しゃれこうべの誘惑

貴美月カムイ

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しゃれこうべの誘惑5

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 同じように男根を硬くさせていることがばれたら、いかなることになるか。恥知らずと糾弾した後のザマだ。いやいや。俺はまだ結婚もしていないし女すらいないから大丈夫なはずだ。
 などと理の捻じ曲がったことを考えていた松兵衛だが「早くしろ」と凄まれ、「ええい!」と覚悟を決め盛り上がった褌をこれでもかと見せ付けてやった。
「やはりお前もそうだったか」
 怒るわけでもなく冷静な安次郎。気をそがれた松兵衛は「うん?」といぶかしがる。
「五年もしておらんのだ」
 松兵衛の男根を見つめているのかうな垂れているのかわからぬ様子で細々と喋り始める。
「このような見事なうりざね顔の美人がこれほど間近にいるのだ。娘はそろそろ年頃だが妻が溺愛していてな、俺との間には五年も営みがない。このまま娘が嫁に出ても萎えきった大根が元に戻らぬのと同じ。妻との間に営みが生まれようはずはない。このような絶望的な状況をお前も哀れに思うだろう。我慢していたのだ。欲しくなるではないか。この疼きをどうにも堪え切れなかったのだ。まるで今にも口を開けて導き入れんとするような静かな淫らさを兼ね備えた顔ではないか」
(まさか、こいつ俺と同じことを考えていたのでは!)
 となると安次郎の言葉など動揺によって、もはや耳には入ってこなくなった。まだ何かもごもごと言っているようだが、松兵衛にとっては己が苦労して私財まで投げ打って作ったものであり、己こそが完成させたものであるから、少なくとも顔の部分だけは己のものであり、顔が己のものであるということは、これは俺のものだと主張してもかまわんものだ、という意識が支配していただけに、気分としては「何を人の嫁に手を出そうとしているのか」と言いたい気分であった。
「だから頼む! この通りだ!」
「ならん!」
 何を頼まれたかまったく耳に入ってこなかったが、とにかくよからぬことだと嫌悪感交じりで全力の拒絶を見せた。
「おしろいと紅を貸したのは俺ではないか!」
 痛いところを突いてくる。確かにこの千代はおしろいと紅によって完璧となった。それまでは土色だったのだから、土色ではこうまでそそられはしなかったかもしれない。否、血色の悪い女にそそられはしない。
 仕上げが大事なのは言うまでもなかった。職人だからこそ身に滲みてわかっていただけに安次郎の功績は無視できぬものがあった。
 己のものとした千代を他人の手に委ねるのは心中穏やかならぬものがあったが、致し方なし。松兵衛の心にも哀れみが生まれてきた。
「わかった」
 とにかく安次郎の言葉は頭の中には残っていなかったが覚悟して受け入れた。
「すまん。恩にきる」
 と、安次郎すごすごとふんどしを外し始める。
「お前、一体何をするのだ」
「何をとは、先ほど告げたではないか。恥ずかしいから向こうを向いてくれ」
「いや、待った!」
 言葉は耳に入ってはなかったが、やることはわかっていながらも松兵衛は湧き上がる惜しさに制止した。しかし一度許した身。やはり気が変わったとなっては男として示しがつかない。
「安次郎。実はな、俺は前々から千代のことを好いておってな、俺は俺でこれでも胸の奥を随分と苦しめてきたのだ。だからな、お前の気持ちもわかる。だから俺の気持ちもどうか察して欲しい」
 もはや安次郎の下半身は合戦最中。堂々と槍を構えている。
「わかった。このしゃれこうべの功はまさにお前の力あってこそ。ここは二人で痛みわけということでどうだ」
 もはや何の話をしているのかわからなくなってきた松兵衛は「わかった。お互い後悔しないように」とだけ言い、ふんどしを解き捨てた。
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