大嫌いであり愛しい君の死を望む

黒詠詩音

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2話 旅の始まり

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「この旅……無事に終わるのか?」

 俺は若干、不信感を抱き言葉に出していた。
 こんな弱気を言っていても仕方ない。
 そんな事は頭では分かっていても、言ってしまう。

「俺のもし旅中に……考えるだけ無駄」

 もしあれが起きる様ならば、それなりの対処はしないといけない。
 キュッと、包帯を結びながら思う事にした。
 顔にだけだが、あれの時の俺が出てしまった。
 だからと言って、「鏡壊すんじゃなかったな。片付けめんどいし」
 何より真昼に何を言われるか分からない!

「そっちに対する恐怖があるな」

 まぁやってしまったのは仕方がない。
 そう割り切るしかないな。
 だけど、真昼にはどう言い訳するかな? ある意味そこが一番の難点だ。
 脳をフル回転さしても中々いい案が無く、時計を見た。

「ゲッ!?」

 もう既に深夜二時を回っていた。

「考え事に夢中になり過ぎて、時間を全然見ていなかったな」

 いい案が未だに思い付かない。
 だけど時間は時間だし、明日に響くと行けないから、眠る事にした。
 少し腑に落ちないが。
 ピッピッピッとスマホから音がする。
 カーテンを開けると眩しい程の天気。
 まだ眠く瞼も重い。
 まだ完全には開いてはいないが、音が鳴るスマホを止める。

「そう言えばアラーム設定していたな」

 寝ぼけながらそう言った。
 スマホを見ると怒りの連絡が来ている。

『音羽君起きている?』
『もう時間過ぎているよ!!』
『へー、そんなに私と、思い出作りしたくないんだー』

 真昼からの怒涛のLINEが来ていた。
 俺はラインを見てから、スマホの時間を見る。

「十時三十分!?」

 十時半か。
 この時間だったら真昼が、拗ねてもおかしくない。
 普通だったら何の問題もないし、俺達は時間を決めた訳ではない。
 だが、俺と真昼の間では暗黙のルールが存在する。
 その内の一つ、十時には昨日の公園におる事、いつもあそこを集合場所にしていたからな。
 俺の家から公園までは役二十五分。
 そしていまは十時半。
 公園に着く頃には十一時近く。

「……急いで行きますか」

 急いで行って、真昼に馬鹿くそ謝る。
 真昼に謝罪のLINEと今から行くと返信し、
 俺はベットから降り洗面台に向かう。
 まずは顔を洗い目を覚ます。
 次にタンスから服を取り出し着る。
 ズボンも履き、寝癖がついている髪をセットする。
 鏡にはボサボサ髪から、センター分けの男が写った。
 机の上にある少し大きめな、ショルダーバッグを持ち家から出る。
 少し早歩きで公園へと行く。
 役十五分程でマンションから公園に着いた。

「俺にしては少し早く着けた。だけど遅刻は遅刻だな」

 マンションから出る間、真昼から連絡が一切来てないな。
 完全に激オコかな? 「音.羽.君!」考えただけで背筋が凍る。
 公園の中に入ると、昨日とは違い、人が賑わっていた。
 その中でもベンチの近く、そこで二人の男女が言い争っていた。
 ベンチ周りに見物客もおった。
 俺も見に行ってみると、男の方は金髪で派手な服装、いかにもやから
 女の方は黒髪ボブで、ブラウンのワンピースを着た少女。
 俺は男の方は知らないが、女の方はよく知っていた。
 見物客がいる中を分け、男女の前に立った。

「いいじゃん俺と遊ぼうぜ!」
「やめて下さい」
「一人何だからいいじゃねぇか!」

 男が女の腕を掴もうとした瞬間。
 その腕を俺は捻り上げ、男の背中につける。
 簡易的な拘束術。

「痛てて、何すんだよお前?」
「嫌がる女の子を乱暴しようとするなよ」
「うるせぇ!! てめぇには関係ないだろ?!」
「残念ながら関係あるね」

 男は俺に拘束された事により、不機嫌になり始める。
 文句を言いながら、逃れる隙を探している。

「何なんだてめぇ?」
「俺はその子の彼氏だよ!」

 真昼をナンパし、無理矢理連れて行こうとした。
 その事実を再認識する。
 自然と捻ってる腕に力が入る。

「ッ!? クゥゥゥ」

 男は力を入れられ、思わぬ激痛に声も出ないようだ。
 こいつ苦しんでるのか? もうこのまま、腕ごと折ってやる。
 そう思った時、俺の腕を真昼が掴んだ。

「もういいよ音羽君。行こう?」
「……分かった」

 男の腕を離し、真昼を連れて行こうとした。
 そんな時、見物客が俺に声を掛けて来る。
「兄ちゃんよくやった!」
「見事な拘束術だな!」

 あんな騒ぎを見て、何故俺を讃たたえる?

「褒められちゃったね」

 真昼は笑顔で言ってきた。
 はぁ、真昼こいつが笑ってくれるならばいいか。

「あはは、有難うございます。俺達は少し急いでるんで」

 真昼の腕を掴み、見物客達を割って公園の出口にまで行く。
 真昼は言葉を一切も発してない。
 俺自身、真昼にどの言葉を掛ければいいのか分かってない。
 真昼が俺の腕から離れ言った。
「私、音羽君に対して怒っているからね」
「え」

 公園から出た瞬間、俺は真昼にそんな事を言われ、首を傾げてしまった。
 いきなりの事で言葉が何も出なかった。

「何に対して怒っているか、分かっている?」
「いや……?」

 あれ? 凄い既視感がある。
 真昼を怒らした事、男の腕を折ろうとした事か? それしか心当たりがない。

「何で十時にここに来てくれへんかったの?」

 ポンと背中を軽く殴られた。
 痛くはないが何かダメージがある。
 真昼の方に首を傾けると。
 頬を膨らましムスッっとした。
 可愛い生き物がいた。

「ねぇ聞いている?」
「あ、ああ聞いているよ」

 真昼はもっと機嫌を悪くしていた。
 別に真昼の言葉を聞いてない訳ではない。
 聞いていたが、ただ一つ言うとしたら、真昼に見惚れていた。

「本当に聞いてるの?」

 真昼は怪しそうにこっちを見てきた。

「本当だよ。普通に寝坊しただけ」
「音羽君にしては珍しくない?」

 俺は真昼に言った。
 真昼は俺の言葉に驚いていた。

「音羽君、もしかして昨日の事で精神的に疲れてる?」
「そんな訳ないよ」
「思い出作りやめようか?」

 真昼は俺に気を使い言ってきた。
 だけど、その言葉は俺に苛つきを覚えさせた。

「ふざけるな」

 俺は一言、冷たく真昼に言い放ち、手を掴む。

「俺は君に生きて欲しい」
「え? 私は余命宣告を」
「うん、知っている」
「でも俺は一パーセントの可能性にでも、掛けて欲しい」

 俺の言葉に真昼は顔を伏せた。
 きっと真昼は葛藤か何かをしてる。
 俺はこれ以上何も言えない。
 だけど! 

「真昼。今から最高の思い出作りをしよう」

 真昼は俺の言葉を聞いて、顔を上げ笑みを浮かべていた。
 目尻には涙を少し浮かべている。
 真昼の横に立ち手を繋ぐ。
 返す様に真昼も強く握って来た。
 普段は車を多く通る道路。
 それなのに今は世界に二人しかいない。
 そのような感覚に落ちている。
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