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白骨
白骨3
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窪田は白い手袋をつけて、すぐさま手紙の宛先を調べだした。何枚見ても、宛先不明でしかも同じ住所だ。宛名は「木下翔子」だった。
「なぜ……なぜ届かないのに同じところに出し続けるんだ……」
窪田は疑問を口に出していた。あまりにも不可解だった。届かないとわかっていてどうして出すのか、誰もわかるはずがなかった。
三人は妙に嫌な空気を味わっていた。暑いのに寒気がする。夏風邪のような悪寒が三人を取り巻いていた。
和夫は奥のほうに目をやると、布団が見えた。薄暗くてよくわからないが、何かが布団の上にある。それが何かがわかると、和夫は「うわあ!」と声を上げた。
布団の上には、白骨死体が横たわっていた。全身標本のように綺麗に人型の白骨がある。それも焼けたような黒い人影の模様が布団の上にあり、それをかたどるかのように人骨があった。まるでそこで息絶え、長年放置されたかのようだった。
「うっ」と和夫が声をあげた。残り香なのか、それとも実際に香ったのかわからなかったが、和夫の鼻を嗅いだことのある甘い匂いが一瞬したような気がした。そしてふと頭蓋骨を見ると、頭からあごにかけて右半分欠けていて、無数のぶつかったような細かな傷跡がある。
「こ、これは……」
和夫の記憶がさかのぼる。紀之が神社の階段から落ちてくる前に見たしゃれこうべに違いないと和夫は直感した。歯の部分が血肉を噛んだように、むらができて濁っている。しゃれこうべの下の枕元には抜け落ちた長い髪の毛が横たわっていた。和夫は長い髪の毛から、この白骨の性別は女性のものではないかと安易に思った。
(と、すると木下翔子の……?)
和夫が直感的にそれを感じても何一つ直感を裏付けるものなどなかった。
志穂は玄関に両手で口を押さえ、何も言えないまま立ちすくんでいる。
窪田はしゃれこうべの横にあった黄ばんだ封筒に気がつき、裏表を確認しながら中を調べた。その時和夫は、「あっ」と声をあげそうになった。それは確かに志穂の部屋に置いてあったはずの紀之に届けるために持ってきた封筒だった。
(どうしてこんなところに)
そう和夫が思いながら唖然としているところで、窪田が中身の便箋を取り出すと、バラリと長い髪の毛の束が床に落ちた。「むっ」と窪田は声を出し、眉間に深々としわを寄せて便箋を読み出した。その便箋を和夫は後ろから盗み見るように見たが、和夫は体の中に息が一気に吸い込まれて苦しくなるほど驚いた。血文字で書かれた便箋の内容が和夫が読んだものとは違っていた。
ノリユキサン ヨウヤク オモイヲトゲマシタ
ワタシハ ウマレカワレル
アナタニハ ワタシハ アイセナカッタ
ニゲラレナイト ワカッテイタノニ
コロセナイト ワカッタハズナノニ
タトエ ヤカレテモ アタラシイ イノチハ ソダッテイル
「なんだこれは」
窪田が暗号めいた手紙に困惑する。そして二枚目へとめくると同じことが書かれてあった。
「ニゲラレナイワヨ」
和夫は前の手紙の内容を思い出していた。確か、紀之を恨みに思って追い詰めていくような内容だった。だけれど、今回は思いを成就したような内容になっている。でも、逃げられないとは誰に向かっての言葉なのだ。新しい命とは。
その時、ふと和夫の頭を何かがよぎって志穂のほうに向いた。志穂は何もできずに、ずっと立っている。震えているようだった。
(俺は、確か、志穂と、いや、誰か……誰かと寝たような気がする。それで俺は射精して……)
記憶のない部分を思い出そうとすると和夫の頭を閃光のような痛みが走った。何か脳裏のずっと奥にぼやけた残像がある。だがはっきりと出てこない。出そうとすると痛みが走った。
その時、玄関の外から「窪田さん」と呼ぶ男の声が聞こえ、玄関に以前和夫の家に窪田と一緒に来ていた若い方の刑事が現れた。
「ああ、窪田さん。ここにいましたか。あっ、こ、これは……」
さすがに尋常ではない状況に言葉を詰まらせた若い刑事は、固まるどころか、冷静に現場を見回している。
「見ての通りだ」
窪田が若い刑事に言うと、「ちょっと、変ですね」と若い刑事は窪田に返した。窪田は立ち上がり、若い刑事の横に並ぶと、ともに白骨を見下ろしながら若い刑事は続けた、「長い髪から女性っぽいのですが、骨盤や骨は男性のものっぽいです」
「ん? なんだって?」
「よく見てください。骨盤の広がりがややがっしりしていて狭いです。女性のものは、ややこれより扇状に広がっています」
「なぜ……なぜ届かないのに同じところに出し続けるんだ……」
窪田は疑問を口に出していた。あまりにも不可解だった。届かないとわかっていてどうして出すのか、誰もわかるはずがなかった。
三人は妙に嫌な空気を味わっていた。暑いのに寒気がする。夏風邪のような悪寒が三人を取り巻いていた。
和夫は奥のほうに目をやると、布団が見えた。薄暗くてよくわからないが、何かが布団の上にある。それが何かがわかると、和夫は「うわあ!」と声を上げた。
布団の上には、白骨死体が横たわっていた。全身標本のように綺麗に人型の白骨がある。それも焼けたような黒い人影の模様が布団の上にあり、それをかたどるかのように人骨があった。まるでそこで息絶え、長年放置されたかのようだった。
「うっ」と和夫が声をあげた。残り香なのか、それとも実際に香ったのかわからなかったが、和夫の鼻を嗅いだことのある甘い匂いが一瞬したような気がした。そしてふと頭蓋骨を見ると、頭からあごにかけて右半分欠けていて、無数のぶつかったような細かな傷跡がある。
「こ、これは……」
和夫の記憶がさかのぼる。紀之が神社の階段から落ちてくる前に見たしゃれこうべに違いないと和夫は直感した。歯の部分が血肉を噛んだように、むらができて濁っている。しゃれこうべの下の枕元には抜け落ちた長い髪の毛が横たわっていた。和夫は長い髪の毛から、この白骨の性別は女性のものではないかと安易に思った。
(と、すると木下翔子の……?)
和夫が直感的にそれを感じても何一つ直感を裏付けるものなどなかった。
志穂は玄関に両手で口を押さえ、何も言えないまま立ちすくんでいる。
窪田はしゃれこうべの横にあった黄ばんだ封筒に気がつき、裏表を確認しながら中を調べた。その時和夫は、「あっ」と声をあげそうになった。それは確かに志穂の部屋に置いてあったはずの紀之に届けるために持ってきた封筒だった。
(どうしてこんなところに)
そう和夫が思いながら唖然としているところで、窪田が中身の便箋を取り出すと、バラリと長い髪の毛の束が床に落ちた。「むっ」と窪田は声を出し、眉間に深々としわを寄せて便箋を読み出した。その便箋を和夫は後ろから盗み見るように見たが、和夫は体の中に息が一気に吸い込まれて苦しくなるほど驚いた。血文字で書かれた便箋の内容が和夫が読んだものとは違っていた。
ノリユキサン ヨウヤク オモイヲトゲマシタ
ワタシハ ウマレカワレル
アナタニハ ワタシハ アイセナカッタ
ニゲラレナイト ワカッテイタノニ
コロセナイト ワカッタハズナノニ
タトエ ヤカレテモ アタラシイ イノチハ ソダッテイル
「なんだこれは」
窪田が暗号めいた手紙に困惑する。そして二枚目へとめくると同じことが書かれてあった。
「ニゲラレナイワヨ」
和夫は前の手紙の内容を思い出していた。確か、紀之を恨みに思って追い詰めていくような内容だった。だけれど、今回は思いを成就したような内容になっている。でも、逃げられないとは誰に向かっての言葉なのだ。新しい命とは。
その時、ふと和夫の頭を何かがよぎって志穂のほうに向いた。志穂は何もできずに、ずっと立っている。震えているようだった。
(俺は、確か、志穂と、いや、誰か……誰かと寝たような気がする。それで俺は射精して……)
記憶のない部分を思い出そうとすると和夫の頭を閃光のような痛みが走った。何か脳裏のずっと奥にぼやけた残像がある。だがはっきりと出てこない。出そうとすると痛みが走った。
その時、玄関の外から「窪田さん」と呼ぶ男の声が聞こえ、玄関に以前和夫の家に窪田と一緒に来ていた若い方の刑事が現れた。
「ああ、窪田さん。ここにいましたか。あっ、こ、これは……」
さすがに尋常ではない状況に言葉を詰まらせた若い刑事は、固まるどころか、冷静に現場を見回している。
「見ての通りだ」
窪田が若い刑事に言うと、「ちょっと、変ですね」と若い刑事は窪田に返した。窪田は立ち上がり、若い刑事の横に並ぶと、ともに白骨を見下ろしながら若い刑事は続けた、「長い髪から女性っぽいのですが、骨盤や骨は男性のものっぽいです」
「ん? なんだって?」
「よく見てください。骨盤の広がりがややがっしりしていて狭いです。女性のものは、ややこれより扇状に広がっています」
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