人当て鬼

貴美月カムイ

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甘い香りが誘って

甘い香りが誘って4

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 淫靡さを感じさせる匂い。女と男の体液が混ざり合った激しい性行為のあとの密室のように甘い匂いは充満してくる。女の視線はとろんと落ちるように潤ってくる。そして、ゆっくりと腕を首に回し、和夫の勃起したものをズボンの上からさすってくる。
「ああ……硬い……どうして……」
「やめてくれ、頼む」
 驚きと戸惑いの中、和夫が抵抗しようとすると、めまいが強くなって意識を保っていられなくなる。
(な、なぜだ……この匂い、何かあるのか。どうしてこんな匂いが)
「熱い……熱い……熱いのぉ」
 甘い声を発しながら女は服を勢いよく脱ぎ始める。あらわになった乳房がぷるんとゆれた。和夫は家にいる麻弥子への激しい背徳の念に苛まされながらも必死に抵抗を試みていたが抵抗の意思を心に浮かせただけで今度は脳を切るような頭痛がするようになってきた。
(もうダメだ。これ以上抵抗できない……)
 その時、女は自分の乳房を揉み上げ淫らな声を漏らしながら口走った。
「ああ、紀之さん……見て……私こんなに感じてる」
(紀之? 小沢のことか? そんなバカな)
「ふざけるな。俺は紀之じゃない」
 弱々しい声でなおも抵抗しようとする和夫だが女は妖しい笑みを浮かべて意に介そうとしない。矢のように別の意識が和夫の頭を駆け抜ける。どこか頭をちらつく女に似ているような感じがした。
 和夫は、ぼんやりとした意識の中でうわごとのように言葉を発した。
「お前は……誰なんだ……」
 すると、女の口元にうっすらと笑みが浮かび上がり、射すような鋭い目で見つめてきた。
「私は、翔子……木下翔子……紀之さん……そんな意地悪言ってもダメよ……」
 木下翔子と名乗った女は、和夫にふっと抱きつき、唇を重ね、舌を入れてきた。その舌にもてあそばれるように和夫の舌は女の舌に吸い付くように絡んでいく。くちゅくちゅと音がするごとに、甘い匂いがどこからともなく香ってくる。
(この匂いは、どこから)
 和夫がすっと息を吸うと、意識は操られていくように奪われ、だんだんと自由が利かなくなってくる。
 和夫は女との長い口付けを舌で求めるようになってきた。その行為の中で匂いがどこから香ってくるのか気になるようになってきた。
 女は和夫の思考を読むかのように、口付けを止め、釣り上がったような不気味な笑みを浮かべて言った。
「甘い匂いが気になるのね」
 和夫は、ぼんやりしながらコクリとうなずくと、女はペタリと床に座り、ズボンを脱ぎ始め、すらりとした白い足をあらわにし、残った白の下着をするりと足から脱ぎ去った。
「ここ……たくさん匂いをかいでいいのよ……紀之さん……」
 下着に隠されていた、蜜に濡れた真珠貝の奥にうごめく肉欲の穴からは、より強く匂いがしてくる。女が指でひだを広げると、とろりと蜜が光って見えた。和夫は引き寄せられて、穴の奥に鼻を入れるようにして匂いを嗅いだ。
 女の微笑みの下で和夫は犬のように夢中で匂いを嗅いでいる。むさぼるように鼻を押し付け、蜜壷の中へと鼻を押し入れ嗅ぐ。だんだんと和夫は匂いの虜になり、最後には勃起したものを腰を浮かせて自ら握り、こすりあげながら一心不乱に女の蜜壷の匂いを嗅いでいた。

 甘い匂い。甘い匂い。甘いニオイ。甘いニオイ。アマイニオイ。アマイニオイ。

 和夫の頭の中に浮かんでいたのは、ただ女から発せられる甘い匂いを嗅いでいたいということだけだった。
 自らこすりあげている肉棒が射精寸前までに来たとき、女は和夫を制止させた。
「ダメ……出すなら中で……お願い……」
 甘えるような声が和夫の頭の隅々まで広がっていき、和夫は言われるままに自慰を止め、勃起した肉棒を女の肉の割れ目へとあてがった。
「いいのよ……奥まで入れて射精して……」
 和夫は先ほど嗅いでいた匂いが頭の奥までいきわたっているような感じがしていた。脳内を支配されるままに、和夫は腰を突き入れた。その時、紀之が持っていた茶色い封筒がまたカサカサと音を立てたことに和夫は気がつかなかった。女は目を潤ませて見開いたまま、微笑んでいた。和夫のものが根元まで女の中へと挿入されたとき、女は「ああ」とうめきながら視線をそらし、封筒へ向けたが、和夫には女の匂いたつような色気の中にある恥じらいとしか受け取れなかった。
 和夫が腰を突き入れるたびに女の淫靡な匂いはますます香ってくる。和夫はその匂いを嗅ぎたい一心で、壊れた機械のように腰を止めることなく突き入れていた。
 和夫はもはや女がどのような状態であるかも認識できなかった。ただ、体中を駆け巡る射精への高まりと、女の名前がすべてだった。
(翔子。翔子。翔子。翔子。ショウコ。ショウコ。ショウコ。ショウコ)
 繰り返し頭の中で連呼される女の名前が射精寸前に和夫の口から漏れ出す。
「ショウコ! ショウコ! イク! デル! アア!」
 和夫の射精は止まることを知らず、いつまでも勢いよく女の肉襞の奥へと注ぎ込まれていた。それと同時に女の悦楽に満ちた声が響き渡った。
「ああ……なんて嬉しい……赤ちゃんの種がこんなにたくさんお腹の中にあふれているなんて……これで……」
 女の口元から充実したようなため息がもれると同時に和夫の意識は遠のき、気を失い倒れこんだ。

かーごーめ、かーごーめ。
かーごのーなーかのーとーりーはー。

(誰かが歌っている)

いーつ、いーつ、でーやーる。
よーあーけーの、ばーんーにー、つーると、かーめが、すーべった。
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