16 / 65
15.冬月と三人組
しおりを挟むなかなか帰ってこない春川くんが心配になり、お腹が痛くなったという理由で僕は教室から出てきた。僕はストレス性胃腸炎持ちなので、いつものことかとすんなり教室から出ることが出来た。
保健室に向かって歩いていると、三人組が前から歩いてきた。真ん中で、春川くんが歩いている。どうやら歩けるくらいには回復したらしい。僕は慌てて駆け寄った。
「は、春川くん大丈夫?」
「うん、心配かけてごめんね。ちょっと貧血気味で、しんどくなっちゃったみたい。」
「そっか。良かったー」
少し血色が戻ってきている。担任に声を掛けられてから、春川くんは様子がおかしくなった。担任と春川くんの間には、あの時絶対異常な何かが流れてた。巻き込まれ型不運の続く僕の危機察知能力は、こんな時役に立つ。気づいた時にはちょっと遅かったけど。
「冬月。」
「は、はいっ」
目付きの怖い春川の隣の席の秋瀬くんにいきなり話しかけられ、僕は思わず声が裏返る。恐る恐るそちらを見ると、少し顔を赤くしてそっぽを向きながら、頭を掻いていた。
「お前が春川救ってくれたんだってな。ありがとう。」
すると、それを聞いていた春川くんが、ちっちっちっと人差し指を左右に動かし、
「秋瀬はダメだなぁ。お礼言う時はちゃんと相手の方に体に向けて、お辞儀するんだよ。」
と、お礼のダメ出しをしていた。いや、こんなキラキラ人間が、底辺の僕にお礼を言ってくれてる、寧ろ僕なんかに声をかけてくれることが奇跡だから、そんな折角のご好意に、ダメ出しなんて(汗)僕は、あぅあぅ言いながら、2人を眺めた。
「ちっ。うっせーな。そもそも、お前が助けてもらったんだから、お前がやれよな。」
「あ、そっか。じゃぁ僕がお手本見せるから、秋瀬もやるんだよ。はい、姿勢を良くして...」
「冬月」「冬月くん」
「春川を」「僕を」
「「助けてくれて、ありがとう」」
その二人を見て、合わせるように夏木くんまで、綺麗なお辞儀をして見せた。
なにこれなにこれ、僕に今何が起こってるの。春川くんとそのお友達のキラキラ2人組が、何故か僕に深々とお辞儀をしている。どういう状況???
僕は半ばパニックになりながら、心臓をバクバクさせていた。
「はい、上手に出来ました。」
振り返って二人に拍手を送る春川くん。秋瀬くんに、調子にのんなと頭にデコピンされていた。うわ、痛そう。そして、それとは別に、じっとこちらを見ている視線を感じた。
「冬月くん、どっかで会うた事ない?」
そう聞かれ、僕の心臓は更にドキドキが高鳴る。夏木くんの整った顔が僕をまっすぐ見てる。キラキラ過ぎて、死ぬ...
「夏木お前、それナンパかよ。」
「夏木くん何言ってんの。クラスメイトだから、毎日教室で会ってるでしょ。僕達もうすぐ入学して3ヶ月になるんだよ?」
「え、ナンパ?知らんてなんやそれ。そりゃクラスメイトやけど、そうやなくて、別のどっかで...」
夏木くんは顔を赤くして、モゴモゴと言葉を濁らせた。どこかで会ったかと言われ、こんなキラキラさん。僕の人生で今までお目にかかったことなんて無いはずだ。でも、かすかに、僕を呼ぶ誰かの記憶が、夏木くんと重なる。
思い出そうとすると頭痛がしたので、考えることをやめた。本当に体調が悪くなってきたので、このまま保健室に行くことにした。
「あの、僕頭痛いのでこのまま保健室行ってきます。」
それを聞いて春川くんが僕が着いていく!と言ったけど、春川くんが来るということは、後ろの二人も着いてきそうなので、それだと余計にしんどくなりそうで。謹んで辞退させてもらった。
それにしても、キラキラの二人をバックにして、僕に手を差し伸べた春川くんは、天使のように見えたなぁ。そう思いながら、僕は一人、保健室に向かった。
───
冬月を見送り、俺は前を歩く秋瀬と春川の話を聞いていた。
「6限目は数学かー。憂鬱の極み。」
「お前が真面目に授業聞かないから、余計分からなくなるんだろ。」
「だって数字見てるとなんか眠くなってくるんだよねー」
「苦手だって思うから、脳が逃げてんだよ」
「なんだって!脳が悪いのか。じゃぁこうやって頭を押さえてたらいいのか!よし、脳逃げんな!秋瀬もほら、逃げないように手伝ってよ。」
両手で頭を押さえている春川を、呆れ顔で見ている秋瀬。
「いや、お前ほんとバカ過ぎ。お前の脳が不憫だわ。」
「えー!脳が悪いんでしょ!捕まえとかないと!」
前でギャーギャーといつものように騒いでいる。
さっきの保健室での出来事は、なんだったんだろうか。俺の白昼夢だったとでも言うのか。頬をつねるとじんわり痛い。今は現実のようだった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
嫌われものの僕について…
相沢京
BL
平穏な学校生活を送っていたはずなのに、ある日突然全てが壊れていった。何が原因なのかわからなくて気がつけば存在しない扱いになっていた。
だか、ある日事態は急変する
主人公が暗いです
元生徒会長さんの日常
あ×100
BL
俺ではダメだったみたいだ。気づけなくてごめんね。みんな大好きだったよ。
転校生が現れたことによってリコールされてしまった会長の二階堂雪乃。俺は仕事をサボり、遊び呆けたりセフレを部屋に連れ込んだりしたり、転校生をいじめたりしていたらしい。
そんな悪評高い元会長さまのお話。
長らくお待たせしました!近日中に更新再開できたらと思っております(公開済みのものも加筆修正するつもり)
なお、あまり文才を期待しないでください…痛い目みますよ…
誹謗中傷はおやめくださいね(泣)
2021.3.3
ひとりぼっちの180日
あこ
BL
付き合いだしたのは高校の時。
何かと不便な場所にあった、全寮制男子高校時代だ。
篠原茜は、その学園の想像を遥かに超えた風習に驚いたものの、順調な滑り出しで学園生活を始めた。
二年目からは学園生活を楽しみ始め、その矢先、田村ツトムから猛アピールを受け始める。
いつの間にか絆されて、二年次夏休みを前に二人は付き合い始めた。
▷ よくある?王道全寮制男子校を卒業したキャラクターばっかり。
▷ 綺麗系な受けは学園時代保健室の天使なんて言われてた。
▷ 攻めはスポーツマン。
▶︎ タグがネタバレ状態かもしれません。
▶︎ 作品や章タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。
この愛のすべて
高嗣水清太
BL
「妊娠しています」
そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。
俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。
※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。
両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
眺めるほうが好きなんだ
チョコキラー
BL
何事も見るからこそおもしろい。がモットーの主人公は、常におもしろいことの傍観者でありたいと願う。でも、彼からは周りを虜にする謎の色気がムンムンです!w
顔はクマがあり、前髪が長くて顔は見えにくいが、中々美形…!
そんな彼は王道をみて楽しむ側だったのに、気づけば自分が中心に!?
てな感じの巻き込まれくんでーす♪
【doll】僕らの記念日に本命と浮気なんてしないでよ
月夜の晩に
BL
平凡な主人公には、不釣り合いなカッコいい彼氏がいた。
しかしある時、彼氏が過去に付き合えなかった地元の本命の身代わりとして、自分は選ばれただけだったと知る。
それでも良いと言い聞かせていたのに、本命の子が浪人を経て上京・彼氏を頼る様になって…
成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる