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しゃれこうべの誘惑7
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両者玉が縮み上がる思いで振り返ると、そこには暗かったが端正な顔立ちがわかる立ち姿。二人とも見覚えがあった。文十郎だ。
戸を開け放ち、薄暗がりの中、男二人が尻を出して、膝立ちでいる。文十郎はまさかこの二人に男色の気があろうとは露ほどにも思わなかったため、雪崩のごとく家屋の中へと入っていこうとしたが、二歩ほど後ずらせるほど衝撃を受けた。
だが、さらに次の刹那衝撃が走ったのは床の上に置かれている千代の顔であった。
「くっ……かっ……きき……ち……千代……!」
言葉にならぬほどの感情の大津波が喉元から吹き上がり、溺れたように言葉を失わせた。もはや自分で何を喋ろうとしたのかわからぬほど頭の中をぐしゃりと鷲づかみにされ、胸の痛みと感じたことのない怒りを間欠泉のように湧き上がらせた。
長い間探していた千代に会えたかと思ったら、そこには生首があった上に、この二人の鬼畜はあろうことか生首を前に一物までさらし、あろうことか千代の綺麗な顔を、花嫁姿で披露するはずだった、あの美しい顔を白い液で汚していたのだ。
残忍非道。犬畜生にも劣る下劣な行為に、事態を飲み込むまで多少の時間を労したが、人ならざる畜生どもを始末しようと体が動き始めるには迷いはなかった。
「よ、よくも、よくも千代を……」
怒りに震えすぎ低い声しか出なかった。文十郎、戸の近くにあったクワを手に持ち、二人の頭をかち割ってやろうと凄みを増して近づいてくる。
「こ、これは違う! ご、誤解だ!」
まず安次郎が叫んだが、人を殺め、さらには胴から首を切り離し慰みものとしていたとしか思えない状況を目の前に「誤解」の言葉が通じるはずもなかった。
文十郎風に煽られた火のごとく怒りを燃やしている。
咄嗟に松兵衛、文十郎がクワを頭に振り上げたところ、千代の顔を持ち目の前に出す。クワが頭上で止まる。大事な千代の顔を自分の手で傷つけるのはさすがに心が痛むのだろう。
「よく見ろ! これは土で作ったのだ! 首のところを見ればよくわかるだろう!」
首の付け根を見せたが、首に土のようなものがびっしりと詰まっていた。文十郎の怒りはまだ収まらず「お前たちが千代を殺めてこのような姿にしたのであろう!」とさらに襲い掛からんとする文十郎に安次郎が一物を曝け出したまま立ちはだかった。男根の奥に残っていた汁が先端から糸を引いて落ちながらも声を張った。
「文十郎! 落ち着くのだ! これはわしが河原で見つけたのだ! 骨の形も良いし、もしや千代殿ではないかと松兵衛に粘土を使って顔を作れんかと頼んだのだ」
「そ、そうなんだ! 髪は俺が私財を投げ打ってまで手に入れたもので、おしろいや紅は安次郎が持ってきてくれて、この通りなんだ!」
この通り、と言われても頬についた汁がまだ鮮度を失わず垂れている。他の男に汚されたような嫌悪感は抜けきらない。だがよく見ると汁がおしろいをはがし、下の土を見せている。だが死体も似たような色になることがあるため、にわかには信じがたかったが「首のところを強く指で押してみるがいい!」と松兵衛に言われ恐る恐る触ってみると指がめり込み、さらに念を入れつまんでみると土が取れた。肉らしき質感はすべて粘土で出来ていたのだ。
「こ、これは……」
信じられないことであったが、確かに言われた通りであることは文十郎は理解した。
理解した。
理解はしたが、どうにも腑に落ちないことが多々ある。
「事情はわかった。しかし……しかしだ……」
怒涛の胸のうちが溢れ出た後は涙が出てきた。いなくなってからというもの切実に再会を願い続けてきたのだ。
その純朴な気持ち、いかほどか量りようもないほどであった。
落ち着いてくると涙が止まらなくなってくる。
悔しいやら情けないやら、文十郎自身も言葉にできぬほどの気持ちのこみ上がりようであったが、気持ちが落ち着いてくると、ようやくこのような形であっても出会えたという嬉しさの方が勝ってきた。
文十郎がその気持ちに勝るまでの間、ふんどしを脱ぎ捨てた二人がイチモツを曝け出しながらひたすら慰めていたのだが、もはや文十郎には気にも留めぬことであった。
戸を開け放ち、薄暗がりの中、男二人が尻を出して、膝立ちでいる。文十郎はまさかこの二人に男色の気があろうとは露ほどにも思わなかったため、雪崩のごとく家屋の中へと入っていこうとしたが、二歩ほど後ずらせるほど衝撃を受けた。
だが、さらに次の刹那衝撃が走ったのは床の上に置かれている千代の顔であった。
「くっ……かっ……きき……ち……千代……!」
言葉にならぬほどの感情の大津波が喉元から吹き上がり、溺れたように言葉を失わせた。もはや自分で何を喋ろうとしたのかわからぬほど頭の中をぐしゃりと鷲づかみにされ、胸の痛みと感じたことのない怒りを間欠泉のように湧き上がらせた。
長い間探していた千代に会えたかと思ったら、そこには生首があった上に、この二人の鬼畜はあろうことか生首を前に一物までさらし、あろうことか千代の綺麗な顔を、花嫁姿で披露するはずだった、あの美しい顔を白い液で汚していたのだ。
残忍非道。犬畜生にも劣る下劣な行為に、事態を飲み込むまで多少の時間を労したが、人ならざる畜生どもを始末しようと体が動き始めるには迷いはなかった。
「よ、よくも、よくも千代を……」
怒りに震えすぎ低い声しか出なかった。文十郎、戸の近くにあったクワを手に持ち、二人の頭をかち割ってやろうと凄みを増して近づいてくる。
「こ、これは違う! ご、誤解だ!」
まず安次郎が叫んだが、人を殺め、さらには胴から首を切り離し慰みものとしていたとしか思えない状況を目の前に「誤解」の言葉が通じるはずもなかった。
文十郎風に煽られた火のごとく怒りを燃やしている。
咄嗟に松兵衛、文十郎がクワを頭に振り上げたところ、千代の顔を持ち目の前に出す。クワが頭上で止まる。大事な千代の顔を自分の手で傷つけるのはさすがに心が痛むのだろう。
「よく見ろ! これは土で作ったのだ! 首のところを見ればよくわかるだろう!」
首の付け根を見せたが、首に土のようなものがびっしりと詰まっていた。文十郎の怒りはまだ収まらず「お前たちが千代を殺めてこのような姿にしたのであろう!」とさらに襲い掛からんとする文十郎に安次郎が一物を曝け出したまま立ちはだかった。男根の奥に残っていた汁が先端から糸を引いて落ちながらも声を張った。
「文十郎! 落ち着くのだ! これはわしが河原で見つけたのだ! 骨の形も良いし、もしや千代殿ではないかと松兵衛に粘土を使って顔を作れんかと頼んだのだ」
「そ、そうなんだ! 髪は俺が私財を投げ打ってまで手に入れたもので、おしろいや紅は安次郎が持ってきてくれて、この通りなんだ!」
この通り、と言われても頬についた汁がまだ鮮度を失わず垂れている。他の男に汚されたような嫌悪感は抜けきらない。だがよく見ると汁がおしろいをはがし、下の土を見せている。だが死体も似たような色になることがあるため、にわかには信じがたかったが「首のところを強く指で押してみるがいい!」と松兵衛に言われ恐る恐る触ってみると指がめり込み、さらに念を入れつまんでみると土が取れた。肉らしき質感はすべて粘土で出来ていたのだ。
「こ、これは……」
信じられないことであったが、確かに言われた通りであることは文十郎は理解した。
理解した。
理解はしたが、どうにも腑に落ちないことが多々ある。
「事情はわかった。しかし……しかしだ……」
怒涛の胸のうちが溢れ出た後は涙が出てきた。いなくなってからというもの切実に再会を願い続けてきたのだ。
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落ち着いてくると涙が止まらなくなってくる。
悔しいやら情けないやら、文十郎自身も言葉にできぬほどの気持ちのこみ上がりようであったが、気持ちが落ち着いてくると、ようやくこのような形であっても出会えたという嬉しさの方が勝ってきた。
文十郎がその気持ちに勝るまでの間、ふんどしを脱ぎ捨てた二人がイチモツを曝け出しながらひたすら慰めていたのだが、もはや文十郎には気にも留めぬことであった。
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