70 / 154
第3章 北ロマリア戦役
パドゥアの戦い 06
しおりを挟むこうして、両軍は主力対主力の激突となったが、戦力差ではガリアルムが優勢である。
主力部隊同士は6000隻対6000隻であるが、最右翼のルイ艦隊が1500隻に対して、敵の最左翼は1000隻である。
主力の右に配置しているワトー艦隊は800隻で、対峙している敵艦隊は老朽艦とはいえ1000隻で構成されて数の上では不利であるが、両艦隊は階段状で主力部隊より後方にいるために、交戦距離が離れており、何より敵の老朽艦は戦闘する意志が低下しているために、主力部隊の援護をするかどうかは怪しい。
敵が主力部隊以外を1000隻単位で配置したのには理由があり、それはロイク艦隊1000隻の存在である。
ステルス艦隊は惑星チェセーナで奇襲を仕掛けて来て以来、そのステルス性を活かしてレーダーに補足されずに自艦隊を追跡してきており、この戦いの最中に奇襲してくるとアルデリアン大将達は推測していた。
ロイク艦隊がどの艦隊を襲うか解らないために、襲撃を受けた時に対抗できる同数の1000隻で構成しておかなければならず、そのために主力の横の艦数を多めにして、援護させるという策を取ることが出来なかった。
そして、ロイク艦隊の存在は更にロマリア侵攻艦隊司令部の計算を狂わせる一因となる。
「敵艦隊との距離約2万1千キロです!」
「撃て…」
オペレーターから交戦距離に入った報告を受けたヨハンセンは、フランとは逆に戦意高揚している様子もなく至って冷静な声で艦隊に攻撃命令を出す。
彼が冷静なのは性格でもあるが、これから自分の命令で敵味方に多くの犠牲者がでる、そう考えると気分が高揚することなどなかった。
「敵艦隊を突破する、撃て!」
アルデリアン大将は自艦隊の主砲の射的距離、2万キロにヨハンセン艦隊を捉えると攻撃命令を下す。
「閣下、敵の最左翼艦隊が射程距離に入ります」
「全艦、攻撃開始」
ルイはシャルトー大佐の報告を受けると、ヨハンセンと同じ様に冷静な声で攻撃命令を下す。理由はヨハンセンと同じである。
遂に両艦隊の間でビームのやり取りが開始される。
無数のビームが宇宙空間を行き来する度に、両艦隊の艦のシールドに当たり、眩しい光を発する。
そして、シールドがその光を発せなくなった時、その艦は船体をビームで溶解され、それが続けば艦は爆散して、文字通り宇宙の藻屑となってしまう。
戦闘開始15分―
ヨハンセン艦隊の後方にいたフラン艦隊が、ヨハンセン艦隊の天頂方向に移動して、突進してくるロマリア侵攻艦隊に猛攻撃を開始する。
「全艦攻撃を開始せよ! ビーム、ミサイル、レールガンを全て撃って、奴らの突進の勢いを止めよ!」
フランは戦闘における昂揚感を含んだ声で、艦隊に攻撃命令を出すが浮ついてはおらず冷静さは維持している。
フランが自艦隊に猛攻撃を開始させた時、ヨハンセンも猛攻撃を開始する。
両艦隊から無慈悲に放たれるビーム、ミサイル、レールガンが、突進してくるロマリア侵攻艦隊の主力部隊に前方と斜め上から容赦なく叩き込まれ、先頭に配置されている艦は次々と爆散していく。
「我が艦隊は、敵と同じ様に前衛艦隊の上に移動して、敵上部艦隊に攻撃を加える! 急げ!」
「ですが、閣下。それでは、我が艦隊が追いつくために、前衛艦隊の前進速度を落とさせねばなりません。そうなれば、突破するのに時間がかかってしまいます!」
司令官のアルデリアン大将の命令に、参謀のマイアー中将が直様反論を提言するが、彼にもそんな事は言われなくても解っていた。
「わかっている。だが、このままでは、前衛艦隊は前と上からの攻撃で、大損害を出してしまう! 我らが上に移動して、敵の上部艦隊を攻撃して、攻撃を抑え込まねばならん!」
だが、彼の言う通りこのまま猛攻が続けば、前衛艦隊は2艦隊の攻撃によってすり潰されるであろう。
「いくら敵が補給を整えているとは言え、このような猛攻撃を長時間続ける事はできません! ここは、もう暫く堪えてこのまま前進を続けるべきです!」
マイアー中将の推測通り、ガリアルムには後十分程しか猛攻撃を続ける物資はない。
「敵がもし我らの予想以上の補給を用意していたらどうする?! なにせ敵は、我らをこの状況に追い込むのを事前の策として用意して、見事に誘導して実行した相手だぞ!?」
「確かに…、そうですな…」
だが、超能力者ではない彼らにとってその事を知る術はなく、艦隊の運命を握る彼らとしては安全策を取るしか無く、マイアー中将は歯切れの悪い言葉で賛同すると司令官の意見に従うことにする。
これは、指揮官に従った風に見えるが、仮にこの戦いで敗北した時の責任を司令官に負わせる考えからでもあった。
ロマリア侵攻艦隊は縦陣から、ガリアルム艦隊と同じ上下二段の陣形に変更し、両軍は眼前に対峙する部隊と撃ち合うことになり、ガリアルム艦隊は猛攻撃から通常の攻撃に切り替える。
フランとヨハンセンは各々絶妙なタイミングで、猛攻撃によって物資の消耗した艦の補給ローテションをおこない敵に付け入る隙を与えなかった。
そのためにロマリア侵攻艦隊は、突破の攻勢をかけられずに微速で前進を続けながら、撃ち合いを続けるが元より物資の差があるために、徐々に攻撃力に差が現れ被害が増え始める。
戦闘が始まって30分―
「ワトー代将の艦隊に天底方向に移動して、攻撃するように伝えよ」
フランはロマリア侵攻艦隊の突進を更に抑えるべくワトー艦隊へ攻撃命令を出す。
フランの命令の元、主力部隊の斜め左後方で待機していたワトー艦隊が、天底方向に移動してヨハンセン艦隊の下に陣取り攻撃を開始する。
ロマリア侵攻艦隊主力部隊下部の艦隊は、初戦の猛攻撃で損害を受けており、このまま下方向と正面からの二方向の攻撃を受け続ければ、持ちこたえることは出来ないであろう。
「後方で待機している艦隊に、敵最下部艦隊を攻撃するように伝えろ!」
そこで、アルデリアン大将はワトー艦隊と対峙していた艦隊に、同じく天底方向に移動して攻撃するように命じる。
だが、艦隊は動かなかった、というより動けなかった。
その理由は、老朽艦で物資も主力に接収されているために戦力が落ちている今の状態で撃ち合えば、自分達が撃ち負けるのは明白で、更にロイク艦隊が未だ戦場に現れていないため、ワトー艦隊との撃ち合いの最中に強襲を受ければ、人形のような白い敵司令官が投降勧告の時に言ったように、デブリに変えられてしまうであろう。
他の老朽艦隊の司令官も援護するべきか迷ったが、自分達が動けば当然対峙している敵艦隊が相手をするために移動してきて攻撃して来て撃ち合いになる。
そこをロイク艦隊に強襲され、挟撃されれば壊滅は必至であり、そのような理由で老朽艦艦隊は司令部の命令をはぐらかしながら様子を窺っていた。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
ウイークエンダー・ラビット ~パーフェクト朱墨の山~
リューガ
SF
佐竹 うさぎは中学2年生の女の子。
そして、巨大ロボット、ウイークエンダー・ラビットのパイロット。
地球に現れる怪獣の、その中でも強い捕食者、ハンターを狩るハンター・キラー。
今回は、えらい政治家に宇宙からの輸入兵器をプレゼンしたり、後輩のハンター・キラーを助けたり、パーフェクト朱墨の謎を探ったり。
優しさをつなぐ物語。
イメージ元はGma-GDWさんの、このイラストから。
https://www.pixiv.net/artworks/85213585
かつてヒーローに憧れていた俺が怪人と戦う理由
吉津山且
SF
大学生の木村和人はある日、夢から目を覚ますと、東大付属病院の病室にいた。
昨夜の晩、和人は謎の怪人に襲われており、病院に搬送され、そこで手術を受けていたのであった。
和人の手術を担当したという神崎霞は、彼が正義のヒーローに変身することの出来る特異体質の人間であることを伝える。
和人は霞から人類の為に怪人と戦って欲しいと依頼され、協力することを了承する。
このことをきっかけに和人は怪人との過酷な戦いに身を投じることになるのだった。
これはかつてヒーローに憧れていた男が怪人との戦いを経て、成長していく物語。
※ 筆者は平成ライダーオタクです。小説内にパロディやオマージュがちょくちょく登場します。
銀河太平記
武者走走九郎or大橋むつお
SF
いまから二百年の未来。
前世紀から移住の始まった火星は地球のしがらみから離れようとしていた。火星の中緯度カルディア平原の大半を領域とする扶桑公国は国民の大半が日本からの移民で構成されていて、臣籍降下した扶桑宮が征夷大将軍として幕府を開いていた。
その扶桑幕府も代を重ねて五代目になろうとしている。
折しも地球では二千年紀に入って三度目のグローバリズムが破綻して、東アジア発の動乱期に入ろうとしている。
火星と地球を舞台として、銀河規模の争乱の時代が始まろうとしている。
第一次世界大戦はウィルスが終わらせた・しかし第三次世界大戦はウィルスを終らせる為に始められた・bai/AI
パラレル・タイム
SF
この作品は創造論を元に30年前に『あすかあきお』さんの
コミック本とジョンタイターを初めとするタイムトラベラーや
シュタインズゲートとGATE(ゲート) 自衛隊 彼の地にて・斯く戦えり
アングロ・サクソン計画に影響されています
当時発行されたあすかあきおさんの作品を引っ張り出して再読すると『中国』が経済大国・
強大な軍事力を持つ超大国化や中東で
核戦争が始まる事は私の作品に大きな影響を与えましたが・一つだけ忘れていたのが
全世界に伝染病が蔓延して多くの方が無くなる部分を忘れていました
本編は反物質宇宙でアベが艦長を務める古代文明の戦闘艦アルディーンが
戦うだけでなく反物質人類の未来を切り開く話を再開しました
この話では主人公のアベが22世紀から21世紀にタイムトラベルした時に
分岐したパラレルワールドの話を『小説家になろう』で
『青い空とひまわりの花が咲く大地に生まれて』のタイトルで発表する準備に入っています
2023年2月24日第三話が書き上がり順次発表する予定です
話は2019年にウィルス2019が発生した
今の我々の世界に非常に近い世界です
物語は第四次世界大戦前夜の2038年からスタートします
アルビオン王国宙軍士官物語(クリフエッジシリーズ合本版)
愛山雄町
SF
ハヤカワ文庫さんのSF好きにお勧め!
■■■
人類が宇宙に進出して約五千年後、地球より数千光年離れた銀河系ペルセウス腕を舞台に、後に“クリフエッジ(崖っぷち)”と呼ばれることになるアルビオン王国軍士官クリフォード・カスバート・コリングウッドの物語。
■■■
宇宙暦4500年代、銀河系ペルセウス腕には四つの政治勢力、「アルビオン王国」、「ゾンファ共和国」、「スヴァローグ帝国」、「自由星系国家連合」が割拠していた。
アルビオン王国は領土的野心の強いゾンファ共和国とスヴァローグ帝国と戦い続けている。
4512年、アルビオン王国に一人の英雄が登場した。
その名はクリフォード・カスバート・コリングウッド。
彼は柔軟な思考と確固たる信念の持ち主で、敵国の野望を打ち砕いていく。
■■■
小説家になろうで「クリフエッジシリーズ」として投稿している作品を合本版として、こちらでも投稿することにしました。
■■■
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿しております。
Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~
NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。
「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」
完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。
「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。
Bless for Travel
そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。
ココロノコドウ
幹谷セイ
SF
「あなたの平常心に惚れました。私と付き合ってください」
人並み外れて物事に動じない高校生、米斗は、同級生の可愛い少女・千具良から告白され、付き合うことに。
千具良は心臓がドキドキすると地震を起こしてしまう特異体質で、大災害を引き起こしてしまう前に心の鍛え方を学ぶために、米斗に近付いてきたのだった。
だが、付き合ううちに本気で米斗に恋してしまった千具良の心臓は、ますます不安定に。米斗は千具良と世界を大災害から救うために奮闘するが、実は米斗にも、とんでもない秘密が……。
自然災害系(?)SFパニックラブコメ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる