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5.火竜の卵って?

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「ブルーノは大したものが作れなくて申し訳ありません」と謙遜していたがとても美味しかった。
 魚介をたっぷりと使ったパスタは海鮮のうま味がしみだしていて美味しかったし、玉ねぎのスープはじっくりと炒めた玉ねぎの甘味が感じられて何杯でも飲めそうだった。

「こちら、お口直しにどうぞ。フランボワーズのジェラートです」
「美味そうだ」
「冷たくて美味しそうですね」

 クレメンテの言葉に同意してくれるブルーノ。
 実は暴言はクレメンテへ向けて言った言葉にかかるのだ。だからこの言葉はジョルジョへ向けて言った言葉だろう。

 第三者がいる中でクレメンテへ暴言を吐き続けるブルーノも、事情を知らない人から見ると頭がおかしい人になってしまう。それを避けるためにこうしてうまく暴言が出ないような話し方を身に着けたのだ。

 しんどい。
 こんな小細工しなくてもいいように早く呪いを解きに行きたい。

 ジェラートはフランボワーズの色とバニラを混ぜたマーブルになっている。
 色合いも美しく、さっぱりして美味しい。
 チビチビと食べているクレメンテだったが、ブルーノがジェラートを見ながら何か悩んでいるように見えて声をかけた。

「どうした? 美味しいぞ」
「ええ。ちょっと気になっただけなんですが……」

 同じようにジェラートを食べているジョルジョを見つめるブルーノ。

「火竜の卵ってなんでしょうか?」
「えっと、活火山に住む火竜が生んだ卵だと思うのですが」

 ジョルジョが不思議そうに首を傾げる。

「本当にそうでしょうか? 私達はその言葉に思い込みをしていた可能性はないでしょうか?」
「思い込み?」

 クレメンテの言葉に頷くブルーノ。

「普通に考えて、活火山に卵を取りに行くなんて出来ませんよ」
「だから勇者なんじゃないでしょうか?」

 ジョルジョが不安そうに呟く。
 それをさせられそうになっている自分を思い出して怯えているようだ。

「先代は鍛冶師だったのでしょう。暑さには耐性があるかもしれませんが、人間です。それに精々数十年前の話ですから、もしも火山に行って卵を取って来たならその方法も子孫には伝わっているのでは? それがないのなら、火竜の卵は本当は私達の想像する火竜の卵じゃないってことです」
「つまり?」
「例えば、このジェラートの名前って『フランボワーズとバニラのジェラート』ですよね。でもこれを『火竜の卵』って名前をつけても火竜の卵になるんじゃないでしょうか?」

 クレメンテとジョルジョが顔を見合わせる。

「なるほど……」

 こじつけのように聞こえるけれど、まともな人間は火山へ入れないのだからその可能性だって十分あるような気がしてきた。

「つまり、僕がそういう名前の料理を作って出したらどうかということでしょうか?」

 ブルーノが頷く。

「先代は鍛冶師だったなら料理は作っていないでしょう。多分、道中で見つけたその土地の食べ物や果物がそういう名前だったのでは? でもあなたは料理人です。だからあなたの火竜の卵を作ってもいいかもしれませんね。どうせ誰も見たことがない食べ物なんですから」
 
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