7 / 29
7.雪山
しおりを挟む
オリヴァーの視線がディンを捉えていないのも不思議だったが、ようやく合点がいった。
人間には真っ暗でよく見えていないのだと。
ディランもいったん火をつけるのは諦めたようで三人で固まっている。これからのことを相談しているようだった。
ディンは少し考えて人型を取ることにした。狼の姿で誘導できたら良いのだけれど、見えないのなら人間になって手を引っ張っていくしかないと思ったのだ。
素っ裸だから寒いぜ。と思いながらディンは静かに声を出した。
「諦めないで」
ビクリと三人が揺れた。ディランは見えもしないのに剣に手をかけて鋭く誰何した。
「誰だ!」
「この先は他の出口とつながっているんだ。俺が手を引いてあげるから先に進もう」
そっとオリヴァーの手に触れる。
手袋の上から握られたことを察したオリヴァーが身を固くする。
「あ、あなたは誰ですか?」
「大丈夫だよ。心配しないで。さ、行こう」
我ながらこんなので大丈夫か?と思っていたが、不思議なことに三人は大人しくついてきてくれたのだった。
しばらく靴音と、ひたひたと歩くディンの足音だけが洞窟に響いていた。
人間の足でも1時間は歩いていないはずだがすっかりディンは冷えてしまった。
早く狼に戻りたい。そう思いながら、丁度良い場所までくるとオリヴァーの手を離した。
「ここから真っすぐ進むと光が見えるよ。泉があるからその横の道をさらに進むと他の出口から出られるからね」
「待ってください!あなたの名前は……?」
「名前?」
ディンだよ。と言おうとしたら、狼の姿に戻っていた。
言葉の代わりに鳴き声が響く。
オリヴァーは人影を探すように手を左右に大きく振っている。
やがて誰もいないことを悟ると、みんなの手を引いて先へと歩き出した。
するとすぐに眩しい光が飛び込んできた。
暗闇にずっといた目には光が強すぎたのか、三人とも何度も瞬きを繰り返す。
「ここは……!」
透明な水が湧き、雪に覆われた山の中にありながら光が差し込んでいる。
しかし三人を驚かせたのは、泉の奥にある朽ちかけた石像だった。
「なんでしょう、石像のようですが……」
「まさかエーディンの神殿でしょうか!」
「女神エーディンの住まう山です。神殿があってもおかしくありませんでしたが、こんなところにあったなんて!」
――はぁ?あれが?
ディンの目にはかろうじて人型とわかる程度のボロボロな岩だ。
言われるまで女神像だと考えもしなかった。
神々しいものを見るように三人とも石像を見つめている。
さっきまで遭難して落ち込んでいたのに、すっかりそのことは忘れてしまったようだった。
信仰心ってすごいな、と思いながらディンは泉ですっかり乾いてしまった喉を潤した。
人間には真っ暗でよく見えていないのだと。
ディランもいったん火をつけるのは諦めたようで三人で固まっている。これからのことを相談しているようだった。
ディンは少し考えて人型を取ることにした。狼の姿で誘導できたら良いのだけれど、見えないのなら人間になって手を引っ張っていくしかないと思ったのだ。
素っ裸だから寒いぜ。と思いながらディンは静かに声を出した。
「諦めないで」
ビクリと三人が揺れた。ディランは見えもしないのに剣に手をかけて鋭く誰何した。
「誰だ!」
「この先は他の出口とつながっているんだ。俺が手を引いてあげるから先に進もう」
そっとオリヴァーの手に触れる。
手袋の上から握られたことを察したオリヴァーが身を固くする。
「あ、あなたは誰ですか?」
「大丈夫だよ。心配しないで。さ、行こう」
我ながらこんなので大丈夫か?と思っていたが、不思議なことに三人は大人しくついてきてくれたのだった。
しばらく靴音と、ひたひたと歩くディンの足音だけが洞窟に響いていた。
人間の足でも1時間は歩いていないはずだがすっかりディンは冷えてしまった。
早く狼に戻りたい。そう思いながら、丁度良い場所までくるとオリヴァーの手を離した。
「ここから真っすぐ進むと光が見えるよ。泉があるからその横の道をさらに進むと他の出口から出られるからね」
「待ってください!あなたの名前は……?」
「名前?」
ディンだよ。と言おうとしたら、狼の姿に戻っていた。
言葉の代わりに鳴き声が響く。
オリヴァーは人影を探すように手を左右に大きく振っている。
やがて誰もいないことを悟ると、みんなの手を引いて先へと歩き出した。
するとすぐに眩しい光が飛び込んできた。
暗闇にずっといた目には光が強すぎたのか、三人とも何度も瞬きを繰り返す。
「ここは……!」
透明な水が湧き、雪に覆われた山の中にありながら光が差し込んでいる。
しかし三人を驚かせたのは、泉の奥にある朽ちかけた石像だった。
「なんでしょう、石像のようですが……」
「まさかエーディンの神殿でしょうか!」
「女神エーディンの住まう山です。神殿があってもおかしくありませんでしたが、こんなところにあったなんて!」
――はぁ?あれが?
