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12.後をつける
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旅立ちの日はすぐにきた。
前日に麓の街から代わりの司祭とロイがやってきていた。
司祭は、前に見たことのあるぽちゃっとしたおじいちゃん司祭だった。
オリヴァーはディンのことを「遠縁の子で厄介なことに巻き込まれて、かくまう意味でも一時的に教会に滞在をしている」と伝えていた。
厄介な事ってなんだ?とディンは思ったが、司祭はまじまじと顔を見ると納得したような顔をして、安心させるように微笑んでくれた。
「ここは安全だから安心してください」と言われたが何のことやら?と思っている。
二人が旅立つのを見届けると、ディンは早速司祭に言った。
「礼拝の邪魔になるから、俺はしばらく家に帰ります」
「ええっ!そんな、ここにいてください。僕、オリヴァー様からディンさんのお世話も任されているんです」
幼い顔に焦りを浮かべるロイ。
そういえばロイは司祭ではなく、まだ見習いとのことだった。そんな彼が司祭で領主の息子であるオリヴァーに頼まれたなら、断れないしなんとしてもやり遂げようと思うだろう。
おじいちゃん司祭はロイとは別の意味で心配そうな顔をしている。
「家に帰っても大丈夫なのかい?」
「友達の家にお世話になろうかと思ってます」
「ここにいてくれても問題ないんだよ。ロイだけじゃ手が足りないところを手伝ってくれても助かるんだ」
「そ、そうです。裏にハーブ園を作る話になってますので手伝ってもらえると嬉しいです!」
「ハーブ園?」
ディンの興味を引けたようだと思ったロイが、詳しく話してくる。
「はい、もうディラン様が耕してくれてるらしいので、僕たちは苗や種を植えるだけですが」
「ふぅん」
おじいちゃん司祭は純粋にディンのことを心配していることが分かったが、なんとなくロイはオリヴァーに任されたから以外の理由がありそうに感じた。
――もしかして後をつけられると思ってる?
出かけると聞いてから、ディンもどこに行くのかどれくらいの行程なのかをかなり細かく聞いたからだろう。
地図まで持って来て教えてもらったから、かなり本気でそう思われていると思った。
ロイは足止めも言いつけられているのだろう。
地理に詳しくないディンがいったん街の外に出てしまったら戻ってくるのは難しい。と思われてそうだ。不慣れな土地で道に迷う、それを心配してくれているのならありがたい事ではあるけれど。
でも夢で見た事柄が現実になったら?そう思ったら黙ってここで待っているなんてできない。
「わかったよ。じゃあお手伝いして三日後に出発するね」
「そ、そんなぁ」
ああだこうだと言葉を重ねてディンを引き留めようとするが、もともと行動制限されているわけでもないのだ。
そうにっこりと微笑んで言えば、ロイも強くは反対できなかった。
ロイを笑顔で黙らせる。
行くと決めたらディンは折れるつもりはない。
「わかりました……」
ロイも歩きならともかく、馬を使うらしいのでデインももう追いつけないから諦めると思ったのだろう。
しぶしぶだが、幾分かはほっとしたような顔をしていた。
そしてディンは今、オリヴァーとディランと見習い君の後ろをつけていた。
夜は狼になって駆け抜けて、昼間は街道沿いの雑木林で身を隠して過ごした。
途中で鳥たちに、こんな人間こなかった?と聞いて確認するのを忘れない。
もともと行程を知っていたのだから、見つけるのはそれほど難しいことではなかった。神に仕える二人だ。さすがに嘘はついていなかった。
ディンは一行が村に入ったのを確認すると引き返して森の中へ入った。
この村は巡回の行程にあった村だ。
ここ数日は天幕で野宿をしていたので、今日は村に入れるようでディンも安心した。
雨の野宿の時もあって、見ていて可哀そうだった。狼のディンでも雨の日はじっとしているものだが、人間は違うようで構わず歩き続けていた。体調を崩すのではないかとハラハラしたが、今日から屋根の下で休めるのなら安心だろう。
村では広場で話をしたり、頼まれた神事もしているようだったので数日滞在するのだ。ディンも他の村で中に入ろうとしたことがあったが、かなり怪しまれ村の男衆から追いかけられそうになり、慌てて逃げだした苦い思い出がある。
ディンは知らなかったが、小さな村に立ち寄るよそ者は珍しい。行商でも、巡礼でもなく、身一つで現れた人間は警戒されるに決まっている。
仮に警戒されなくても、それはそれで怪しいのでディンには追い出されただけ命拾いしたともいえるのだった。
人間の姿に戻り、持ってきた衣服を着込む。
山ではちょうどよかったが、少し暑い。
非常食のつもりで持ってきていた素焼きのナッツをぽりぽり齧りながら考える。
南下してきたので、教会のある地域とは違う、見たことのない植物が増えている。
村の近くにある広い畑も、寒冷地でも食べられているライ麦とは違う種類が芽を出しているようだった。
村人は森で採取もしているようで、森の浅い場所には人の足跡や匂いがあった。
何かの獣の気配もあり、奥まで獣道が続いていることから、狩猟も盛んなようだ。
森の食べ物も人に取られていて、かなり深い場所にいかねば手に入らなそうだと思った。
禁足地として守られていたディンの山とはなにもかも違っているようだった。
--確かこの先に大きな川があったな。
雪解けの水が流れ込んだこと、昨日今日の雨で川の水に変化があるだろう。
小腹を満たすと夜にでも見に行こうと昼寝をすることにしたのだった。
前日に麓の街から代わりの司祭とロイがやってきていた。
司祭は、前に見たことのあるぽちゃっとしたおじいちゃん司祭だった。
オリヴァーはディンのことを「遠縁の子で厄介なことに巻き込まれて、かくまう意味でも一時的に教会に滞在をしている」と伝えていた。
厄介な事ってなんだ?とディンは思ったが、司祭はまじまじと顔を見ると納得したような顔をして、安心させるように微笑んでくれた。
「ここは安全だから安心してください」と言われたが何のことやら?と思っている。
二人が旅立つのを見届けると、ディンは早速司祭に言った。
「礼拝の邪魔になるから、俺はしばらく家に帰ります」
「ええっ!そんな、ここにいてください。僕、オリヴァー様からディンさんのお世話も任されているんです」
幼い顔に焦りを浮かべるロイ。
そういえばロイは司祭ではなく、まだ見習いとのことだった。そんな彼が司祭で領主の息子であるオリヴァーに頼まれたなら、断れないしなんとしてもやり遂げようと思うだろう。
おじいちゃん司祭はロイとは別の意味で心配そうな顔をしている。
「家に帰っても大丈夫なのかい?」
「友達の家にお世話になろうかと思ってます」
「ここにいてくれても問題ないんだよ。ロイだけじゃ手が足りないところを手伝ってくれても助かるんだ」
「そ、そうです。裏にハーブ園を作る話になってますので手伝ってもらえると嬉しいです!」
「ハーブ園?」
ディンの興味を引けたようだと思ったロイが、詳しく話してくる。
「はい、もうディラン様が耕してくれてるらしいので、僕たちは苗や種を植えるだけですが」
「ふぅん」
おじいちゃん司祭は純粋にディンのことを心配していることが分かったが、なんとなくロイはオリヴァーに任されたから以外の理由がありそうに感じた。
――もしかして後をつけられると思ってる?
出かけると聞いてから、ディンもどこに行くのかどれくらいの行程なのかをかなり細かく聞いたからだろう。
地図まで持って来て教えてもらったから、かなり本気でそう思われていると思った。
ロイは足止めも言いつけられているのだろう。
地理に詳しくないディンがいったん街の外に出てしまったら戻ってくるのは難しい。と思われてそうだ。不慣れな土地で道に迷う、それを心配してくれているのならありがたい事ではあるけれど。
でも夢で見た事柄が現実になったら?そう思ったら黙ってここで待っているなんてできない。
「わかったよ。じゃあお手伝いして三日後に出発するね」
「そ、そんなぁ」
ああだこうだと言葉を重ねてディンを引き留めようとするが、もともと行動制限されているわけでもないのだ。
そうにっこりと微笑んで言えば、ロイも強くは反対できなかった。
ロイを笑顔で黙らせる。
行くと決めたらディンは折れるつもりはない。
「わかりました……」
ロイも歩きならともかく、馬を使うらしいのでデインももう追いつけないから諦めると思ったのだろう。
しぶしぶだが、幾分かはほっとしたような顔をしていた。
そしてディンは今、オリヴァーとディランと見習い君の後ろをつけていた。
夜は狼になって駆け抜けて、昼間は街道沿いの雑木林で身を隠して過ごした。
途中で鳥たちに、こんな人間こなかった?と聞いて確認するのを忘れない。
もともと行程を知っていたのだから、見つけるのはそれほど難しいことではなかった。神に仕える二人だ。さすがに嘘はついていなかった。
ディンは一行が村に入ったのを確認すると引き返して森の中へ入った。
この村は巡回の行程にあった村だ。
ここ数日は天幕で野宿をしていたので、今日は村に入れるようでディンも安心した。
雨の野宿の時もあって、見ていて可哀そうだった。狼のディンでも雨の日はじっとしているものだが、人間は違うようで構わず歩き続けていた。体調を崩すのではないかとハラハラしたが、今日から屋根の下で休めるのなら安心だろう。
村では広場で話をしたり、頼まれた神事もしているようだったので数日滞在するのだ。ディンも他の村で中に入ろうとしたことがあったが、かなり怪しまれ村の男衆から追いかけられそうになり、慌てて逃げだした苦い思い出がある。
ディンは知らなかったが、小さな村に立ち寄るよそ者は珍しい。行商でも、巡礼でもなく、身一つで現れた人間は警戒されるに決まっている。
仮に警戒されなくても、それはそれで怪しいのでディンには追い出されただけ命拾いしたともいえるのだった。
人間の姿に戻り、持ってきた衣服を着込む。
山ではちょうどよかったが、少し暑い。
非常食のつもりで持ってきていた素焼きのナッツをぽりぽり齧りながら考える。
南下してきたので、教会のある地域とは違う、見たことのない植物が増えている。
村の近くにある広い畑も、寒冷地でも食べられているライ麦とは違う種類が芽を出しているようだった。
村人は森で採取もしているようで、森の浅い場所には人の足跡や匂いがあった。
何かの獣の気配もあり、奥まで獣道が続いていることから、狩猟も盛んなようだ。
森の食べ物も人に取られていて、かなり深い場所にいかねば手に入らなそうだと思った。
禁足地として守られていたディンの山とはなにもかも違っているようだった。
--確かこの先に大きな川があったな。
雪解けの水が流れ込んだこと、昨日今日の雨で川の水に変化があるだろう。
小腹を満たすと夜にでも見に行こうと昼寝をすることにしたのだった。
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