彼はそんなフランを尻目に話を続ける。

「以前から考えていた事だったのですが、入院中に考え続け今回の負傷を期に除隊することを決意しました」

「はあ?! オマエ… 何を言っているんだ…? 」

 ルイはフランを置き去りにして話を進める。

「三年間の兵役義務のうち僕は後1年ありますが、今回の戦傷で傷痍除隊できるでしょう。これなら、ノブレス・オブリージュによる義務も問題ないでしょう」

 戦傷からの心的外傷後ストレス障害(PTSD)による人権問題もあって、戦況が優位な間は戦傷による傷痍除隊の規制は緩く、ルイの傷痍除隊も許されるであろう。

「軍を辞めた後は領地に戻って、公務員になった後にフラン様も御存知のとおり、小説家を目指そうと思っています」

 彼の今後の予定の内、小説家になれるかは未知数であるが、公務員は恐らく優秀なルイなら、フランの妨害が無ければなれるであろう。

「待て! 勝手に話を進めるな!!」

 フランは少し発狂気味に、そう言い放ってルイの話を制止する。

 まだ混乱して、事態を整理しきれていない頭から発せられたその言葉は、いつも冷静なフランからは想像もできない論理も何も無いもので、彼女がルイの発言を受け止めきれていないことがわかる。

 ルイもそれが解ったので、フランが落ち着くのを待つことにした。
 この件は、冷静な彼女と話し合わなければならないからだ。

 だが、この予想さえしていなかったのか、落ち着くのに時間を要してしまう。

 そのため、彼女はまだ冷静さを欠いた頭脳で、取り敢えず思いついた言葉で、ルイに真意を問い質しはじめる。

「どっ どうして、急に辞めるなんて、言い出すんだ? 今回の負傷で戦場が怖くなったのなら、後方勤務に異動すればいい。別に辞める必要はないぞ?」

 彼女の言葉どおり、ルイのような階級の高い高級軍人は、その地位から大抵はこの程度の戦傷で、除隊することはなく、例え前線での職務が困難な戦傷であっても、後方勤務への異動となるため軍を辞める者は少ない。

 それ故に、軍を除隊するということが、フランを混乱させている一因である。

 フランの質問に、ルイはこう答える。

「僕が小説家を志しているのは、ご存知ですね? その目標に邁進したいのです」
「軍人を続けながらでも、小説家は目指せるではないか!?」

 彼女の言葉のとおり、軍人を続けながらでも、時間はかかるが小説家は目指せる。

 現にルイは、保険として公務員になるつもりで、先程もそう発言しており、冷静なフランならそこを突けたであろう。

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