47 / 154
第3章 北ロマリア戦役
補給遮断作戦 02
しおりを挟むルイは王女殿下である彼女が料理を作れることに驚いて、ご機嫌になって料理を作るフランに何気なく尋ねてみる。
「以外ですね。フラン様は、料理ができたのですね?」
「失礼な! 私だって、料理ぐらいはできる! と、言いたいところではあるが、まだ、市販のルウを使ったシチューしかできないのだが…」
すると、始めは少し怒った感じで答えた彼女であったが、まだ習い始めなのでシチューしか作れないことを素直に答えた。
ルイはそれでも、その身分で自ら包丁を握って料理をする彼女に感心する。
「それでも、凄いですよ。自分で野菜を切るところから始めるのですから」
「そうか?! これで、いつでもお嫁さんになれるか?!」
フランが料理を習い始めたのは、もちろんルイのお嫁さんになる為の花嫁修業で、そういうところは意外と古風な考え方を持っていた。
「それは、まだ早いと思います」
ルイは単純にまだ17歳のフランが結婚するには早いと思った。
「そうだな…、もっと恋人同士の甘い時間を楽しまねばな…。結婚はその後でも構わぬか…」
フランは鍋に向かって小声で一人呟きながら、自分のその発言に照れて、照れ隠しで鍋をかき混ぜまくっていた。
彼女の中では、ルイは自分と結婚するのは当然なので、後はそれが早いか遅いかだけである。
(あんなに鍋をかき混ぜて、具材が型くずれしないだろうか…)
当のルイはそのフランを見て、そのような呑気なことを心配していた。
フランの作ったシチューは、料理初心者の彼女にしては充分美味しかった。
食事をしながら、話題はそんなフランのシチューの味から自然に、今とこれからの戦いについての話になる。
「敵はこちらの予想通りに、ボローナに艦隊を集めて防戦してくるでしょうか?」
ルイの質問にフランは、先程までの料理を褒められていた、にこやかな顔から冷徹な戦略家の顔になってこう答える。
「奴らはこちらの艦隊の数を正確には把握していない。恐らくミナノを襲った我が本隊7600隻が、ピエノンテ星系の戦いで消耗した我軍の全ての戦力だと思っているであろう。それなら、マントバ要塞の駐留艦隊1000隻を合流させれば、迎撃も無理ではないからな」
フランはドナウリアの行動を、そのチート能力で見事に看破していた。
ドナウリアが、ガリアルムの戦力が7600隻と見積もったのは以下の理由からである。
彼女と諜報部の防諜の成果で、正確な艦隊数の情報を得ることができない彼らは別の情報から推測する。
それはフランが大々的な勝利の報告をしておらず、本国でも “戦闘に勝利、サルデニア占拠”としか報道されていないという情報である。
本来なら戦いに勝てば、戦意高揚と国民からの支持と権威を上げるために、大々的に勝利を報道するものである。
それなのに、大々的に勝利の報道をしないのは、ガリアルム艦隊にもそれなりの被害が出ており、これ以上の戦果を国民が望まないために、国民の戦意を上げないように勝利報告の報道を控えめにしているのではないかと推測したからであった。
そこに今回ミナノから、当初の自分達の推測の7000隻に近い艦隊数が報告され、彼らはその数が全軍だと判断したのであった。
「ドナウリアが我が艦隊の数を把握していないにも関わらず、7600隻が全てと判断したのにはそのような理由からですか…」
ルイはフランの読みを聞かされて、なんと楽観的な判断なのだと思った。
「奴らには我が艦隊が、7600隻であることは都合がいいからな。7600隻なら、マントバとボローナの駐留艦隊を交流させれば迎撃できる。そうすれば、今まで莫大な戦費と労力、そして犠牲を払った侵攻作戦を中断させなくて済み、国民からの非難を受けず、国の威信も守られ、誰も責任を追求されずにすむ…」
「彼らは自分達の保身のために、自らに都合のいい真実を選んだというわけですね…」
ルイはそう呟くと、複雑な気持ちでシチューを一口飲んだ。
フランの戦略構想はまだ続く。
「そういうことだな…。だが、これだけでは、まだ我らが完全に優位に立ったわけではない。更に次なる手を打たねばならない」
「そのためのロイクさんの別動艦隊ですね?」
「そうだ。あの者の戦果次第で、状況は大きく変わる」
シチューを食べ終えたルイに、フランは恥ずかしそうにモジモジしながら、このような事を尋ねてくる。
「ところで、ルイ…。シチュー以外に食べたいものがあるのではないか…(私とか…)」
