銀に咲く

砂んど

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「えー、幾野くんは先日交通事故にあい、しばらくの間学校はお休みします。」
飯田が悲しげにそう告げ、クラス内もどよめいている。それもそうだ。入学したばかりの明るい空気には似合わない鈍色の空気が教室を包んだのだから。

柚子奈は雪の座席に目をやった。同時に自分の眼を疑った。
「…っ!」
いない筈の雪の座席には真っ黒に染まった雪が


********
 雪は真っ黒な世界を生きる。叔母は手術すれば治るかもしれないと各病院を回っていたが、小さな雪にはあまりにも負担が大きかった為どこも断わられていた。雪がもう少し成長すれば…
「……」
あの事故以来雪は酷く寡黙になった。よく話していた姿は見る影を無くし何処か遠くを見る様な雪の姿は叔母の心配を加速させている。
「かがりくんが学校のプリントを持ってきてくれたから、読むわね。」
宮崎 かがり。雪が仲良くなった明るい性格の友達だ。学校が休みの度に必ずプリントを叔母の家に届けてくれている。
「なになに…あら、遠足ですって。行ってみたらいいんじゃない?」
友人と触れ合えば少しは雪が元気になるのではないか、そう思い叔母は提案してみた。
「…ない」
「え?」
「いかない!なんにもみえないのに!いったってつまらない!」
大きな否定と共に雪は泣きながら喚いた。小さな雪には抱えきれない辛さは頬を伝う大粒の涙に現れているではないか。
5月の夕焼けにしてはやけに冷たい日差しが雪たちの姿を照らした。



 雪と生活するにあたり、叔母は昼間は働きに出ている。お休みをしている雪は日中一人で家にいるので、叔母からラジオを貰った。雪にはまだ難しいがラジオは音だけでそこの世界が見える為、雪にも楽しみながらのだった。

『さあ始まりました!今日も元気に「日がな一日!」をお送りするのはメインパーソナリティーのヤマちゃんです!んー、よろしくぅっ!』
雪が好きになったラジオ番組、「日がな一日!」のヤマちゃんさんはとにかく元気。元気すぎて思わず頰が緩んでしまうくらいだ。ふふ、と小さく笑いながら今日も明るいラジオを聞く。
 この番組を聞いていると学校に行きたくなる。でもすぐに、行っても見えないから、と塞ぎ込んでポロポロ涙を流してしまう。
「おかあさん…どこなの…おとうさん…ぐすっ」



ーガサー
気のせいだろうか…近くから誰かの音がする。ラジオから流れる時刻は午後4時を示していた。叔母さんかな…?
ーガサー
…ではない。けど明らかに いる。何かは分からないが、いる。どろぼうさんかもしれない。
雪はドキドキしながら
「だ、だれかいるの…?」
その問いには答えはない。勇気を振り絞って再び聞いてみた。
「ワフッ!」
ーわふ?これは…何だろうか。人ではない。どうしよう。一人おろおろしていると
「ただいまー!雪、今日のゆうごは…って…ゆ、雪!?」
「お、おばさん、これ なあに?ふかふかしてる!」
雪にのしかかっているのは白銀の毛色をした子どもの狼だった。
どうして家に狼?何で雪に懐いているの?というか狼っていないんじゃなかったっけ?
叔母の脳内はパニックになった。
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