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しゃれこうべの誘惑4
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「あったぞ! これだろう!」
と両手に掲げているのはまさしくおしろいと紅であったから松兵衛大興奮。
「どれどれ」
としゃれこうべを覗き込んだ安次郎も
「うおおおおおおおおおおっ! これはまさしく千代ではないか!」
と息を荒くさせていた。
「少し待っておれ」
とあくまで興奮している様子を見せぬよう取り計らった松兵衛はおしろいを塗り、唇に紅を塗りかけるところで手が震えてくる。
震えが少しずつ大きくなり、手を離し作業を中断せねばならぬほどで、心の臓が縦横無尽に飛び跳ねていた。
安次郎もその気持ちがわかるのか、松兵衛を急かそうとしない。
松兵衛、鼓動と共に男根も天を突かんばかりにはち切れてくる。千代の顔が目の前にある。
(いかんいかん。まだ早い。まだ早いぞ)
しかしもはやふんどしを緩めたいほどに痛くなってきている。あれほど夢見てきた、千代の顔。瞳をうっすらと閉じ、静かに口の中に男根を誘い込み、柔らかな舌に溶けるようにねぶられる。雁首や亀頭を丹念に包み込ませ、声を押し殺して己のために尽くす愛しい姿。今までの夢想の全てがぶり返してきて溢れんばかりとなっている。
それにしても安次郎のやつはなんだ、と気になった。
松兵衛の後ろで随分と息を荒くしたままにしている。このしゃれこうべが千代のものであった、という気持ちとは、どうにも程遠いもの、いやむしろ松兵衛と同種のものをひしひしと感じていた。
気が散ったおかげで少し冷静さを取り戻せた松兵衛は、最後の一仕事、紅を唇に塗り、そして最後は墨で眉毛を書くことを終えた。
「やった……やったぞ……」
感無量であった。仕事が全部終わったからには、まずは安次郎に早々に帰ってもらい、二人きりのひと時を過ごしたいと焦りだし、安次郎へと向き直った。
「さすがは松兵衛。俺の夫婦茶碗を作ってくれた時も、いやこれはたいそうなものだと思っていたが、このような才まであるとは知らなかった」
と千代の方ばかりを見て松兵衛を見ようともしない。まるでだらしなく呆けている。それに正座をしているがやたらともじもじしている。明らかに様子がおかしい。
「どうした? 腹の具合でも悪いのか」
「あ、いや。そうでもないのだ。こうして見ると、やはり美人であるのぉと、引かれる思いで見ておったのだ」
「そうか。惜しいことをした。千代はやはり亡くなっておったのだな」
「うむ……」
「うむ……」
一瞬の静寂が流れる。それにしても何故この男は動こうともしないのだと松兵衛から切り出した。
「すまんが安次郎。俺も連日の作業で疲れ果てている。今日のところはすまんが休ませてくれんか。このことは日を改めて文十郎に伝えようではないか」
「お、おう」
あからさまに催促をされて、安次郎も留まるわけにはいかなくなったのだが、立ち上がった次の瞬間松兵衛の目の前に盛り上がった股間と、盛り上がりの先に地味に見える濡れた染みがあったのだ。
「お、お、お、お、お前!」
貴様俺の千代で! と言いそうになったがぐっと堪え、あくまで冷静に
「なんたる不届き者。お前には妻がおるだろう。その妻を差し置いて他人の女で発情するとはなんたること! 恥を知れ!」
さぞ動揺して平謝りになるであろうかと思われたが意に反して平然としている。それどころか、じとっとした目で松兵衛を見下ろしているから気圧されそうな程であった。
「松兵衛」
低い声。
「なんだ」
憮然とした表情で答える松兵衛。
「お前、立ってみろ」
「馬鹿を言うな。現におっ立てているのはお前のほうではないか」
「違う。立ち上がれというのだ」
「ぐっ……」
言葉に詰まった。
と両手に掲げているのはまさしくおしろいと紅であったから松兵衛大興奮。
「どれどれ」
としゃれこうべを覗き込んだ安次郎も
「うおおおおおおおおおおっ! これはまさしく千代ではないか!」
と息を荒くさせていた。
「少し待っておれ」
とあくまで興奮している様子を見せぬよう取り計らった松兵衛はおしろいを塗り、唇に紅を塗りかけるところで手が震えてくる。
震えが少しずつ大きくなり、手を離し作業を中断せねばならぬほどで、心の臓が縦横無尽に飛び跳ねていた。
安次郎もその気持ちがわかるのか、松兵衛を急かそうとしない。
松兵衛、鼓動と共に男根も天を突かんばかりにはち切れてくる。千代の顔が目の前にある。
(いかんいかん。まだ早い。まだ早いぞ)
しかしもはやふんどしを緩めたいほどに痛くなってきている。あれほど夢見てきた、千代の顔。瞳をうっすらと閉じ、静かに口の中に男根を誘い込み、柔らかな舌に溶けるようにねぶられる。雁首や亀頭を丹念に包み込ませ、声を押し殺して己のために尽くす愛しい姿。今までの夢想の全てがぶり返してきて溢れんばかりとなっている。
それにしても安次郎のやつはなんだ、と気になった。
松兵衛の後ろで随分と息を荒くしたままにしている。このしゃれこうべが千代のものであった、という気持ちとは、どうにも程遠いもの、いやむしろ松兵衛と同種のものをひしひしと感じていた。
気が散ったおかげで少し冷静さを取り戻せた松兵衛は、最後の一仕事、紅を唇に塗り、そして最後は墨で眉毛を書くことを終えた。
「やった……やったぞ……」
感無量であった。仕事が全部終わったからには、まずは安次郎に早々に帰ってもらい、二人きりのひと時を過ごしたいと焦りだし、安次郎へと向き直った。
「さすがは松兵衛。俺の夫婦茶碗を作ってくれた時も、いやこれはたいそうなものだと思っていたが、このような才まであるとは知らなかった」
と千代の方ばかりを見て松兵衛を見ようともしない。まるでだらしなく呆けている。それに正座をしているがやたらともじもじしている。明らかに様子がおかしい。
「どうした? 腹の具合でも悪いのか」
「あ、いや。そうでもないのだ。こうして見ると、やはり美人であるのぉと、引かれる思いで見ておったのだ」
「そうか。惜しいことをした。千代はやはり亡くなっておったのだな」
「うむ……」
「うむ……」
一瞬の静寂が流れる。それにしても何故この男は動こうともしないのだと松兵衛から切り出した。
「すまんが安次郎。俺も連日の作業で疲れ果てている。今日のところはすまんが休ませてくれんか。このことは日を改めて文十郎に伝えようではないか」
「お、おう」
あからさまに催促をされて、安次郎も留まるわけにはいかなくなったのだが、立ち上がった次の瞬間松兵衛の目の前に盛り上がった股間と、盛り上がりの先に地味に見える濡れた染みがあったのだ。
「お、お、お、お、お前!」
貴様俺の千代で! と言いそうになったがぐっと堪え、あくまで冷静に
「なんたる不届き者。お前には妻がおるだろう。その妻を差し置いて他人の女で発情するとはなんたること! 恥を知れ!」
さぞ動揺して平謝りになるであろうかと思われたが意に反して平然としている。それどころか、じとっとした目で松兵衛を見下ろしているから気圧されそうな程であった。
「松兵衛」
低い声。
「なんだ」
憮然とした表情で答える松兵衛。
「お前、立ってみろ」
「馬鹿を言うな。現におっ立てているのはお前のほうではないか」
「違う。立ち上がれというのだ」
「ぐっ……」
言葉に詰まった。
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