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第3章 北ロマリア戦役

補給遮断作戦 02

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 ルイは王女殿下である彼女が料理を作れることに驚いて、ご機嫌になって料理を作るフランに何気なく尋ねてみる。
「以外ですね。フラン様は、料理ができたのですね?」

「失礼な! 私だって、料理ぐらいはできる! と、言いたいところではあるが、まだ、市販のルウを使ったシチューしかできないのだが…」
 すると、始めは少し怒った感じで答えた彼女であったが、まだ習い始めなのでシチューしか作れないことを素直に答えた。

 ルイはそれでも、その身分で自ら包丁を握って料理をする彼女に感心する。
「それでも、凄いですよ。自分で野菜を切るところから始めるのですから」

「そうか?! これで、いつでもお嫁さんになれるか?!」
 フランが料理を習い始めたのは、もちろんルイのお嫁さんになる為の花嫁修業で、そういうところは意外と古風な考え方を持っていた。

「それは、まだ早いと思います」
 ルイは単純にまだ17歳のフランが結婚するには早いと思った。

「そうだな…、もっと恋人同士の甘い時間を楽しまねばな…。結婚はその後でも構わぬか…」
 フランは鍋に向かって小声で一人呟きながら、自分のその発言に照れて、照れ隠しで鍋をかき混ぜまくっていた。

 彼女の中では、ルイは自分と結婚するのは当然なので、後はそれが早いか遅いかだけである。

(あんなに鍋をかき混ぜて、具材が型くずれしないだろうか…)
 当のルイはそのフランを見て、そのような呑気なことを心配していた。

 フランの作ったシチューは、料理初心者の彼女にしては充分美味しかった。
 食事をしながら、話題はそんなフランのシチューの味から自然に、今とこれからの戦いについての話になる。

「敵はこちらの予想通りに、ボローナに艦隊を集めて防戦してくるでしょうか?」
 ルイの質問にフランは、先程までの料理を褒められていた、にこやかな顔から冷徹な戦略家の顔になってこう答える。

「奴らはこちらの艦隊の数を正確には把握していない。恐らくミナノを襲った我が本隊7600隻が、ピエノンテ星系の戦いで消耗した我軍の全ての戦力だと思っているであろう。それなら、マントバ要塞の駐留艦隊1000隻を合流させれば、迎撃も無理ではないからな」

 フランはドナウリアの行動を、そのチート能力で見事に看破していた。

 ドナウリアが、ガリアルムの戦力が7600隻と見積もったのは以下の理由からである。

 彼女と諜報部の防諜の成果で、正確な艦隊数の情報を得ることができない彼らは別の情報から推測する。

 それはフランが大々的な勝利の報告をしておらず、本国でも “戦闘に勝利、サルデニア占拠”としか報道されていないという情報である。

 本来なら戦いに勝てば、戦意高揚と国民からの支持と権威を上げるために、大々的に勝利を報道するものである。

 それなのに、大々的に勝利の報道をしないのは、ガリアルム艦隊にもそれなりの被害が出ており、これ以上の戦果を国民が望まないために、国民の戦意を上げないように勝利報告の報道を控えめにしているのではないかと推測したからであった。

 そこに今回ミナノから、当初の自分達の推測の7000隻に近い艦隊数が報告され、彼らはその数が全軍だと判断したのであった。

「ドナウリアが我が艦隊の数を把握していないにも関わらず、7600隻が全てと判断したのにはそのような理由からですか…」
 ルイはフランの読みを聞かされて、なんと楽観的な判断なのだと思った。

「奴らには我が艦隊が、7600隻であることは都合がいいからな。7600隻なら、マントバとボローナの駐留艦隊を交流させれば迎撃できる。そうすれば、今まで莫大な戦費と労力、そして犠牲を払った侵攻作戦を中断させなくて済み、国民からの非難を受けず、国の威信も守られ、誰も責任を追求されずにすむ…」

「彼らは自分達の保身のために、自らに都合のいい真実を選んだというわけですね…」
 ルイはそう呟くと、複雑な気持ちでシチューを一口飲んだ。

 フランの戦略構想はまだ続く。
「そういうことだな…。だが、これだけでは、まだ我らが完全に優位に立ったわけではない。更に次なる手を打たねばならない」

「そのためのロイクさんの別動艦隊ですね?」
「そうだ。あの者の戦果次第で、状況は大きく変わる」

 シチューを食べ終えたルイに、フランは恥ずかしそうにモジモジしながら、このような事を尋ねてくる。
「ところで、ルイ…。シチュー以外に食べたいものがあるのではないか…(私とか…)」

 ルイは即答する。
「いえ、もうお腹いっぱいです」
「そうか……」
 彼の返答を聞いたフランは項垂れて、がっかりした感じでそう返事をした。

 補給物資の中継地点兼物資集積基地であるマントバ要塞から、進発した大型輸送船300隻とそれを護衛する艦隊500隻からなる護送船団は南下してボローナを経由すると、そのまま更に南下して侵攻軍が前線基地としているラティオ星系の惑星ロマーノに向かう。

 二日前にボローナを通過して、惑星ロマーノに向かう道中で昨日ガリアルム艦隊が北のミナノに現れたと報告を受けた輸送船団の護衛艦隊司令官ヘンケル准将は、すっかり気が緩んで警戒を怠っていた。

 警戒心が緩んだ理由は、マントバ要塞進発より既に10日間何事も無い事と、ガリアルム艦隊が陥落させたミナノから、ここまでは約二週間の距離があり襲撃はありえず、ロマニア艦隊の襲撃も自国の侵攻部隊が、ロマーノ以南に完全に押し込んでいるため、その心配もないからである。

 そうなると、輸送任務とは退屈なもので、ヘンケルがモニターに映し出されている宇宙空間をぼんやりと眺めながら、眠気覚ましのコーヒーを飲んでいると突然レーダー手が驚きに近い報告をしてくる。

「司令官! 多数の天頂方向より高熱源反応接近! ビームと思われます!!」

 レーダー手が報告を終えたと同時に、天頂方向から豪雨のように降り注いだ無数のビームは、シールドを張っていない無防備な護衛艦隊の船体に着弾し、次々と爆散させていく。

 粒子ビームは光速より非常に遅く移動するが、二万キロから放たれた場所に10秒とかからずに到達するために、2万キロで気付いた時には到底シールドを張るには間に合わない。

 ロイク艦隊1800隻から放たれた無数のビームの雨は、油断していた護衛艦隊を彼らに何が起きたか考えるまもなく一瞬でスクラップに変えて、大型輸送船も一気に100隻まで撃破する事に成功する。

 大型輸送船は自衛手段に、射程距離の短い迎撃レーザーぐらいしか付いておらず、更に大型なために船速も遅いために、シールドを張って何とか抵抗を試みるが、ロイク艦隊のビーム攻撃の前に一方的に撃沈されていく。

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