5 / 8
しゃれこうべの誘惑5
しおりを挟む
同じように男根を硬くさせていることがばれたら、いかなることになるか。恥知らずと糾弾した後のザマだ。いやいや。俺はまだ結婚もしていないし女すらいないから大丈夫なはずだ。
などと理の捻じ曲がったことを考えていた松兵衛だが「早くしろ」と凄まれ、「ええい!」と覚悟を決め盛り上がった褌をこれでもかと見せ付けてやった。
「やはりお前もそうだったか」
怒るわけでもなく冷静な安次郎。気をそがれた松兵衛は「うん?」といぶかしがる。
「五年もしておらんのだ」
松兵衛の男根を見つめているのかうな垂れているのかわからぬ様子で細々と喋り始める。
「このような見事なうりざね顔の美人がこれほど間近にいるのだ。娘はそろそろ年頃だが妻が溺愛していてな、俺との間には五年も営みがない。このまま娘が嫁に出ても萎えきった大根が元に戻らぬのと同じ。妻との間に営みが生まれようはずはない。このような絶望的な状況をお前も哀れに思うだろう。我慢していたのだ。欲しくなるではないか。この疼きをどうにも堪え切れなかったのだ。まるで今にも口を開けて導き入れんとするような静かな淫らさを兼ね備えた顔ではないか」
(まさか、こいつ俺と同じことを考えていたのでは!)
となると安次郎の言葉など動揺によって、もはや耳には入ってこなくなった。まだ何かもごもごと言っているようだが、松兵衛にとっては己が苦労して私財まで投げ打って作ったものであり、己こそが完成させたものであるから、少なくとも顔の部分だけは己のものであり、顔が己のものであるということは、これは俺のものだと主張してもかまわんものだ、という意識が支配していただけに、気分としては「何を人の嫁に手を出そうとしているのか」と言いたい気分であった。
「だから頼む! この通りだ!」
「ならん!」
何を頼まれたかまったく耳に入ってこなかったが、とにかくよからぬことだと嫌悪感交じりで全力の拒絶を見せた。
「おしろいと紅を貸したのは俺ではないか!」
痛いところを突いてくる。確かにこの千代はおしろいと紅によって完璧となった。それまでは土色だったのだから、土色ではこうまでそそられはしなかったかもしれない。否、血色の悪い女にそそられはしない。
仕上げが大事なのは言うまでもなかった。職人だからこそ身に滲みてわかっていただけに安次郎の功績は無視できぬものがあった。
己のものとした千代を他人の手に委ねるのは心中穏やかならぬものがあったが、致し方なし。松兵衛の心にも哀れみが生まれてきた。
「わかった」
とにかく安次郎の言葉は頭の中には残っていなかったが覚悟して受け入れた。
「すまん。恩にきる」
と、安次郎すごすごとふんどしを外し始める。
「お前、一体何をするのだ」
「何をとは、先ほど告げたではないか。恥ずかしいから向こうを向いてくれ」
「いや、待った!」
言葉は耳に入ってはなかったが、やることはわかっていながらも松兵衛は湧き上がる惜しさに制止した。しかし一度許した身。やはり気が変わったとなっては男として示しがつかない。
「安次郎。実はな、俺は前々から千代のことを好いておってな、俺は俺でこれでも胸の奥を随分と苦しめてきたのだ。だからな、お前の気持ちもわかる。だから俺の気持ちもどうか察して欲しい」
もはや安次郎の下半身は合戦最中。堂々と槍を構えている。
「わかった。このしゃれこうべの功はまさにお前の力あってこそ。ここは二人で痛みわけということでどうだ」
もはや何の話をしているのかわからなくなってきた松兵衛は「わかった。お互い後悔しないように」とだけ言い、ふんどしを解き捨てた。
などと理の捻じ曲がったことを考えていた松兵衛だが「早くしろ」と凄まれ、「ええい!」と覚悟を決め盛り上がった褌をこれでもかと見せ付けてやった。
「やはりお前もそうだったか」
怒るわけでもなく冷静な安次郎。気をそがれた松兵衛は「うん?」といぶかしがる。
「五年もしておらんのだ」
松兵衛の男根を見つめているのかうな垂れているのかわからぬ様子で細々と喋り始める。
「このような見事なうりざね顔の美人がこれほど間近にいるのだ。娘はそろそろ年頃だが妻が溺愛していてな、俺との間には五年も営みがない。このまま娘が嫁に出ても萎えきった大根が元に戻らぬのと同じ。妻との間に営みが生まれようはずはない。このような絶望的な状況をお前も哀れに思うだろう。我慢していたのだ。欲しくなるではないか。この疼きをどうにも堪え切れなかったのだ。まるで今にも口を開けて導き入れんとするような静かな淫らさを兼ね備えた顔ではないか」
(まさか、こいつ俺と同じことを考えていたのでは!)
となると安次郎の言葉など動揺によって、もはや耳には入ってこなくなった。まだ何かもごもごと言っているようだが、松兵衛にとっては己が苦労して私財まで投げ打って作ったものであり、己こそが完成させたものであるから、少なくとも顔の部分だけは己のものであり、顔が己のものであるということは、これは俺のものだと主張してもかまわんものだ、という意識が支配していただけに、気分としては「何を人の嫁に手を出そうとしているのか」と言いたい気分であった。
「だから頼む! この通りだ!」
「ならん!」
何を頼まれたかまったく耳に入ってこなかったが、とにかくよからぬことだと嫌悪感交じりで全力の拒絶を見せた。
「おしろいと紅を貸したのは俺ではないか!」
痛いところを突いてくる。確かにこの千代はおしろいと紅によって完璧となった。それまでは土色だったのだから、土色ではこうまでそそられはしなかったかもしれない。否、血色の悪い女にそそられはしない。
仕上げが大事なのは言うまでもなかった。職人だからこそ身に滲みてわかっていただけに安次郎の功績は無視できぬものがあった。
己のものとした千代を他人の手に委ねるのは心中穏やかならぬものがあったが、致し方なし。松兵衛の心にも哀れみが生まれてきた。
「わかった」
とにかく安次郎の言葉は頭の中には残っていなかったが覚悟して受け入れた。
「すまん。恩にきる」
と、安次郎すごすごとふんどしを外し始める。
「お前、一体何をするのだ」
「何をとは、先ほど告げたではないか。恥ずかしいから向こうを向いてくれ」
「いや、待った!」
言葉は耳に入ってはなかったが、やることはわかっていながらも松兵衛は湧き上がる惜しさに制止した。しかし一度許した身。やはり気が変わったとなっては男として示しがつかない。
「安次郎。実はな、俺は前々から千代のことを好いておってな、俺は俺でこれでも胸の奥を随分と苦しめてきたのだ。だからな、お前の気持ちもわかる。だから俺の気持ちもどうか察して欲しい」
もはや安次郎の下半身は合戦最中。堂々と槍を構えている。
「わかった。このしゃれこうべの功はまさにお前の力あってこそ。ここは二人で痛みわけということでどうだ」
もはや何の話をしているのかわからなくなってきた松兵衛は「わかった。お互い後悔しないように」とだけ言い、ふんどしを解き捨てた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
秦宜禄の妻のこと
N2
歴史・時代
秦宜禄(しんぎろく)という人物をしっていますか?
三国志演義(ものがたりの三国志)にはいっさい登場しません。
正史(歴史の三国志)関羽伝、明帝紀にのみちょろっと顔を出して、どうも場違いのようなエピソードを提供してくれる、あの秦宜禄です。
はなばなしい逸話ではありません。けれど初めて読んだとき「これは三国志の暗い良心だ」と直感しました。いまでも認識は変わりません。
たいへん短いお話しです。三国志のかんたんな流れをご存じだと楽しみやすいでしょう。
関羽、張飛に思い入れのある方にとっては心にざらざらした砂の残るような内容ではありましょうが、こういう夾雑物が歴史のなかに置かれているのを見て、とても穏やかな気持ちになります。
それゆえ大きく弄ることをせず、虚心坦懐に書くべきことを書いたつもりです。むやみに書き替える必要もないほどに、ある意味清冽な出来事だからです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
北武の寅 <幕末さいたま志士伝>
海野 次朗
歴史・時代
タイトルは『北武の寅』(ほくぶのとら)と読みます。
幕末の埼玉人にスポットをあてた作品です。主人公は熊谷北郊出身の吉田寅之助という青年です。他に渋沢栄一(尾高兄弟含む)、根岸友山、清水卯三郎、斎藤健次郎などが登場します。さらにベルギー系フランス人のモンブランやフランスお政、五代才助(友厚)、松木弘安(寺島宗則)、伊藤俊輔(博文)なども登場します。
根岸友山が出る関係から新選組や清河八郎の話もあります。また、渋沢栄一やモンブランが出る関係からパリ万博などパリを舞台とした場面が何回かあります。
前作の『伊藤とサトウ』と違って今作は史実重視というよりも、より「小説」に近い形になっているはずです。ただしキャラクターや時代背景はかなり重複しております。『伊藤とサトウ』でやれなかった事件を深掘りしているつもりですので、その点はご了承ください。
(※この作品は「NOVEL DAYS」「小説家になろう」「カクヨム」にも転載してます)
大奥~牡丹の綻び~
翔子
歴史・時代
*この話は、もしも江戸幕府が永久に続き、幕末の流血の争いが起こらず、平和な時代が続いたら……と想定して書かれたフィクションとなっております。
大正時代・昭和時代を省き、元号が「平成」になる前に候補とされてた元号を使用しています。
映像化された数ある大奥関連作品を敬愛し、踏襲して書いております。
リアルな大奥を再現するため、性的描写を用いております。苦手な方はご注意ください。
時は17代将軍の治世。
公家・鷹司家の姫宮、藤子は大奥に入り御台所となった。
京の都から、慣れない江戸での生活は驚き続きだったが、夫となった徳川家正とは仲睦まじく、百鬼繚乱な大奥において幸せな生活を送る。
ところが、時が経つにつれ、藤子に様々な困難が襲い掛かる。
祖母の死
鷹司家の断絶
実父の突然の死
嫁姑争い
姉妹間の軋轢
壮絶で波乱な人生が藤子に待ち構えていたのであった。
2023.01.13
修正加筆のため一括非公開
2023.04.20
修正加筆 完成
2023.04.23
推敲完成 再公開
2023.08.09
「小説家になろう」にも投稿開始。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる