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42話 ユウナの執事としての決心

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「お嬢様を……助けにいかないと」
「駄目だ、クロお前は大人しく治療を受けろ。自分の容態くらい把握しろ」

言わなれなくてもそんな事くらい、分かっている。
魔人の最後の一撃で、ボクの体はもうボロボロだ。
生きている事が奇跡な程に損傷している。それでも黙って見過ごせる訳がない。

「もう一度言うぞ、大人しくしろ」

風紀員長の言葉に怒気が混ざっている。貴女が本気で、心配しているのは伝わっている。体を少し動かすだけで骨が軋む。
この状態で魔人と戦ったら確実に死ぬ。
風紀員長はきっとその事を見抜いてる。

「どうやら親切心を無駄にする気だな。風紀員の名の元に拘束する」
「やれるもんならばやってみろ! ボクはあんたを倒してでも助けにいく」
「クロ私からも言うけど、やめときな死ぬよ」

リリィ先輩は残酷に事実を突き付ける。
分かっている、分かっている、だったらお嬢様を見殺しにしろてか? そんな事するくらいならば、死んだ方がましだ。
ボクは足下をフラつかせながらも、魔技場の外に向かう。

「何故そこまでして早死ぬ事を選ぶ?」

背後からの言葉、自然と足が止まる、体を回転させ、風紀員長に近付く。
腕を伸ばし胸ぐらを掴む。

「だったらユウナさんを見捨てろってか!! そんな事するくらいならば死んだ方がましだ!」

次の瞬間、頬に鋭い痛みが走ると同時に、体が宙に浮き、柱に直撃する。
柱に当たった衝撃で背中に痛みが走る。
口からも血が流れ始めた。
一連の動きに理解が追いつかない。

「お前が死んでユウナが喜ぶと思っているのか!!」

風紀員長の激情、ここで始めてボクは殴り飛ばされた事に気付いた。
きっと喜ばない、逆に負い目を感じさせる事になるだろう。
頭の中で理解はできている。それでもボクの心は拒絶をする。

「だったら見殺しにしろてか! 相手は魔人だぞ? 最悪の場合、殺されても可笑しくない! ボクはあの人の執事だ」
「図に乗るのも大概にしろよクソガキ! 世の中を何も知らない奴がでしゃばるな」

あぁそうだよ! ボクはまだ何もしらないクソガキだ。
だけどなぁあの人の執事な事は事実、ボクは最強になってあの人の右腕になると誓った。
こんな所で止まってはいられない。

「二人共! こんな所で争っている場合? まずは学園の安全を最優先」
「リリィごめん。少しクロと二人にして、すぐに合流するから」
「……分かった。無茶はしないでね。貴女は最後の砦なんだから」

リリィ先輩は足早に去っていく、今この場にはボクと風紀員長。
風紀員長はボクに近付く、攻撃をされるかもしれない。
前に体を出し、次の動きに備える。
本当風紀員長の攻撃は重いし、信じられないくらい速い。
柱にぶつかってようやく気付いた。

「クロ殴られてどうだ? 頭は冷えたか?」
「逆に体中の骨が軋んでる、止めをさす為に残ったんですか?」

魔人とやる前に風紀員長に殺される。
徐々に歩みを進め、こっちに来る。
体が重い、自分の思うように動かない。

「そんなに警戒をするなよ。少しわっちと喋ろう」
「断る。ボクは今すぐにでも向かう」
「そんな体でよく言うね。どうしてそこまでしてユウナを助けたい? やはりリステリの名声か?」
「違う! ボクはあの人に救われた。このどうしようもない人生に光をくれた」
「都合するだけにしてはいい解釈だな。わっちは君に期待していると同時に嫌悪感を抱いている」

さっきまで笑顔だった、風紀員長の表情が一変する。
ボクを貶す目、久しぶりにこんな目で見られた、ボクは何か言う事なく、次の言葉を待っている。

「ユウナから色々と話しを聞いてた。最強を志し、ユウナの為に頑張る。いい心意気だ。でもそれ全て自分の為だろ?」

だんだんと風紀員の長は口調は荒くなる。視線も鋭くなる。

「お前はユウナに依存しているに過ぎない。執事という役職を得て、自分の居場所、存在意義を欲してる弱虫」

風紀員長の言葉に反論ができなかった。
違うと否定するのが正解だ、だけど、ボクは一切できなかった。
別に言葉を肯定している訳ではない、ただ、自分──クロとして、あの人の傍にいる理由が分からなくなっている。

「お前は根本的にユウナを利用しているに過ぎない」
「違う! ボクはあの人を利用しようなんて思ってない」
「だったら何だよ! お前がユウナを助ける意味は何だ? 答えてみろ」

胸ぐらを掴まれ、風紀員長は怒声を上げる。
いつものおちゃらけとは違い、真剣な眼差しに言葉、ユウナさんを本当に大事にしているんだな。
それに比べてボクは一体何だ? なんであの人を守ろうとする? 助けたい? 思考を巡らせ考える、ひたすらに考える。
すぐには答えはでなかった。

「クロそれが貴様の答えなんだ」

風紀員長は手を離す、ボクは地面に尻もちをつく、これが本当に答えなのか? 胸がモヤモヤする。
刹那、ボクの脳裏にユウナさんとの会話、日常が浮かんでくる。
あぁそうか、理由なんかいらない。

「風紀員長ボクは向かいます」
「だからなぁ! お前にユウナを助ける資格が……もう一度問おう」
「理由なんかないです。いや違う、理由なんて言葉で表せない」

ボクは風紀員長の言葉を遮って言う、ボクが出した答え、この人が納得するどうかなんて関係ない。
ボクはボクとしてユウナさんと一緒にいたい、あの人の執事として見守りたい。
そして守れるだけの強さが欲しい。
この時、ボクは最強に拘るのをやめた。
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