48 / 154
第3章 北ロマリア戦役
補給遮断作戦 03
しおりを挟むロイクは艦隊に残った大型輸送船を容赦なく破壊させる。
戦況モニターに映し出される敵補給艦隊を表す簡略CGモデルが、自艦隊の攻撃で撃ち減らされる度に小さくなっていくのを見ながら彼はこう思っていた。
「このCGモデルが小さくなっていくにつれて、実際に人が死んでいる…。初陣の時はその考えが頭をちらつき心がざわついたというのに、今では冷静に戦況を確認しているだけになっている。人とは慣れるものだな…」
ロイクは、旗艦の艦橋に設置されている指揮官席に座って、戦術モニターを眺めながらそう呟いた。
「閣下、何かおっしゃいましたか?」
側に控えていたゲンズブール大佐が、上官の呟きに反応して指示かどうか確認する。
「いや、なんでもない。それより、敵の輸送船は一隻だけ、残すように艦隊に厳命せよ」
「はっ!」
この指示の意図は単純で、敵の占領地域を単独で行動しているロイク艦隊は、物資の補給ができないために、この補給艦から奪うためである。
大型補給艦が残り一隻になった時に、ロイクは降伏勧告を出して、相手はそれを受け入れる。
相手も補給物資目的とは解っていたが、自分達の命と天秤にかければ仕方がなかった。
ロイク艦隊は、物資を奪うとその大型補給艦をその宙域に残して、何処かへと立ち去った。
ロイクの戦術の基本は機動と速攻であるが、レーダーの発達した現代に置いては、折角の機動と速攻もその価値は半減されてしまう。
そこでフランは彼の艦隊の全ての艦を、ステルス性を有する高速艦にして、機動と速攻に奇襲を加わることにした。
そのステルス性は優秀で、例えレーダーに反応したとしても流星群と誤認される程である。
護送船団のレーダーにロイク艦隊が、2万キロまで映らなかったのはその為である。
但しステルス艦は、通常の艦よりコストと建造工程に掛かる時間が増加しており、そのため配備が間に合わずに彼の指揮する艦隊数は、1800隻とヨハンセン艦隊3000隻比べれば約半分となっている。
ロイクが士官学校に入った理由は、ずばり死にたくないからである。
彼はヨハンセンほどではないが、戦史や軍記に興味を持ちそれを学んだ。
そして、彼は学んでいる内にある事に気付く。
「戦争は階級が上であればある程後方の安全な所で指示を出して、下になればなるほど使い捨てのような危険な場所に送られ、消耗品のように死んでしまう。死にたくなければ、士官学校に入って出世するしか無い!」
ガリアルムでは彼が幼い頃から、徴兵制が採用されており男女問わずに、兵役の義務
が課せられている。
当時、ガリアルムでは国王シャルルの方針によって、戦争は行われていなかったが周辺国では、度々領地を巡る戦いがおこなわれていた。
そのため彼は、いつこの国でも戦争になるかわからないと考え、士官学校に入り出世することを目指す。
入学当初『童の者』で『陰の者』だった彼は、自分に自信を持てずに成績が振るわなかったが、一年の時に訓練で目の近くを怪我して、サングラスを掛けるようになってからは、サングラスによって『陽の者』になったような気がして、本来の才能を発揮できるようになり成績も上位になる。
その時に成績首位を争ったのが、クレールであった。
だが、彼は三年の初めにある事に気付く。
それは、ルイが気付いた事と同じで、<成績が優秀な者は、前線に配属される事になる>ということで、そんな危険地帯に配属されれば元も子もないことから、彼はルイと同じく<脳ある鷹は爪を隠す>で成績を程々に押さえ後方の基地勤務になるようにする。
ルイと馬が合うのはそういう考え方が似ているからかも知れない。
彼は計画通り卒業してから後方基地勤務をしていた。
彼の計算通りなら、この後方基地で安全に順調に階級を上げていくはずであった。
だが、彼の誤算は<爪を隠さずブイブイ飛んでいた>頃を知っているクレールが、フランの側近になったことであった。
護送船団が襲撃されて壊滅したことは、すぐさま生き残った補給艦からボローナに報告され、更にドナウリア本国にも報告され、もちろんロイク艦隊からフランにも報告が送られ、彼女も知る所となる。
「『童の者』がやってくれたようだな」
「そのようで」
フランのチート洞察能力は、そのように表情を変えずに同意したクレールが、いつもよりほんの少しだけ嬉しそうに答えたことに気付く。
「フフフ…」
フランが自分を見た後に洋扇を口元に当てて、微笑する姿を見たクレールはこの天才に今の心境を気付かれたと推察して、冷静な表情で嫌味を込めてこう尋ねてみる。
「殿下、何を一人笑っているのですか、気持ち悪いですよ」
その彼女らしからぬ嫌味を込めた質問を聞いたフランは、自分の洞察を確信してこう答える。
「いや、だってまさか我が鉄仮面参謀殿が、同期の成功を喜ぶ一面を持っているとは思わなかったのでな」
「それは深読みしすぎです殿下。私はあくまで作戦の成功を喜んだだけです」
彼女は同期の成功を喜んだことは頑なに拒否してくる。
フランはその返答を聞いて、いつも冷静な彼女が妙に頑なに否定する姿が、おかしく見えてしまいこのような返事をしてしまう。
「まあ、そうしておこうか…。フフフ…」
クレールはこの恋愛脳お花畑の余裕の態度に、今の自分の心を覗かれた感じがして、それが何故か不快に感じてしまい、またもやこのような返しをしてしまう。
「フフフ…。殿下は私の心は洞察できても、ロドリーグ提督の心は無理なのですね。きっと、恋愛脳お花畑がフィルターとなってしまっているのでしょうね」
彼女は大人気なく年下の恋愛下手な少女にこのような返しをしてしまい後悔してしまう。
「な…?! どういう意味だ、この鋼鉄冷徹冷血参謀!?」
フランはチート的天才とはいえ、まだ17歳の少女であるために、ルイの事になると冷静な返しができなくなってしまう。
「作りすぎたからと言って、同じシチューを三日も食べさせられて、どう思っているのかと思いまして…」
フランは張り切ってシチューを作ってしまい、その量は大量であった。
そのため彼女と彼は、そのシチューを夕食に三日間連続でアレンジ無しで食べていた。
「ルイは美味しい、美味しいって言って食べてくれている!」
フランはそう答えるが正直自信はなく、優しい彼が気を使ってそう言ってくれているだけかもしれない。
(まあ、その優しいところが、私がルイを好きな理由の一つなのだが~)
だが次の瞬間、フランは頭をお花畑にしてこのように考えていた。
「そうですか。それは、私の考え違いのようですね。小官の愚考によって、殿下の心中を騒がせてしまい申し訳ありませんでした」
クレールは少し大人気なかったと思って、フランに謝罪する。
その場はこれで収まったが、今日の夕食時に部屋に呼ばれたルイが監禁されて、またもやヤンデレ目で金属製のおたまを持ったフランから尋問を受けたことは言うまでもない。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【アルファポリスで稼ぐ】新社会人が1年間で会社を辞めるために収益UPを目指してみた。
紫蘭
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスでの収益報告、どうやったら収益を上げられるのかの試行錯誤を日々アップします。
アルファポリスのインセンティブの仕組み。
ど素人がどの程度のポイントを貰えるのか。
どの新人賞に応募すればいいのか、各新人賞の詳細と傾向。
実際に新人賞に応募していくまでの過程。
春から新社会人。それなりに希望を持って入社式に向かったはずなのに、そうそうに向いてないことを自覚しました。学生時代から書くことが好きだったこともあり、いつでも仕事を辞められるように、まずはインセンティブのあるアルファポリスで小説とエッセイの投稿を始めて見ました。(そんなに甘いわけが無い)
ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~
空乃参三
SF
※本作はフィクションです。実在の人物や団体、および事件等とは関係ありません。
※本作は海洋生物の座礁漂着や迷入についての記録や資料ではありません。
※本作には犯罪・自殺等の描写などもありますが、これらの行為の推奨を目的としたものではありません。
※本作はノベルアッププラス様でも同様の内容で掲載しております。
※本作は「ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~」の続編となります。そのため、話数、章番号は前作からの続き番号となっております。
LH(ルナ・ヘヴンス歴)五一年秋、二人の青年が惑星エクザローム唯一の陸地サブマリン島を彷徨っていた。
ひとりの名はロビー・タカミ。
彼は病魔に侵されている親友セス・クルスに代わって、人類未踏の島東部を目指していた。
親友の命尽きる前に島の東部に到達したという知らせをもたらすため、彼は道なき道を進んでいく。
向かう先には島を南北に貫く五千メートル級の山々からなるドガン山脈が待ち構えている。
ロビーはECN社のプロジェクト「東部探索体」の隊長として、仲間とともに島北部を南北に貫くドガン山脈越えに挑む。
もうひとりの名はジン・ヌマタ。
彼は弟の敵であるOP社社長エイチ・ハドリを暗殺することに執念を燃やしていた。
一時は尊敬するウォーリー・トワ率いる「タブーなきエンジニア集団」に身を寄せていたが、
ハドリ暗殺のチャンスが訪れると「タブーなきエンジニア集団」から離れた。
だが、大願成就を目前にして彼の仕掛けた罠は何者かの手によって起動されてしまう。
その結果、ハドリはヌマタの手に寄らずして致命傷を負い、荒れ狂う海の中へと消えていった。
目標を失ったヌマタは当てもなくいずこかを彷徨う……
「テロリストにすらなれなかった」と自嘲の笑みを浮かべながら……
冬に鳴く蝉
橋本洋一
SF
時は幕末。東北地方の小さな藩、天道藩の下級武士である青葉蝶次郎は怠惰な生活を送っていた。上司に叱責されながらも自分の現状を変えようとしなかった。そんなある日、酒場からの帰り道で閃光と共に現れた女性、瀬美と出会う。彼女はロボットで青葉蝶次郎を守るために六百四十年後の未来からやってきたと言う。蝶次郎は自身を守るため、彼女と一緒に暮らすことを決意する。しかし天道藩には『二十年前の物の怪』という事件があって――
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
初恋フィギュアドール
小原ききょう
SF
「人嫌いの僕は、通販で買った等身大AIフィギュアドールと、年上の女性に恋をした」 主人公の井村実は通販で等身大AIフィギュアドールを買った。 フィギュアドール作成時、自分の理想の思念を伝達する際、 もう一人の別の人間の思念がフィギュアドールに紛れ込んでしまう。 そして、フィギュアドールには二つの思念が混在してしまい、切ないストーリーが始まります。
主な登場人物
井村実(みのる)・・・30歳、サラリーマン
島本由美子 ・ ・・41歳 独身
フィギュアドール・・・イズミ
植村コウイチ ・・・主人公の友人
植村ルミ子・・・・ 母親ドール
サツキ ・・・・ ・ 国産B型ドール
エレナ・・・・・・ 国産A型ドール
ローズ ・・・・・ ・国産A型ドール
如月カオリ ・・・・ 新型A型ドール
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
wikt club vol2
夜美神威
SF
夜美神威のカテゴライズSSシリーズ
wikt club
(おしゃべりクラブ)Part 2
この作品は軽いジョークを交えた
クスっと笑えたりへぇ~と感心したり?
ことばって素晴らしいと再確認出来たらいいな
って思う作品を並べてます
小説の定義とは?
ある意味挑戦的な内容です
風刺ジョークにおいて
ご気分が害される記事もあるかと思いますが
その辺はあくまでジョークとして捉えて頂きたいです
ではwikt club vol 2をお楽しみ下さい
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる