20 / 154
第1章 反乱軍討伐戦
ソンム星系の戦い 04
しおりを挟む反乱軍艦隊はフランの艦隊に、徐々に後方に誘引されていることに気付いていたが、彼らの目的がフランの確保である以上、下手に距離を取りそのまま逃亡されては元も子もなくなってしまう。
そのため多少危険でも、釣られて前進をして距離を保つしかなかった。
もちろん中央深くに突出して、左右の艦隊から包囲を受けないように細心の注意を払いながら前進していた。
少しずつ距離を詰めるのに焦れたエティエヴァンは、副官に自分が考えた策を披露し、意見を聞くことにした。
「小娘の艦の位置まで全艦で全速突撃を敢行して、捕獲するというのはどうだ?! 幸い小娘の艦はかなり前にいる。小娘さえ確保できれば…!」
エティエヴァンは自信満々にそう語ったが、副官は冷静に自分の意見を述べる。
「我らが全速で突撃すれば、1万8千キロメートルの距離を詰める前に、敵も全速で後退行動にでるかもしれません。そうすれば、敵はそのまま迎撃を諦めて、エゲレスティアの国境まで逃げに徹すると思われます…」
副官の意見を聞いたエティエヴァンは、確かにそうだという顔をしてこう感想を述べる。
「確かにそれでは、元も子もないな…」
副官はエティエヴァンに献策する。
「なので、このまま誘引されていると見せかけ、王女を捉える距離まで徐々に距離を詰めるのです」
「そして、一気に…だな?」
「その通りです」
エティエヴァンと副官はそう話し合うと、距離を詰めるまでこのまま前進することを決める。
だが、フランの方が一枚上手で先手を取る。
「今だ、全艦一斉攻撃!」
フランは反乱軍が突撃しようというタイミングで、後退を止めて全艦に一斉攻撃を命じて、反乱軍艦隊に猛攻撃を浴びせる。
雨のような激しい粒子砲とミサイルの攻撃により、出鼻をくじかれた反乱軍艦隊は突撃を一旦諦めて砲撃戦を開始する。
「そう簡単に正面突撃が、成功するものか…」
フランがそう呟くと、ルイは心の中で称賛する。
(さすがは、フラン様。お見事!)
ルイがそう思っていると、フランは矢継ぎ早に次の命令を出す。
「全艦攻撃体制から、通常攻撃体制に移行せよ。ヨハンセンの艦隊に本隊の後方1万キロメートルに移動するように伝達。補給艦隊に後方でいつでも補給できるように待機するように伝えよ」
この世界の艦隊戦は、複数隻でローテーションを組んで砲撃戦をおこなうのが、基本となっている。
基本は3隻で組ませ、2隻が前に出て攻撃している間に、残り一隻が攻撃やエネルギーシールドで消費したエネルギーやミサイル弾薬等を後ろにいる補給艦からおこない、その時間を乗員の休息に当てる。
そして、補給を終えた艦と前の艦一隻がスライドして交代する。
こうして、艦隊の継戦力を維持し時間を掛けて敵の数を減らすのが、基本的な艦隊の戦い方である。
フランも3隻一組で運用しており、継戦力を維持させながら砲撃戦を優位に進めている。
反乱軍も同じく3隻一組で運用しているが、彼らには補給艦がいないために後ろに下がった艦は主機から発生するエネルギーで、時間を掛けて回復するしかない。
そのような方法で、補給体制の整ったフランの艦隊といつまでも互角に戦えるわけもなく、エネルギーの少なくなってきた反乱軍の艦は、エネルギーシールドを維持できなくなる艦が出てきて、粒子砲やミサイルの直撃を受けて爆散していく。
少し実戦に慣れてきたルイは、フランに先程の通信の意図を尋ねる。
「そういえば、フラン様。敵に通信を送った3つ目の意図が途中でしたが、アレは後方への誘引中に、敵が我が艦隊に突撃してくるのを自重させるためですか?」
ルイの言葉を聞いたフランは、二重の意味で満足した顔でこう答えた。
「その通りだ、ルイ。おかげで、誤差の範囲で敵を目的地まで引っ張ることが出来た。まあ、突撃されたとしても、対応策は考えていたがな」
フランはそこまで質問に答えると、今度は自分からルイに問題を提示する。
「では、反乱軍艦隊の損害が、我が艦隊より多いのは何故だか解るか?」
ルイは少し考えた後、このような答えを導き出す。
「それは敵艦隊のエネルギー不足です」
彼はその理由を次のように説明する。
