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35.人は裏切るもの。
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僕は思い切って夏木くんに聞いてみることにした。
「夏木くんが昔好きだったヒーローって、どんなやつだったの?」
夏木くんは少し考えたあと、「忘れてもうたわ」と笑った。僕は少しガッカリてしまった。その様子に気付いたのか、夏木くんはもう少し話を続けてくれた。
「公園でいつものように遊んどったら、ある時友達が出来たんや。えらい短い間やったけど、俺にとっては初めての友達やった。でも、突然おらんくなったんや。友達も、ヒーロー人形も。」
歩きながらちょうど木陰に入ったタイミングで、夏木くんが顔を伏せたので、表情は見えない。だけど、夏木くんが今にも泣きそうな顔をしてるのがなんとなくわかってしまった。
初めて出来た友達と、大切にしていた物がある日突然消えてしまった時、まだ幼い夏木くんはどんな気持ちだったんだろうか。僕は、分かるような気もしたけど、でもきっと完全に理解は出来ない。
何も出来ない無力感でいっぱいになった僕は、無意識に夏木くんの服の裾を握りしめてその場に立ち尽くしてしまったらしい。夏木くんは歩みを止めて、僕の頭を撫でた。
「なんで冬月が泣くんや。もう昔のことやで。今は秋瀬も春川も冬月もおるから、大丈夫や。冬月は、優しいんやな。」
夏木くんに言われて自分が泣いてることに気付いた。視界が歪んでいて、瞬きをすると、頬を温かいものが伝う。優しいんじゃない。過去に友達に裏切られた自分と、当時の夏木くんがダブってしまったことで、体が勝手に反応してしまったのだ。
どうして、人は裏切るんだろう。どうして、信じてしまうんだろう。ないならないで良かったのに。最初から無かったなら、ずっと無いままでいい。あることの幸せを知って、それが当たり前になってしまった時に消えてしまう。その時の絶望感は、味わった本人しか分からない。
春川くんや、夏木くん、秋瀬くんも、いつか僕を──捨てるのかな
どうして、僕は信じてしまったんだろう。裏切られない保証なんてない。あんなにボロボロになったのに。それでも僕は、まだ誰かを信じたいと思ってしまっていたんだ。
偽りの自分になりなきって、僕は強くなったつもりではいたけど、真の僕はやっぱり弱いまま。顔を隠して人と距離をおいて、僕が傷つかないように、僕は僕自身を守っていた。
僕を撫でる夏木くんの手はとても温かくて、いつか裏切られるのだとしても、この温かさだけは本物なんだと安心させてくれた。自分の為に泣いている僕を、人の為に泣ける優しい人だと勘違いして、撫でてくれてるこの手を、僕は今現在裏切っている。
そうじゃないと否定することも出来ずに、彼の優しさに甘んじて、この温かさを享受している僕は、卑怯なのかもしれない。少し顔を上げると、全てを肯定してくれるような優しい目で、微笑んでいる夏木くんがいた。
僕は公道にいることも忘れて、わっと泣き出してしまった。
僕の目の前にあるこの顔やこの手が、嘘でも偽りでもいい。僕もこの人を欺いているんだ。僕が僕自身で作り上げた、僕のためのヒーローに、彼が救われたと思っているなら、僕だって嘘の自分で、彼を救っていたのだ。
考えるとなんだかとても滑稽に思えて、笑えてきた。僕は人を欺いている。人に裏切られて、人が信じられなくなった僕も、結果的にたくさんの人を裏切っているのだ。
自分を救ってくれたと思っている憧れの人が、今こうして自分の胸でわんわん泣いてることを知ったら、彼は一体どんな顔をするんだろうか。想像すると、もう涙は止まっていた。
「夏木くんが昔好きだったヒーローって、どんなやつだったの?」
夏木くんは少し考えたあと、「忘れてもうたわ」と笑った。僕は少しガッカリてしまった。その様子に気付いたのか、夏木くんはもう少し話を続けてくれた。
「公園でいつものように遊んどったら、ある時友達が出来たんや。えらい短い間やったけど、俺にとっては初めての友達やった。でも、突然おらんくなったんや。友達も、ヒーロー人形も。」
歩きながらちょうど木陰に入ったタイミングで、夏木くんが顔を伏せたので、表情は見えない。だけど、夏木くんが今にも泣きそうな顔をしてるのがなんとなくわかってしまった。
初めて出来た友達と、大切にしていた物がある日突然消えてしまった時、まだ幼い夏木くんはどんな気持ちだったんだろうか。僕は、分かるような気もしたけど、でもきっと完全に理解は出来ない。
何も出来ない無力感でいっぱいになった僕は、無意識に夏木くんの服の裾を握りしめてその場に立ち尽くしてしまったらしい。夏木くんは歩みを止めて、僕の頭を撫でた。
「なんで冬月が泣くんや。もう昔のことやで。今は秋瀬も春川も冬月もおるから、大丈夫や。冬月は、優しいんやな。」
夏木くんに言われて自分が泣いてることに気付いた。視界が歪んでいて、瞬きをすると、頬を温かいものが伝う。優しいんじゃない。過去に友達に裏切られた自分と、当時の夏木くんがダブってしまったことで、体が勝手に反応してしまったのだ。
どうして、人は裏切るんだろう。どうして、信じてしまうんだろう。ないならないで良かったのに。最初から無かったなら、ずっと無いままでいい。あることの幸せを知って、それが当たり前になってしまった時に消えてしまう。その時の絶望感は、味わった本人しか分からない。
春川くんや、夏木くん、秋瀬くんも、いつか僕を──捨てるのかな
どうして、僕は信じてしまったんだろう。裏切られない保証なんてない。あんなにボロボロになったのに。それでも僕は、まだ誰かを信じたいと思ってしまっていたんだ。
偽りの自分になりなきって、僕は強くなったつもりではいたけど、真の僕はやっぱり弱いまま。顔を隠して人と距離をおいて、僕が傷つかないように、僕は僕自身を守っていた。
僕を撫でる夏木くんの手はとても温かくて、いつか裏切られるのだとしても、この温かさだけは本物なんだと安心させてくれた。自分の為に泣いている僕を、人の為に泣ける優しい人だと勘違いして、撫でてくれてるこの手を、僕は今現在裏切っている。
そうじゃないと否定することも出来ずに、彼の優しさに甘んじて、この温かさを享受している僕は、卑怯なのかもしれない。少し顔を上げると、全てを肯定してくれるような優しい目で、微笑んでいる夏木くんがいた。
僕は公道にいることも忘れて、わっと泣き出してしまった。
僕の目の前にあるこの顔やこの手が、嘘でも偽りでもいい。僕もこの人を欺いているんだ。僕が僕自身で作り上げた、僕のためのヒーローに、彼が救われたと思っているなら、僕だって嘘の自分で、彼を救っていたのだ。
考えるとなんだかとても滑稽に思えて、笑えてきた。僕は人を欺いている。人に裏切られて、人が信じられなくなった僕も、結果的にたくさんの人を裏切っているのだ。
自分を救ってくれたと思っている憧れの人が、今こうして自分の胸でわんわん泣いてることを知ったら、彼は一体どんな顔をするんだろうか。想像すると、もう涙は止まっていた。
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