ディンの目にはかろうじて人型とわかる程度のボロボロな岩だ。
言われるまで女神像だと考えもしなかった。
神々しいものを見るように三人とも石像を見つめている。
さっきまで遭難して落ち込んでいたのに、すっかりそのことは忘れてしまったようだった。
信仰心ってすごいな、と思いながらディンは泉ですっかり乾いてしまった喉を潤した。
44
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた!
どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。
そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?!
いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?!
会社員男性と、異世界獣人のお話。
※6話で完結します。さくっと読めます。
冤罪で投獄された異世界で、脱獄からスローライフを手に入れろ!
風早 るう
BL
ある日突然異世界へ転移した25歳の青年学人(マナト)は、無実の罪で投獄されてしまう。
物騒な囚人達に囲まれた監獄生活は、平和な日本でサラリーマンをしていたマナトにとって当然過酷だった。
異世界転移したとはいえ、何の魔力もなく、標準的な日本人男性の体格しかないマナトは、囚人達から揶揄われ、性的な嫌がらせまで受ける始末。
失意のどん底に落ちた時、新しい囚人がやって来る。
その飛び抜けて綺麗な顔をした青年、グレイを見た他の囚人達は色めき立ち、彼をモノにしようとちょっかいをかけにいくが、彼はとんでもなく強かった。
とある罪で投獄されたが、仲間思いで弱い者を守ろうとするグレイに助けられ、マナトは急速に彼に惹かれていく。
しかし監獄の外では魔王が復活してしまい、マナトに隠された神秘の力が必要に…。
脱獄から魔王討伐し、異世界でスローライフを目指すお話です。
*異世界もの初挑戦で、かなりのご都合展開です。
*性描写はライトです。
王子様と魔法は取り扱いが難しい
南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。
特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。
※濃縮版
異世界に転移したショタは森でスローライフ中
ミクリ21
BL
異世界に転移した小学生のヤマト。
ヤマトに一目惚れした森の主のハーメルンは、ヤマトを溺愛して求愛しての毎日です。
仲良しの二人のほのぼのストーリーです。
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
【完結済】転移者を助けたら(物理的にも)身動きが取れなくなった件について。
キノア9g
BL
完結済
主人公受。異世界転移者サラリーマン×ウサギ獣人。
エロなし。プロローグ、エンディングを含め全10話。
ある日、ウサギ獣人の冒険者ラビエルは、森の中で倒れていた異世界からの転移者・直樹を助けたことをきっかけに、予想外の運命に巻き込まれてしまう。亡き愛兎「チャッピー」と自分を重ねてくる直樹に戸惑いつつも、ラビエルは彼の一途で不器用な優しさに次第に心惹かれていく。異世界の知識を駆使して王国を発展させる直樹と、彼を支えるラビエルの甘くも切ない日常が繰り広げられる――。優しさと愛が交差する異世界ラブストーリー、ここに開幕!
転生したので異世界でショタコンライフを堪能します
のりたまご飯
BL
30歳ショタコンだった俺は、駅のホームで気を失い、そのまま電車に撥ねられあっけなく死んだ。
けど、目が覚めるとそこは知らない天井...、どこかで見たことのある転生系アニメのようなシチュエーション。
どうやら俺は転生してしまったようだ。
元の世界で極度のショタコンだった俺は、ショタとして異世界で新たな人生を歩む!!!
ショタ最高!ショタは世界を救う!!!
ショタコンによるショタコンのためのBLコメディ小説であーる!!!
狼くんは耳と尻尾に視線を感じる
犬派だんぜん
BL
俺は狼の獣人で、幼馴染と街で冒険者に登録したばかりの15歳だ。この街にアイテムボックス持ちが来るという噂は俺たちには関係ないことだと思っていたのに、初心者講習で一緒になってしまった。気が弱そうなそいつをほっとけなくて声をかけたけど、俺の耳と尻尾を見られてる気がする。
『世界を越えてもその手は』外伝。「アルとの出会い」「アルとの転機」のキリシュの話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる