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第4章 第一次対大同盟戦
ベシンゲンの戦い 01
しおりを挟む「レズェエフから、何か報告はあったか?」
「いえ、追撃中とだけです」
「そうか。では、我が艦隊も追撃を開始する」
プリャエフ大将は基地に食料を運び込ませると、追撃部隊に遅れること1時間で惑星バルトドルフ宙域を進発してロイク艦隊の追撃に入る。
追撃するには少し遅すぎるが、それには理由がある。
彼がこれほど油断しているのは敵艦隊3000隻に対して、追撃部隊に5000隻を差し向けており、更に惑星ベシンゲンまでは、暫く広大な航路が続いており、索敵を怠らなければ不意打ちを受けることも待ち伏せを受けることもないはずである。
そして、レズェエフ少将には惑星ベシンゲンの先にある狭小航路には、敵が待ち伏せをしている可能性が高いので侵入せずに引き返すように命じている。
そのためプリャエフ大将は、多少遅れても大丈夫であろうと楽観的に考えていた。
だが、彼は知らなかった。
敵がこの時代で最高の智将と鬼才であることを…
その頃、惑星ベシンゲンまで200万キロの宙域―
レズェエフ少将率いる追撃艦隊は、ロイク艦隊に追いつくことが出来ないまま、1日近く何事も無く追撃を行っていたが、ここで星系図に進行方向右側100万キロ先に半島のように突き出した小惑星帯があることに気付く。
「閣下。この小惑星帯の向こう側に、敵の伏兵がいるかも知れません」
「そうだな… 警戒しながら進め。あと、このまま進めば小惑星帯を横切る時、どのくらいの距離が空いている?」
司令官の質問に、オペレーターはコンピューターで計算した答えを伝える。
「約23万キロといったところです」
「念のために小惑星帯より30万キロ距離を取る。艦隊の進路を修正せよ」
レズェエフ少将がそう命じたのは、それだけ離れれば例え敵が小惑星帯の裏に隠れていても射程圏外であるために、不意打ちを受ける前に対応できるからである。
万全を期すためにもう少し離れたいところではあるが、そうなると自分達は斜めに進み余計な距離を進む事になり、直進するロイク艦隊に逃げられる可能性がある。
そうなれば、折角の功績を立てる機会を失ってしまう。
小惑星帯の手前50万キロまで近づいた時、追撃艦隊は小惑星帯から30万キロ離れる航路に乗ったが、ロイク艦隊との距離は30万キロまで広がっていた。
だが、レズェエフはさほど焦ってはいなかった。
何故なら、バルトドルフから進路を修正するまでの追撃で、30万キロから24万キロまで距離を詰めていたので、今回も追いつけると予想していたからである。
「小惑星帯の向こう側に、待ち伏せはいないのか?」
「いないそうです」
天頂方向に配置された偵察艦が、小惑星帯の向こう側を索敵するが、艦影は一隻も見当たらなかった。
報告を受けたレズェエフは、伏兵がいるのではないかと緊張していたが、肩透かしを食らった気がした。
そして、それは追撃艦隊全体にも漂い始めていた。
追撃を行っていたレズェエフの艦隊は、見通しのいい宙域を航行していたとはいえ敵の待ち伏せ、あるいはロイク艦隊が急速反転して攻撃を仕掛けてくるのではないかと常に緊張感を持って丸一日追撃を続けていた。
そのため、追撃艦隊はこの絶好の待ち伏せポイントに敵がいないことで、もしかしたら敵の待ち伏せは無くただ逃げているだけではと考え始めるようになる。
レズェエフの思考は、敵の待ち伏せをすっかり軽視して、逃げる敵艦隊に追いつけるかどうかになっており、ロイク艦隊との距離は28万キロまでしか縮まってはおらず、ここに来てレズェエフは少し焦りを感じていた。
「あと、100万キロか… 追いつけるか…」
そして、狭小航路が100万キロまで迫ってきて、惑星ベシンゲンに差し掛かったその時、そこに敵艦隊接近のアラート音と共に偵察艦から敵艦隊来襲の報告が伝えられる。
「偵察艦より通信。前方30万キロに敵艦隊2000隻がこちらに接近とのことです。予想接触時間はおよそ10分!」
それは、待ち構えていたヨハンセン艦隊で、艦隊は横陣のまま最大船速で前進してきている。
「敵は合わせて5000隻、対する我が艦隊は5000隻であり、数の上では互角です」
彼は数の上では互角の敵と戦うか、逃げるかの選択に迫られるが、敵が同数である以上、彼の選択肢は1つしか無かった。
(同数の敵を相手に、一戦も交えずに逃げたとあっては、私の軍人としての名誉に傷がつく)
「全艦減速、敵と接敵する前に陣形を横陣に変更する。急げ!!」
レズェエフは艦隊に減速の命令を下して、船速を微速にして陣形の変更を始める。
「閣下の予想通りに、敵は作戦通り会戦を選びましたわね」
戦術モニターを見ながら、シャーリィがヨハンセンにどうして敵が会戦を選ぶことを予想出来たのか尋ねると彼は冷静にこう答える。
「ここまで丸一日半、逃げる敵艦を追いかけてきた司令官だからね。高い確率で同数の敵艦隊相手なら、功績欲しさに逃げはしないと予想しただけです」
追いつけるかどうか怪しいこの状況で、消極的で欲の無い指揮官なら、もっと早く追撃を断念して撤退していたであろう。
だが、ここまで追撃を続けてきたという事は、少なくとも功績を上げたいという欲があるということであり、同数なら戦いを選ぶであろう。
それに、同戦力で一戦も交えず逃げることは後で非難の対象になる可能性が高く、功績を求める司令官がその可能性を無視する事は少ないとヨハンセンは推察していた。
「敵は会戦を選んだようですな」
戦術モニターを見てゲンズブール准将がそう口にすると、
「どうやら、敵の司令官はこの状況が互角だと判断したようだな」
ロイクは少し笑みを浮かべながらそう呟くと、指揮席を立ちすぐさま指示を出す。
「では、我らも配置につくとしよう。全艦進行方向右に急速回頭!」
ロイク艦隊は進行方向右に“「“の字を描きながら移動を開始させ、レズェエフ艦隊の右斜め前方21万キロに縦陣の状態で停止させると90度回頭させ横陣に素早く陣形変更する。
「全艦斉射三連!」
ロイク艦隊は司令官の攻撃命令で、レズェエフ艦隊が陣形を変更している左翼に先制攻撃を開始する。
こうして、ベシンゲンの戦いの幕は、ロイク艦隊の砲火で切って落とされた。
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