まず敵艦隊はこの宙域に来るまでに、移動だけでエネルギーをかなり消費しており、それは同じ行程を移動してきたヨハンセン艦隊が、補給でかなり時間を使っている事から容易に推察できる。
更に敵は機雷原を突破するのに、攻撃とエネルギーシールドで無駄なエネルギーを使い、回復する前にフランの艦隊の攻撃を受けて迎撃することになった。
そして、決定的なのは補給艦を後方に置いてきてしまった事による、補給が不可能なことである。
これは、フランが反乱軍にそうせざるを得ないように仕向けた策である。
本来なら国王夫妻が乗る宇宙船は、戦艦ぐらい足の遅い快適性重視の船であったが、フランは高速輸送艦を改装して、国王夫妻に我慢して乗るように指示をし、温厚で娘が大好きな国王夫妻は2つ返事で従った。
よって、ヨハンセン護衛艦隊は高速艦のみで構成されることになり、その快速に追いつくために、反乱軍は同じく足の早い艦だけで追うしかなかった。
ルイの推察を聞いたフランは
「付け加えるなら、そのような計算もできない無能が、敵の指揮官であったということだな。だが、合格点だ。この戦いが終わったら、私の部屋に来い。25年ものの白(ワイン)を振る舞ってやろう」
フランは扇子で顔を半分隠しながら、そう言ってルイを自室に誘う。
その彼女の発言を聞いた艦橋のオペレーター達は、こう思いながらルイの返事を待つ。
(キャー、部屋に誘ったわ)
(お二人って、そんな仲だったんだ)
(最近の若い子は、積極的ね…)
(もちろん、返事はOKですよね、少佐!)
オペレーター達が見守る中、ルイはこう答える。
「フラン様。僕達は、未成年ですよ! お酒は二十歳からなので、飲酒は駄目です!」
(真面目か!!!)
艦橋にいたルイ以外の者は、心の中でそう突っ込んだ。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
ポイントセンサー
岡智 みみか
SF
人格の全てを数値で表される世界
個人の人格を総合的に評価し、数値で現す時代。そのポイントの管理・運営を司るパーソナルポイント管理運営事務局、略してPP局に勤める主人公の明穂は、同じ部署の仲間と共に日々自己のPPアップと局の仕事に邁進していた。
元SPの横田や、医師の資格を持つさくら、中性的な男の子の市山など、様々な個性あふれるメンバーとの交流を重ねながら、明穂はPPという制度の利点と矛盾に悩みつつも、やがて大きな事件へと巻き込まれてゆくーー。
星雲舞台の瞬き
gama
SF
これは、8年後に全星域を舞台とした戦争へのプロローグ…。
人類が、外宇宙へを進出し始めてから数千年の月日が流れた、銀河系の世界。
銀河系に存在する一国家、クラウダ連合国の中にある一つの惑星”ランスケープ”の高校生である、ヴァーシャ 、エーファ、ユラ、 コルネア、そして1年生のミユハは人形劇研究部として部活に勤しんでいた。
秋も近づき、学園祭が始まろうとする時期、人形劇研究部として何をやるか一同は頭を悩ませていた。
そんな中、ユラの言葉から、先の戦争での英雄だったエーヴェルハイトの名が挙がり、琴線に触れたエーファは、彼を題材にしようと決定する。
早速、エーヴェルハイトの記憶データに会いに行くが、彼及び彼に関係する人物の記憶データの閲覧は一般には禁止されていた。
不満を漏らすが、仕方ないので別の資料を検索していた中、ユラはたエーヴェルハイト幻の出版物がある事を話す。
しかし、著者のベティルは、5年前に既に他界していた。
今は、彼の記憶データが、”惑星ボルディ”に管理されている事を確認した一行は、早速向かう事とした。
ベッティルの記憶のある管理局に向かい、彼と対面を果たす。
どんな話を聞けるか胸高鳴る一同であったが、それは、彼女達が想像とは違ったもう一つのエーヴェルハイトの姿だった。
果たして彼は、本当に英雄だったのだろうか。
wikt club vol2
夜美神威
SF
夜美神威のカテゴライズSSシリーズ
wikt club
(おしゃべりクラブ)Part 2
この作品は軽いジョークを交えた
クスっと笑えたりへぇ~と感心したり?
ことばって素晴らしいと再確認出来たらいいな
って思う作品を並べてます
小説の定義とは?
ある意味挑戦的な内容です
風刺ジョークにおいて
ご気分が害される記事もあるかと思いますが
その辺はあくまでジョークとして捉えて頂きたいです
ではwikt club vol 2をお楽しみ下さい
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『特殊な部隊』の初陣
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
地球人が初めて出会った地球外生命体『リャオ』の住む惑星遼州。
理系脳の多趣味で気弱な『リャオ』の若者、神前(しんぜん)誠(まこと)がどう考えても罠としか思えない経緯を経て機動兵器『シュツルム・パンツァー』のパイロットに任命された。
彼は『もんじゃ焼き製造マシン』のあだ名で呼ばれるほどの乗り物酔いをしやすい体質でそもそもパイロット向きではなかった。
そんな彼がようやく配属されたのは遼州同盟司法局実働部隊と呼ばれる武装警察風味の『特殊な部隊』だった。
そこに案内するのはどう見ても八歳女児にしか見えない敗戦国のエースパイロット、クバルカ・ラン中佐だった。
さらに部隊長は誠を嵌(は)めた『駄目人間』の見た目は二十代、中身は四十代の女好きの中年男、嵯峨惟基の駄目っぷりに絶望する誠。しかも、そこにこれまで配属になった五人の先輩はすべて一週間で尻尾を撒いて逃げ帰ったという。
司法局実動部隊にはパイロットとして銃を愛するサイボーグ西園寺かなめ、無表情な戦闘用人造人間カウラ・ベルガーの二人が居た。運用艦のブリッジクルーは全員女性の戦闘用人造人間『ラスト・バタリオン』で構成され、彼女達を率いるのは長身で糸目の多趣味なアメリア・クラウゼだった。そして技術担当の気のいいヤンキー島田正人に医務室にはぽわぽわな詩を愛する看護師神前ひよこ等の個性的な面々で構成されていた。
その個性的な面々に戸惑う誠だが妙になじんでくる先輩達に次第に心を開いていく。
そんな個性的な『特殊な部隊』の前には『力あるものの支配する世界』を実現しようとする『廃帝ハド』、自国民の平和のみを志向し文明の進化を押しとどめている謎の存在『ビックブラザー』、そして貴族主義者を扇動し宇宙秩序の再編成をもくろむネオナチが立ちはだかった。
そんな戦いの中、誠に眠っていた『力』が世界を変える存在となる。
その宿命に誠は耐えられるか?
SFお仕事ギャグロマン小説。
異世界に吹っ飛ばされたんで帰ろうとしたら戦車で宇宙を放浪するハメになったんですが
おっぱいもみもみ怪人
ファンタジー
敵の攻撃によって拾った戦車ごと異世界へと飛ばされた自衛隊員の二人。
そこでは、不老の肉体と特殊な能力を得て、魔獣と呼ばれる怪物退治をするハメに。
更には奴隷を買って、遠い宇宙で戦車を強化して、どうにか帰ろうと悪戦苦闘するのであった。
80日間宇宙一周
田代剛大
SF
――厄介な侵略者は、突然宇宙の果てからやってくる。
高度な知性を持つ異星人が巨大な宇宙船に乗って襲来し、その都市で一番高いビルを狙って、挨拶がわりの一発をお見舞いする。
SF映画でお馴染みのシーンだ。
彼らは冷酷非情かつ残忍で(そして目立ちたがりだ)、強大な科学力を武器に私たちの日常を脅かす。
その所業は悪そのものと言ってもいい。
だが、敵に知性や感情があり、その行為が侵略戦争ならば、場合によっては侵略者と交渉の余地はあるのではないだろうか。
戦争とは外交手段の一つだという人がいる。
これまでの戦争でも、宣戦布告もせずに敵国を奇襲した卑劣な独裁者はたくさんいたのだから、戦況によっては、ひとつのテーブルを囲み、恐るべき侵略者と講和会議をすることだって可能なはずだ。
それは現実離れした希望的観測だろうか?
☆
では現実の話をしよう。
長身で色白の美人だが、彼女はスーパーモデルでもハリウッド女優でもない。
冥王星宇宙軍のミグ・チオルコフスカヤ伍長(31)は、太陽系の果てで半年に4回ほど実際に侵略者と戦っている百戦錬磨の軍人だ。
彼女がエッジワースカイパーベルトという場所で、相手にしている敵のパワーは強烈だ。
彼らには、たった一つで全人類を73回分絶滅させるだけの威力があり、さらにその数は確認されているだけでも2千を超える。
最近の観測では、その百倍は存在するらしい。
現実の敵は絶望的に強く、さらに強すぎて私たちのような小さな存在など、認識すらしていないのだ。
私たちが大地を踏みしめるとき、膨大な数の微生物がその足の下敷きになって死んだと仮定しよう。
果たしてそれは、人類の土壌生物に対する侵略戦争と言えるのだろうか?
攻撃をするものと、されるものとのあいだに、圧倒的なスケールの差が存在する場合、それは戦争とか外交とか、そういった次元の話ではなくなる。
それは不条理な事故であり、理由のない大量虐殺なのだ。
☆
だから、冥王星の軍人たちは、決まってこうつぶやく。
もしもこれが“戦争”であったらどんなに素晴らしいことか、と。
たとえ侵略者が冷酷非情で残忍だろうと、言葉が通じるならば、終戦の可能性は0ではない。
だが残念ながら、この敵に決して言葉は通じない。
彼らは目的もなく人を殺す。
彼女たちが戦っている相手は、小惑星――ただの石と氷の塊だ。
特殊装甲隊 ダグフェロン『廃帝と永遠の世紀末』 遼州の闇
橋本 直
SF
出会ってはいけない、『世界』が、出会ってしまった これは悲しい『出会い』の物語
必殺技はあるが徹底的な『胃弱』系駄目ロボットパイロットの新社会人生活(体育会系・縦社会)が始まる!
ミリタリー・ガンマニアにはたまらない『コアな兵器ネタ』満載!
登場人物
気弱で胃弱で大柄左利きの主人公 愛銃:グロックG44
見た目と年齢が一致しない『ずるい大人の代表』の隊長 愛銃:VZ52
『偉大なる中佐殿』と呼ばれるかっこかわいい『体育会系無敵幼女』 愛銃:PSMピストル
明らかに主人公を『支配』しようとする邪悪な『女王様』な女サイボーグ 愛銃:スプリングフィールドXDM40
『パチンコ依存症』な美しい小隊長 愛銃:アストラM903【モーゼルM712のスペイン製コピー】
でかい糸目の『女芸人』の艦長 愛銃:H&K P7M13
『伝説の馬鹿なヤンキー』の整備班長 愛する武器:釘バット
理系脳の多趣味で気弱な若者が、どう考えても罠としか思えない課程を経てパイロットをさせられた。
そんな彼の配属されたのは司法局と呼ばれる武装警察風味の「特殊な部隊」だった
そこで『作業員』や『営業マン』としての『体育会系』のしごきに耐える主人公
そこで与えられたのは専用人型兵器『アサルト・モジュール』だったがその『役割』を聞いて主人公は社会への怨嗟の声を上げる
05式乙型 それは回収補給能力に特化した『戦闘での活躍が不可能な』機体だったのだ
そこで、犯罪者一歩手前の『体育会系縦社会人間達』と生活して、彼らを理解することで若者は成長していく。
そして彼はある事件をきっかけに強力な力に目覚めた。
それはあってはならない強すぎる力だった
その力の発動が宇宙のすべての人々を巻き込む戦いへと青年を導くことになる。
コアネタギャグ連発のサイキック『回収・補給』ロボットギャグアクションストーリー。
悪の組織の雑用係 悪いなクソガキ。忙しくて分からせている暇はねぇ
黒月天星
SF
「クスクス。相変わらず地味~な事やってるねオジサン」
「げっ!? お前かよクソガキ」
悪の組織で働く雑用係。ケン・タチバナ。最近の悩みは仕事の多さと、何故か絡んでくるクソガキの対応。
「土下座して頭を下げるなら、幹部になった暁にはあたし専用の下僕に取り立ててあげるよ!」
言ってろメスガキムーブのクソガキめ。大人とはこういう事だ。
注意! 以前書いたほぼ同名短編の連載版です。そのため第一話は短編版とほぼ同じです。
この小説は小説家になろう、カクヨム、ハーメルン、ノベルピアでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる