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55.僕だけの彼になった。
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僕はその時、少4の夏休みの間だけ遊んでいた友達を思い出した。毎日遊ぶ約束はせずとも、行けば必ずその子はその場所にいて、門限の時間まで二人で遊んでいた。でも、夏休みの最後日、風邪をひいてしまい行けなかった。そのあと夏休みが終わっても何度か見に行ったが、会えることは無かった。
あの頃はまだ僕はヒーローを信じていた。ヒーローものが大好きで、いつもヒーロー人形を持っていて、その子にヒーローのカッコ良さを語った。ヒーローごっこをしたり、ブランコで遊んだり、鬼ごっこをして、門限の時間まで毎日遊んでいた。
その子に会えなくなって、また会いたいといつも持っていたヒーロー人形にお願いをしていた。
だけど、それも終わりを迎えた。
ある日学校から帰ると、ヒーローに関するものは僕の部屋から全て消えていた。兄に棄てられていた。
「ヒーローなんていないんだよ。」
兄は僕にそう言った。
僕はショックは受けるものの、その時ですら、兄の言うことをすんなりと受け入れた。
ヒーローはいない。
僕は、それからはもう、あの子に会いたいと願うことすらしなくなった。
だけど、ヒーローはここにいた。
僕のヒーローは、栗花落くんだったんだ。
「栗花落くん。僕も一緒に行く。」
僕がそう言うと、栗花落くんは柔らかい笑顔を見せた。
「喜んで。……そう言いたいけど、だめだよ。」
栗花落くんは、僕を真剣な眼差しで見た。
「だって、まだ夏木くんの目は生きているもの。僕の目を見てよ。もう、かなり前から、生きてないんだ。」
僕を生きる意味にして欲しい。
そう思いはしても、兄貴がそれを許さない。僕らは八方塞がりだった。
「栗花落くんとなんて出会わなかったら良かった。友達になんて、ならなかったら良かった。」
僕はボソリと呟いた。
栗花落くんは、目をぱちぱちとして驚いた。
僕の目からは気付いたら涙が溢れていた。
栗花落くんは体を起こすと僕の頭を撫でた。
「僕は、最期に夏木くんと出会えて良かった。毎日、すごく楽しかったよ。」
「せやから!」
声を荒らげて、僕はもう涙が止まらない。
「なんで僕にこの感情を教えたんや?知らんかったら、こんな気持ちも知らずに済んだ……なんでや…。僕だけ、このつまらない世界に置いていくん?」
僕は子供のように駄々をこねた。
小4の時に僕の目の前から消えたあの子にぶつけたかった言葉を、栗花落くんにぶつけている。
八つ当たりと言えばそうだが、この時の僕はそんな事どうでもよかった。
もうすでに自分の感情をコントロール出来ずに、ただ、目の前の相手をずっと傍に置いておきたい。独占欲だけが、頭を占めた。
栗花落くんは困ったように笑うだけだった。
「与えるだけ与えて、都合が悪くなったら、僕のことはもうどうでもええんか?」
困り顔で何も言わない栗花落くんに、僕はもう言葉が止まらない。
「僕ら、恋人同士やないん?それも今日で終わりか?」
責めるように駄々をこねる僕に、栗花落くんは僕を撫でる手を止めた。
「終わらないよ。僕らはこれからもずっと、一緒だよ。夏木くんは、僕を一生愛してくれるの?」
僕は、涙でぐしゃぐしゃの顔を上げると、じっと栗花落くんの目を見た。
その時の栗花落くんの瞳は、神楽くんの写真を見ていた時のそれで、僕は、やっと栗花落くんを手に入れた気持ちになった。
望んではだめなものを手に入れしまった時の、背徳感と優越感というのは、とても複雑な感情で、僕の鼓動はドクドクと脈打つ。声が出なくなる。僕は、こくんと頷き、その質問に肯定の意を示した。
「本当にいいの?」
栗花落くんは表情を変えることなく、僕に再度問う。それは質問というより、懇願するように、僕の胸に切実に届く。
「愛する。ずっとこれからもこの先もずっと、僕の息の根が止まるまでその時迄、僕は、栗花落くんだけを愛する。」
僕が答えると、栗花落くんはいつものようにふわっと人懐こい表情を見せた。
「じゃぁ、今から僕のことは紫音って呼んでよ。」
初めて聞く聞きなれない言葉に、耳が擽ったくなった。
「しおん、紫音くん……」
「なぁに、夏木くん?」
きっと、前の恋人にもそう呼ばせていたのだろう。僕は、分かってた。あの子には勝てるはずがない。だけど、今目の前にいる栗花落紫音を独占しているのは僕だけで、あの子は彼の思い出の中で眠ったのだ。
その瞬間。
僕だけの、
──僕だけの
栗花落紫苑になった。
あの頃はまだ僕はヒーローを信じていた。ヒーローものが大好きで、いつもヒーロー人形を持っていて、その子にヒーローのカッコ良さを語った。ヒーローごっこをしたり、ブランコで遊んだり、鬼ごっこをして、門限の時間まで毎日遊んでいた。
その子に会えなくなって、また会いたいといつも持っていたヒーロー人形にお願いをしていた。
だけど、それも終わりを迎えた。
ある日学校から帰ると、ヒーローに関するものは僕の部屋から全て消えていた。兄に棄てられていた。
「ヒーローなんていないんだよ。」
兄は僕にそう言った。
僕はショックは受けるものの、その時ですら、兄の言うことをすんなりと受け入れた。
ヒーローはいない。
僕は、それからはもう、あの子に会いたいと願うことすらしなくなった。
だけど、ヒーローはここにいた。
僕のヒーローは、栗花落くんだったんだ。
「栗花落くん。僕も一緒に行く。」
僕がそう言うと、栗花落くんは柔らかい笑顔を見せた。
「喜んで。……そう言いたいけど、だめだよ。」
栗花落くんは、僕を真剣な眼差しで見た。
「だって、まだ夏木くんの目は生きているもの。僕の目を見てよ。もう、かなり前から、生きてないんだ。」
僕を生きる意味にして欲しい。
そう思いはしても、兄貴がそれを許さない。僕らは八方塞がりだった。
「栗花落くんとなんて出会わなかったら良かった。友達になんて、ならなかったら良かった。」
僕はボソリと呟いた。
栗花落くんは、目をぱちぱちとして驚いた。
僕の目からは気付いたら涙が溢れていた。
栗花落くんは体を起こすと僕の頭を撫でた。
「僕は、最期に夏木くんと出会えて良かった。毎日、すごく楽しかったよ。」
「せやから!」
声を荒らげて、僕はもう涙が止まらない。
「なんで僕にこの感情を教えたんや?知らんかったら、こんな気持ちも知らずに済んだ……なんでや…。僕だけ、このつまらない世界に置いていくん?」
僕は子供のように駄々をこねた。
小4の時に僕の目の前から消えたあの子にぶつけたかった言葉を、栗花落くんにぶつけている。
八つ当たりと言えばそうだが、この時の僕はそんな事どうでもよかった。
もうすでに自分の感情をコントロール出来ずに、ただ、目の前の相手をずっと傍に置いておきたい。独占欲だけが、頭を占めた。
栗花落くんは困ったように笑うだけだった。
「与えるだけ与えて、都合が悪くなったら、僕のことはもうどうでもええんか?」
困り顔で何も言わない栗花落くんに、僕はもう言葉が止まらない。
「僕ら、恋人同士やないん?それも今日で終わりか?」
責めるように駄々をこねる僕に、栗花落くんは僕を撫でる手を止めた。
「終わらないよ。僕らはこれからもずっと、一緒だよ。夏木くんは、僕を一生愛してくれるの?」
僕は、涙でぐしゃぐしゃの顔を上げると、じっと栗花落くんの目を見た。
その時の栗花落くんの瞳は、神楽くんの写真を見ていた時のそれで、僕は、やっと栗花落くんを手に入れた気持ちになった。
望んではだめなものを手に入れしまった時の、背徳感と優越感というのは、とても複雑な感情で、僕の鼓動はドクドクと脈打つ。声が出なくなる。僕は、こくんと頷き、その質問に肯定の意を示した。
「本当にいいの?」
栗花落くんは表情を変えることなく、僕に再度問う。それは質問というより、懇願するように、僕の胸に切実に届く。
「愛する。ずっとこれからもこの先もずっと、僕の息の根が止まるまでその時迄、僕は、栗花落くんだけを愛する。」
僕が答えると、栗花落くんはいつものようにふわっと人懐こい表情を見せた。
「じゃぁ、今から僕のことは紫音って呼んでよ。」
初めて聞く聞きなれない言葉に、耳が擽ったくなった。
「しおん、紫音くん……」
「なぁに、夏木くん?」
きっと、前の恋人にもそう呼ばせていたのだろう。僕は、分かってた。あの子には勝てるはずがない。だけど、今目の前にいる栗花落紫音を独占しているのは僕だけで、あの子は彼の思い出の中で眠ったのだ。
その瞬間。
僕だけの、
──僕だけの
栗花落紫苑になった。
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