ルイは即答する。
「いえ、もうお腹いっぱいです」
「そうか……」
彼の返答を聞いたフランは項垂れて、がっかりした感じでそう返事をした。
補給物資の中継地点兼物資集積基地であるマントバ要塞から、進発した大型輸送船300隻とそれを護衛する艦隊500隻からなる護送船団は南下してボローナを経由すると、そのまま更に南下して侵攻軍が前線基地としているラティオ星系の惑星ロマーノに向かう。
二日前にボローナを通過して、惑星ロマーノに向かう道中で昨日ガリアルム艦隊が北のミナノに現れたと報告を受けた輸送船団の護衛艦隊司令官ヘンケル准将は、すっかり気が緩んで警戒を怠っていた。
警戒心が緩んだ理由は、マントバ要塞進発より既に10日間何事も無い事と、ガリアルム艦隊が陥落させたミナノから、ここまでは約二週間の距離があり襲撃はありえず、ロマニア艦隊の襲撃も自国の侵攻部隊が、ロマーノ以南に完全に押し込んでいるため、その心配もないからである。
そうなると、輸送任務とは退屈なもので、ヘンケルがモニターに映し出されている宇宙空間をぼんやりと眺めながら、眠気覚ましのコーヒーを飲んでいると突然レーダー手が驚きに近い報告をしてくる。
「司令官! 多数の天頂方向より高熱源反応接近! ビームと思われます!!」
レーダー手が報告を終えたと同時に、天頂方向から豪雨のように降り注いだ無数のビームは、シールドを張っていない無防備な護衛艦隊の船体に着弾し、次々と爆散させていく。
粒子ビームは光速より非常に遅く移動するが、二万キロから放たれた場所に10秒とかからずに到達するために、2万キロで気付いた時には到底シールドを張るには間に合わない。
ロイク艦隊1800隻から放たれた無数のビームの雨は、油断していた護衛艦隊を彼らに何が起きたか考えるまもなく一瞬でスクラップに変えて、大型輸送船も一気に100隻まで撃破する事に成功する。
大型輸送船は自衛手段に、射程距離の短い迎撃レーザーぐらいしか付いておらず、更に大型なために船速も遅いために、シールドを張って何とか抵抗を試みるが、ロイク艦隊のビーム攻撃の前に一方的に撃沈されていく。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
【アルファポリスで稼ぐ】新社会人が1年間で会社を辞めるために収益UPを目指してみた。
紫蘭
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスでの収益報告、どうやったら収益を上げられるのかの試行錯誤を日々アップします。
アルファポリスのインセンティブの仕組み。
ど素人がどの程度のポイントを貰えるのか。
どの新人賞に応募すればいいのか、各新人賞の詳細と傾向。
実際に新人賞に応募していくまでの過程。
春から新社会人。それなりに希望を持って入社式に向かったはずなのに、そうそうに向いてないことを自覚しました。学生時代から書くことが好きだったこともあり、いつでも仕事を辞められるように、まずはインセンティブのあるアルファポリスで小説とエッセイの投稿を始めて見ました。(そんなに甘いわけが無い)
異世界に吹っ飛ばされたんで帰ろうとしたら戦車で宇宙を放浪するハメになったんですが
おっぱいもみもみ怪人
ファンタジー
敵の攻撃によって拾った戦車ごと異世界へと飛ばされた自衛隊員の二人。
そこでは、不老の肉体と特殊な能力を得て、魔獣と呼ばれる怪物退治をするハメに。
更には奴隷を買って、遠い宇宙で戦車を強化して、どうにか帰ろうと悪戦苦闘するのであった。
80日間宇宙一周
田代剛大
SF
――厄介な侵略者は、突然宇宙の果てからやってくる。
高度な知性を持つ異星人が巨大な宇宙船に乗って襲来し、その都市で一番高いビルを狙って、挨拶がわりの一発をお見舞いする。
SF映画でお馴染みのシーンだ。
彼らは冷酷非情かつ残忍で(そして目立ちたがりだ)、強大な科学力を武器に私たちの日常を脅かす。
その所業は悪そのものと言ってもいい。
だが、敵に知性や感情があり、その行為が侵略戦争ならば、場合によっては侵略者と交渉の余地はあるのではないだろうか。
戦争とは外交手段の一つだという人がいる。
これまでの戦争でも、宣戦布告もせずに敵国を奇襲した卑劣な独裁者はたくさんいたのだから、戦況によっては、ひとつのテーブルを囲み、恐るべき侵略者と講和会議をすることだって可能なはずだ。
それは現実離れした希望的観測だろうか?
☆
では現実の話をしよう。
長身で色白の美人だが、彼女はスーパーモデルでもハリウッド女優でもない。
冥王星宇宙軍のミグ・チオルコフスカヤ伍長(31)は、太陽系の果てで半年に4回ほど実際に侵略者と戦っている百戦錬磨の軍人だ。
彼女がエッジワースカイパーベルトという場所で、相手にしている敵のパワーは強烈だ。
彼らには、たった一つで全人類を73回分絶滅させるだけの威力があり、さらにその数は確認されているだけでも2千を超える。
最近の観測では、その百倍は存在するらしい。
現実の敵は絶望的に強く、さらに強すぎて私たちのような小さな存在など、認識すらしていないのだ。
私たちが大地を踏みしめるとき、膨大な数の微生物がその足の下敷きになって死んだと仮定しよう。
果たしてそれは、人類の土壌生物に対する侵略戦争と言えるのだろうか?
攻撃をするものと、されるものとのあいだに、圧倒的なスケールの差が存在する場合、それは戦争とか外交とか、そういった次元の話ではなくなる。
それは不条理な事故であり、理由のない大量虐殺なのだ。
☆
だから、冥王星の軍人たちは、決まってこうつぶやく。
もしもこれが“戦争”であったらどんなに素晴らしいことか、と。
たとえ侵略者が冷酷非情で残忍だろうと、言葉が通じるならば、終戦の可能性は0ではない。
だが残念ながら、この敵に決して言葉は通じない。
彼らは目的もなく人を殺す。
彼女たちが戦っている相手は、小惑星――ただの石と氷の塊だ。
冬に鳴く蝉
橋本洋一
SF
時は幕末。東北地方の小さな藩、天道藩の下級武士である青葉蝶次郎は怠惰な生活を送っていた。上司に叱責されながらも自分の現状を変えようとしなかった。そんなある日、酒場からの帰り道で閃光と共に現れた女性、瀬美と出会う。彼女はロボットで青葉蝶次郎を守るために六百四十年後の未来からやってきたと言う。蝶次郎は自身を守るため、彼女と一緒に暮らすことを決意する。しかし天道藩には『二十年前の物の怪』という事件があって――
無頼少年記 黒
ANGELUS
SF
嘗てヒューマノリア大陸南方をその支配下に置き、数多の大戦において、群雄割拠、悪鬼羅刹の名を欲しいままにし、無数にあった少数民族を束ね治めた大戦の覇族―――``流川家``
幾重にも連なる悪名と、人間でありながら怪物地味た戦績を誇って他を圧倒し、全世を治める頂きに最も近い戰の中の戦族として、その存在は多くの者から恐れられて来た。
その覇族が世界統一の為に齎した最後の戰``武力統一終戰``が終結し、血で血を洗う大戦時代が息を潜めて三十年――――――。
彼等が治めた地「武市」に流川家の血とある大いなる血族の末代―――流川澄男とその弟流川久三男は、母親の言いつけで学校に通わされ平和な日常を織りなしていた。
しかし竜暦1940年3月16日。思いを馳せる女性への誕生日だったその日、彼らは否応なく陰に潜んでいたであろう、歪んだ輪廻に巻き込まれる。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる