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5月2日
身寄りの無い雪は叔母の家に引き取られる事になった。
身体の傷も癒え、無事退院した雪だったが、心の傷は癒えない。幼くして一瞬で両親も視力も失った。学校側も「無理をしない」を優先し、叔母は雪をしばらく休ませる事にした。
ーいつか両親を忘れる日が来るのだろうか 何故自分だけ助かったのか 時々怖くてたまらない
「…おか…あさん……っおとうさ…」
部屋の隅で座りすすり泣く雪を叔母は優しく抱きしめてくれた。
********
永野 柚子奈は特別眼が良かった。見えないものが視える体質だ。そんな柚子奈もピカピカの新入生。本来なら今日の事を楽しみにしているが、柚子奈はそうではないらしい。
桜並木を見上げるといつも違う朱い線が見えるのであまり桜を好まなかった。
(…ウワサは本当だった)
『桜の木の下には死体が埋まっている』
よくある都市伝説と思われているそれは柚子奈の眼には視えていた。花びらとは違う朱い線が幹から垂れ下がっていた。そんな桜をよそに柚子奈は一人で校舎へと向かいながら小さく呟いた。
「…ママ。…私、ちゃんとするから。」
翌日はクラス内の自己紹介。男性と見紛うかのような飯田先生が出席番号順に当てていた。
初めは 幾野 雪。 上島 佳奈…順々に応えその都度拍手を送る。
幼稚園や保育園から上がったばかりの小さなオトナ達はどこか浮き足立っていて、クラス内も春色よろしく暖かい風が吹いていた気がした。
「永野 柚子奈さん」
飯田に呼ばれ柚子奈は返事をし、立ち上がる。
ふいに見られた気がした。青々とした夏の様な真っ直ぐな眼とあった。
「ながの ゆずなです。 好きなことは本を読むことです。よろしくおねがいします。」
(…いくの…くん…か。)
ー休み時間ー
(話かけてみようかな…)
柚子奈は雪と話してみたかった。自分にはない夏の瞳を見たかったからだ。ようし、と意気込んでいると
「な、ながの、さんっ!」
「ふぇっ!?」
上擦った変な声が出てしまった。雪から柚子奈に声を掛けてきた。雪もまた柚子奈に興味があったのだ。
「ながのさんのこえ、とってもきれいだね!さっきびっくりしちゃった!」
えへへ、と笑いながら雪は柚子奈の声を褒めた。柚子奈の声は確かによく通る澄んだ声だ。亡くなった祖母が綺麗で好きだと言ってくれた。
「あ…ありがとう。あのね、私…」
もじもじと俯いていると雪は柚子奈を覗き込みその瞳を近づけてきた。かあっと顔が熱くなった。
「私も…いくのくんの めがきらきらして、その…」
まただ。柚子奈はどうしても人前でうまく話せない。さっきまで意気込んでいたのに。
「ありがとう!ぼくのめ、おかあさんがすきだっていってくれてるんだ!」
ぱあっと日差しが教室に入った。雪の瞳は名前以上にキラキラと輝いて柚子奈には眩しかった。
柚子奈には母がいる。父はいない。どこか遠くに行った、としか聞いていない。会ったこともないから今更興味はないのだ。柚子奈の母は幼い柚子奈に
自分のストレスをぶつける事が多々あった。殴られたり罵られたり…時には泣きながら柚子奈を抱きしめた。
「ママ…いたいよ…」
身体も心も、柚子奈は傷ついていた。
ー『続いてのニュースです。本日昼頃、県内で人身事故がありました。この事故により運転席と助手席にいた 幾野 誠さん35歳、妻 香織さん33歳が亡くなり、雪くん6歳が怪我を負いました。事故の原因はトラックのながら運転によるもので…』
「いま…なんて…?」
柚子奈は夕暮れ色に染まった部屋で聞き覚えのある名前を聴いた。
身寄りの無い雪は叔母の家に引き取られる事になった。
身体の傷も癒え、無事退院した雪だったが、心の傷は癒えない。幼くして一瞬で両親も視力も失った。学校側も「無理をしない」を優先し、叔母は雪をしばらく休ませる事にした。
ーいつか両親を忘れる日が来るのだろうか 何故自分だけ助かったのか 時々怖くてたまらない
「…おか…あさん……っおとうさ…」
部屋の隅で座りすすり泣く雪を叔母は優しく抱きしめてくれた。
********
永野 柚子奈は特別眼が良かった。見えないものが視える体質だ。そんな柚子奈もピカピカの新入生。本来なら今日の事を楽しみにしているが、柚子奈はそうではないらしい。
桜並木を見上げるといつも違う朱い線が見えるのであまり桜を好まなかった。
(…ウワサは本当だった)
『桜の木の下には死体が埋まっている』
よくある都市伝説と思われているそれは柚子奈の眼には視えていた。花びらとは違う朱い線が幹から垂れ下がっていた。そんな桜をよそに柚子奈は一人で校舎へと向かいながら小さく呟いた。
「…ママ。…私、ちゃんとするから。」
翌日はクラス内の自己紹介。男性と見紛うかのような飯田先生が出席番号順に当てていた。
初めは 幾野 雪。 上島 佳奈…順々に応えその都度拍手を送る。
幼稚園や保育園から上がったばかりの小さなオトナ達はどこか浮き足立っていて、クラス内も春色よろしく暖かい風が吹いていた気がした。
「永野 柚子奈さん」
飯田に呼ばれ柚子奈は返事をし、立ち上がる。
ふいに見られた気がした。青々とした夏の様な真っ直ぐな眼とあった。
「ながの ゆずなです。 好きなことは本を読むことです。よろしくおねがいします。」
(…いくの…くん…か。)
ー休み時間ー
(話かけてみようかな…)
柚子奈は雪と話してみたかった。自分にはない夏の瞳を見たかったからだ。ようし、と意気込んでいると
「な、ながの、さんっ!」
「ふぇっ!?」
上擦った変な声が出てしまった。雪から柚子奈に声を掛けてきた。雪もまた柚子奈に興味があったのだ。
「ながのさんのこえ、とってもきれいだね!さっきびっくりしちゃった!」
えへへ、と笑いながら雪は柚子奈の声を褒めた。柚子奈の声は確かによく通る澄んだ声だ。亡くなった祖母が綺麗で好きだと言ってくれた。
「あ…ありがとう。あのね、私…」
もじもじと俯いていると雪は柚子奈を覗き込みその瞳を近づけてきた。かあっと顔が熱くなった。
「私も…いくのくんの めがきらきらして、その…」
まただ。柚子奈はどうしても人前でうまく話せない。さっきまで意気込んでいたのに。
「ありがとう!ぼくのめ、おかあさんがすきだっていってくれてるんだ!」
ぱあっと日差しが教室に入った。雪の瞳は名前以上にキラキラと輝いて柚子奈には眩しかった。
柚子奈には母がいる。父はいない。どこか遠くに行った、としか聞いていない。会ったこともないから今更興味はないのだ。柚子奈の母は幼い柚子奈に
自分のストレスをぶつける事が多々あった。殴られたり罵られたり…時には泣きながら柚子奈を抱きしめた。
「ママ…いたいよ…」
身体も心も、柚子奈は傷ついていた。
ー『続いてのニュースです。本日昼頃、県内で人身事故がありました。この事故により運転席と助手席にいた 幾野 誠さん35歳、妻 香織さん33歳が亡くなり、雪くん6歳が怪我を負いました。事故の原因はトラックのながら運転によるもので…』
「いま…なんて…?」
柚子奈は夕暮れ色に染まった部屋で聞き覚えのある名前を聴いた。
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