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5.神の使い?
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男は教会に帰って行くようだった。
少し考えてディンも後を着いていくことにした。
ねぐらは森を抜けた草原と岩場の間ぐらいの洞穴にあった。この足で遠くまで歩くよりも、安全そうな場所で一休みしたかったし、あの日教会で会ったこの人間の男をもっと知りたかったからだ。
教会は底冷えするような冷たさになっていた。
足元から冷気が上ってくるようで、むしろ今日なら外のほうが暖かいのでは?と思ってしまう。
祭壇に飾られている花もすっかりなくなって、豊富に供物があった秋と比べると寂しい。
今はドライフルーツとパンが置かれているだけだった。
かちゃかちゃと爪を鳴らして教会の奥まで進むと、さっきの司祭が誰かと話している声が聞こえてきた。
「オリヴァー様お帰りなさいませ。ひゃっ!そ、そこに……!」
「ロイ、大丈夫ですよ。この子はこのトラバサミで怪我をしていたのです。着いてきたみたいですね」
「なんですって!ここを神の住まう山と知っての事でしょうか?きっと街の外の人の仕業ですね。許せません!」
ロイは狼の姿を見て怯えた表情を見せたものの、オリヴァーの言葉を聞いて顔を赤くして怒り出した。
若く見える顔が怒るとさらに幼く見える。
服装はオリヴァーと似たような衣装だったが、オリヴァーに対して丁寧な扱いをしているように見えた。
ディンは入り口近くにある木製の椅子に飛び乗ると丸くなる。
「トラバサミはずいぶん前に禁止になったのに。明日全て取り去れると良いのですが」
「密猟者そのものを捕まえねばいたちごっこでしょう。残して密猟者が回収しに来るのを待つべきかもしれませんが……」
「しかしオリヴァー様。小動物ならショックで死んでしまうかもしれませんし、間違って人間がかかったら足に大怪我を負います。明日も雪は降りそうにありませんし、埋もれてしまう前に全て探すべきでしょう」
「そうですね。犯人は教会の騎士に任せて、我々は見回りを続けましょう」
「はい!」
そう会話をすると、二人は教会の奥にある部屋へと移動していった。
音から少し早いが夕飯の支度をしているようだと思った。
夕飯分けてくれないかな。呑気にそんなことを思いながら、ディンはそのまま礼拝堂で目を閉じて休むことにした。
夕方、陽が落ちた頃に外からもう一人、司祭ではなく騎士のような恰好をした大柄な男が戻って来た。
鍛えられた身体は冬用の服を着ていてもわかるほどだ。腰には重そうな剣を下げていて、厳めしい顔が寒さで赤くなっている。
そのころになると礼拝堂でも火を焚いてろうそくも灯していたので、外よりはマシな暖かさになってた。
ディンは教会でたまに見る顔だと気づいたが、男のほうはディンを見るとロイと同じように驚き、オリヴァーに説明を受けてまた同じように怒りだした。
どうやらかなり信心深いようで、「エーディン様がお怒りになる」とか「神聖な山をなんだと思っているのか」とひとしきり怒っていた。
「それに……」
そう不自然に言葉を切るとこちらに向かって視線を向けた。
なんだよ?
そんな意味も込めてディンも見つめると、騎士の男は慌てて目線をそらした。
「白い生き物は神に仕えていると言われているのです」
続きをオリヴァーが引き継ぐ。
「また、女神の別の姿だとも言われているのです。ここは女神の住まう山でこの教会より上は、普段は禁足区域なのです。ですが密猟者がいるようだと噂を聞いて調査に来ました。明日はもっと上まで登らせてもらいますが、どうかお許しください」
言い終わると胸の前で両手を組む。
ロイと騎士の男も同じように祈りの言葉をささげていた。
なるほど。道理でこの三人が自分を追い払いもせずに、教会にいさせるわけだと思った。
俺に言われても女神に伝わるわけじゃないと思ったが、人間の姿になって伝えることもできないのでそのまま祈られるディンだった。
少し考えてディンも後を着いていくことにした。
ねぐらは森を抜けた草原と岩場の間ぐらいの洞穴にあった。この足で遠くまで歩くよりも、安全そうな場所で一休みしたかったし、あの日教会で会ったこの人間の男をもっと知りたかったからだ。
教会は底冷えするような冷たさになっていた。
足元から冷気が上ってくるようで、むしろ今日なら外のほうが暖かいのでは?と思ってしまう。
祭壇に飾られている花もすっかりなくなって、豊富に供物があった秋と比べると寂しい。
今はドライフルーツとパンが置かれているだけだった。
かちゃかちゃと爪を鳴らして教会の奥まで進むと、さっきの司祭が誰かと話している声が聞こえてきた。
「オリヴァー様お帰りなさいませ。ひゃっ!そ、そこに……!」
「ロイ、大丈夫ですよ。この子はこのトラバサミで怪我をしていたのです。着いてきたみたいですね」
「なんですって!ここを神の住まう山と知っての事でしょうか?きっと街の外の人の仕業ですね。許せません!」
ロイは狼の姿を見て怯えた表情を見せたものの、オリヴァーの言葉を聞いて顔を赤くして怒り出した。
若く見える顔が怒るとさらに幼く見える。
服装はオリヴァーと似たような衣装だったが、オリヴァーに対して丁寧な扱いをしているように見えた。
ディンは入り口近くにある木製の椅子に飛び乗ると丸くなる。
「トラバサミはずいぶん前に禁止になったのに。明日全て取り去れると良いのですが」
「密猟者そのものを捕まえねばいたちごっこでしょう。残して密猟者が回収しに来るのを待つべきかもしれませんが……」
「しかしオリヴァー様。小動物ならショックで死んでしまうかもしれませんし、間違って人間がかかったら足に大怪我を負います。明日も雪は降りそうにありませんし、埋もれてしまう前に全て探すべきでしょう」
「そうですね。犯人は教会の騎士に任せて、我々は見回りを続けましょう」
「はい!」
そう会話をすると、二人は教会の奥にある部屋へと移動していった。
音から少し早いが夕飯の支度をしているようだと思った。
夕飯分けてくれないかな。呑気にそんなことを思いながら、ディンはそのまま礼拝堂で目を閉じて休むことにした。
夕方、陽が落ちた頃に外からもう一人、司祭ではなく騎士のような恰好をした大柄な男が戻って来た。
鍛えられた身体は冬用の服を着ていてもわかるほどだ。腰には重そうな剣を下げていて、厳めしい顔が寒さで赤くなっている。
そのころになると礼拝堂でも火を焚いてろうそくも灯していたので、外よりはマシな暖かさになってた。
ディンは教会でたまに見る顔だと気づいたが、男のほうはディンを見るとロイと同じように驚き、オリヴァーに説明を受けてまた同じように怒りだした。
どうやらかなり信心深いようで、「エーディン様がお怒りになる」とか「神聖な山をなんだと思っているのか」とひとしきり怒っていた。
「それに……」
そう不自然に言葉を切るとこちらに向かって視線を向けた。
なんだよ?
そんな意味も込めてディンも見つめると、騎士の男は慌てて目線をそらした。
「白い生き物は神に仕えていると言われているのです」
続きをオリヴァーが引き継ぐ。
「また、女神の別の姿だとも言われているのです。ここは女神の住まう山でこの教会より上は、普段は禁足区域なのです。ですが密猟者がいるようだと噂を聞いて調査に来ました。明日はもっと上まで登らせてもらいますが、どうかお許しください」
言い終わると胸の前で両手を組む。
ロイと騎士の男も同じように祈りの言葉をささげていた。
なるほど。道理でこの三人が自分を追い払いもせずに、教会にいさせるわけだと思った。
俺に言われても女神に伝わるわけじゃないと思ったが、人間の姿になって伝えることもできないのでそのまま祈られるディンだった。
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