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旦那様のお誘い
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「ママ!」
「リアム! 心配かけてごめんね……!」
ぬいぐるみと一緒にリアムの部屋を訪ねれば、ドアを開けると同時にリアムが飛びついてきた。
「ママ、げんきになった?」
「うん、もうすっかり元気になったよ。リアムがお友達を連れて来てくれたおかげだよ」
「あのね、フィオナがね、おねつがうつっちゃうから、ママといっしょにいちゃダメっていうの。でも、ママはひとりだとさびしいでしょ? だからね、ぼくのかわりにジョバンニたちにおみまいしてもらったの」
「リアム……」
なんて健気で優しい子なんだろう。
愛しさが溢れて堪らなくなって、ぎゅっと小さな体を抱きしめた。
「ありがとう」
「えへへ……っ」
ああ、可愛い。可愛いがすぎる。
息子のあまりの天使っぷりに心の中で涙を流していれば、背後で耳馴染みのある足音がした。
「とうさま?」
ドアの近くにいたジュード様が突然近づいてきて、びっくりしたのかもしれない。リアムがぱちぱちと目を瞬かせる。
「……馬は、好きか」
「へ?」
脈絡のない質問に、つい素っ頓狂な声を上げてしまった。
リアムも戸惑ったように俺の顔を見あげている。
「えーと、リアムはお馬さん好き?」
「……おっきくて、こわい」
「そっか、そうだよね」
まだ三歳だし、大きい動物は怖いよなぁ。
よしよしとリアムの頭を撫でていれば、不意に伸びてきた手に腕を掴まれた。その手の主はもちろんジュード様だ。
「わわっ」
驚く間もなく引き寄せられて、慌ててリアムを抱き直した。
俺の腕の中でリアムも目を白黒させている。
「……出かけるぞ」
「え? あ、ええ?」
戸惑う俺を他所に、ジュード様は俺たちを引きずるようにしてズンズンと歩き出してしまった。
「わわっ! 待ってください!」
転ばないように必死でジュード様の後を追う。
家族三人連れ立って歩く光景がよっぽど珍しいのか、使用人さんたちとすれ違う度に二度見されてしまった。
***
ジュード様に連れられるがままにやって来たのは、屋敷の裏手にある馬屋だった。
「わぁ……!」
真っ白い毛並みの子から艶やかな黒い毛の子まで。立派な体躯と陽の光に輝く毛艶を見れば、素人目にもとても大事にされていることが分かった。
「ママ……」
リアムが不安そうに俺の服を掴んだ。
安心させてあげたくて、ゆらゆらとリアムの体を揺らす。
「大丈夫だよ。お馬さんはね、とっても賢くて優しいんだよ」
「そうなの……?」
「うん。体が大きい分、心も大きくて優しいんだよ。だから大丈夫。リアムが意地悪したりしなければ、お馬さんもリアムに怖いことしないよ」
「ぼく、いじわるしないよ」
「うん、そうだよね。なら大丈夫、お馬さんともすぐ仲良しになれるよ」
俺の言葉に多少安心してくれたのか、強張っていた表情が和らいだ。
「乗ってみるか」
「え!?」
俺たちの様子を黙って見ていたジュード様が、白馬の立髪を撫でながら提案してくれた。
「い、いいんですか?」
「……ああ」
なんとなく、この白馬はジュード様の愛馬なんだろうなと思った。
そんな大切な子に、乗馬のじょの字も知らないようなど素人の俺が乗せてもらっていいんだろうか。
「俺、全然乗馬の経験とかないんですけど、大丈夫でしょうか?」
「俺がそばにいる」
「へ?」
「……乗るのか乗らないのか、どっちだ」
「のっ、乗ります!」
ジュード様からの貴重なお誘いに、考える間もなく食い気味で返事をしていた。
だってこんな機会二度とないかもしれないし。それにお馬さんも『乗っていいよ』っていう目で俺を見てくれてる気がするし!
「ね、リアムも一緒に乗ってみる?」
「ぼくものっていいの?」
「もちろん! ですよね、ジュード様?」
「そのつもりで連れて来た」
「ふふ、だって」
やっぱり、なんだかんだでジュード様もリアムのことを気にかけてくれてるんだな。
「せっかくの機会だし、乗せてもらおう?」
「……うん」
俺の服を握る手に力が篭った。それでも、勇気を振り絞るようにこくんと頷くリアムが健気で愛しい。
リアムが頷いたのを見届けて、ジュード様が白馬の手綱を引いた。
「わぁ……!」
近くで見るとより一層迫力があって神々しかった。リアムも怖さよりも感動が勝ったみたいで、キラキラと瞳を輝かせて歓声を上げた。
俺も興奮で声が上擦りそうになるのを抑えて、そっと尋ねた。
「あの、お恥ずかしながら、乗り方とかも分からないんですが……」
「問題ない」
想定内だったのか、ジュード様は特に驚いた素振りもなかった。
「その靴では不便だな」
「あ……確かに」
言われてみれば確かに、俺が今履いてるのは革製のサンダルみたいなラフな靴だった。
「これならお前でも履けるはずだ」
そう言ってジュード様が手にしたのは、長靴みたいな形をした革製のブーツだった。
身長に比例するように足も大きいジュード様が履くには小ぶりなサイズ感だ。
「いいんですか?」
「何がだ」
「誰か他の人の靴ですよね? 勝手に借りちゃっていいんですかね」
それこそ、女の人の靴だったりして。
「リアム! 心配かけてごめんね……!」
ぬいぐるみと一緒にリアムの部屋を訪ねれば、ドアを開けると同時にリアムが飛びついてきた。
「ママ、げんきになった?」
「うん、もうすっかり元気になったよ。リアムがお友達を連れて来てくれたおかげだよ」
「あのね、フィオナがね、おねつがうつっちゃうから、ママといっしょにいちゃダメっていうの。でも、ママはひとりだとさびしいでしょ? だからね、ぼくのかわりにジョバンニたちにおみまいしてもらったの」
「リアム……」
なんて健気で優しい子なんだろう。
愛しさが溢れて堪らなくなって、ぎゅっと小さな体を抱きしめた。
「ありがとう」
「えへへ……っ」
ああ、可愛い。可愛いがすぎる。
息子のあまりの天使っぷりに心の中で涙を流していれば、背後で耳馴染みのある足音がした。
「とうさま?」
ドアの近くにいたジュード様が突然近づいてきて、びっくりしたのかもしれない。リアムがぱちぱちと目を瞬かせる。
「……馬は、好きか」
「へ?」
脈絡のない質問に、つい素っ頓狂な声を上げてしまった。
リアムも戸惑ったように俺の顔を見あげている。
「えーと、リアムはお馬さん好き?」
「……おっきくて、こわい」
「そっか、そうだよね」
まだ三歳だし、大きい動物は怖いよなぁ。
よしよしとリアムの頭を撫でていれば、不意に伸びてきた手に腕を掴まれた。その手の主はもちろんジュード様だ。
「わわっ」
驚く間もなく引き寄せられて、慌ててリアムを抱き直した。
俺の腕の中でリアムも目を白黒させている。
「……出かけるぞ」
「え? あ、ええ?」
戸惑う俺を他所に、ジュード様は俺たちを引きずるようにしてズンズンと歩き出してしまった。
「わわっ! 待ってください!」
転ばないように必死でジュード様の後を追う。
家族三人連れ立って歩く光景がよっぽど珍しいのか、使用人さんたちとすれ違う度に二度見されてしまった。
***
ジュード様に連れられるがままにやって来たのは、屋敷の裏手にある馬屋だった。
「わぁ……!」
真っ白い毛並みの子から艶やかな黒い毛の子まで。立派な体躯と陽の光に輝く毛艶を見れば、素人目にもとても大事にされていることが分かった。
「ママ……」
リアムが不安そうに俺の服を掴んだ。
安心させてあげたくて、ゆらゆらとリアムの体を揺らす。
「大丈夫だよ。お馬さんはね、とっても賢くて優しいんだよ」
「そうなの……?」
「うん。体が大きい分、心も大きくて優しいんだよ。だから大丈夫。リアムが意地悪したりしなければ、お馬さんもリアムに怖いことしないよ」
「ぼく、いじわるしないよ」
「うん、そうだよね。なら大丈夫、お馬さんともすぐ仲良しになれるよ」
俺の言葉に多少安心してくれたのか、強張っていた表情が和らいだ。
「乗ってみるか」
「え!?」
俺たちの様子を黙って見ていたジュード様が、白馬の立髪を撫でながら提案してくれた。
「い、いいんですか?」
「……ああ」
なんとなく、この白馬はジュード様の愛馬なんだろうなと思った。
そんな大切な子に、乗馬のじょの字も知らないようなど素人の俺が乗せてもらっていいんだろうか。
「俺、全然乗馬の経験とかないんですけど、大丈夫でしょうか?」
「俺がそばにいる」
「へ?」
「……乗るのか乗らないのか、どっちだ」
「のっ、乗ります!」
ジュード様からの貴重なお誘いに、考える間もなく食い気味で返事をしていた。
だってこんな機会二度とないかもしれないし。それにお馬さんも『乗っていいよ』っていう目で俺を見てくれてる気がするし!
「ね、リアムも一緒に乗ってみる?」
「ぼくものっていいの?」
「もちろん! ですよね、ジュード様?」
「そのつもりで連れて来た」
「ふふ、だって」
やっぱり、なんだかんだでジュード様もリアムのことを気にかけてくれてるんだな。
「せっかくの機会だし、乗せてもらおう?」
「……うん」
俺の服を握る手に力が篭った。それでも、勇気を振り絞るようにこくんと頷くリアムが健気で愛しい。
リアムが頷いたのを見届けて、ジュード様が白馬の手綱を引いた。
「わぁ……!」
近くで見るとより一層迫力があって神々しかった。リアムも怖さよりも感動が勝ったみたいで、キラキラと瞳を輝かせて歓声を上げた。
俺も興奮で声が上擦りそうになるのを抑えて、そっと尋ねた。
「あの、お恥ずかしながら、乗り方とかも分からないんですが……」
「問題ない」
想定内だったのか、ジュード様は特に驚いた素振りもなかった。
「その靴では不便だな」
「あ……確かに」
言われてみれば確かに、俺が今履いてるのは革製のサンダルみたいなラフな靴だった。
「これならお前でも履けるはずだ」
そう言ってジュード様が手にしたのは、長靴みたいな形をした革製のブーツだった。
身長に比例するように足も大きいジュード様が履くには小ぶりなサイズ感だ。
「いいんですか?」
「何がだ」
「誰か他の人の靴ですよね? 勝手に借りちゃっていいんですかね」
それこそ、女の人の靴だったりして。
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