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21.パートナー
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翌日の放課後、私は早速ライムント先生へ会いに行った。
ダンスのパートナーのお誘いだけだと「何しに来た」と言われかねないので、実家から送られて来たジャムや羊のチーズをお土産にして。
実際、実家からは先生へお渡ししてね。と多めに入っていたから嘘じゃない。
ちなみに、ブローチは部屋へ置いてきている。
恐る恐る研究室を覗くと、ライムント先生を含めて3人の学生が机に座って各々何かをしていた。
私に気が付いた一人が声をかけてくれて、その声に気が付いたライムント先生が戸口まで出てきてくれた。
「どうした」
「お忙しいところ申し訳ありません」
ライムント先生が笑いながら首を振ってくれる。
「いや、教授も出かけてちょうど休憩しようかと思ってたところだ。良ければカフェに行かないか? 以前買った香水瓶の話を聞いてほしいんだ」
香水瓶は私の故郷へ行った時に通過した街で、やっていた蚤の市で買ったもののことだろう。
私は促されるまま廊下を歩く。
「香水瓶ですか?」
「ああ、そもそも香水は何故瓶に入っているか知っているか?」
ライムント先生と一緒に過ごしたお陰で、こんな突然の問題にも慣れっこになってしまった。
私はうーんと唸り、宙を見つめながら考える。
「えっと、香りが飛ばないようにでしょうか」
「そうだな。瓶は気密性、耐熱性に優れている。だから魔法もそれに準じたものがかけられていると思うだろう。例えば香りを逃しにくくするとか、鮮度を保つようなものとか。ところがだ、買った瓶には『薔薇の香り』がするように魔法がかけられていた」
ライムント先生が目を糸のように細めて笑っている。
「それは、ええっと、どの香水を入れても薔薇の香りがするということでしょうか?」
「そうだ。それどころか、水を入れても薔薇の香りがしたぞ。だが水は水だ。肌につくと香水のような香りの持続性はなかった」
「なんだかいたずらのようですね」
ライムント先生がクックッと喉を鳴らして笑っている。
「そうか、いたずらか。その可能性はありそうだな。俺は詐欺かと思っていたのだがそういう遊び心で作られたのかもしれないな」
私が想像していたよりも、ずっと自然で和やかに会話ができた。
大学部のカフェテリアは夕方でもそれなりに人がいた。
中庭が見えるガラス窓の前の席に座る。
注文した紅茶が届くと、ライムント先生が口を開いた。
「俺の話ばかりしてしまったな。ところで君の方は……」
「あ、母からこちらを先生へと」
私は持って来た籠をそのまま渡す。
研究室には他にも人が残っていた。こういうものじゃなくて、研究室で皆が食べられるようなものも一緒に持っていくべきだったかも。
「わざわざ申し訳ない。……ああ、このハーブティーは君の伯母上のものだな。以前貰った物も飲んだが美味しかった」
「伯母が喜びます」
優しく微笑むライムント先生に私の心が温かくなる。
そこで私は「んんっ」と喉の調子を整えると軽い調子で先生へ言った。
「ところで先生、学院のダンスパーティーに私とパートナーで出てもらえませんか?」
「ん?」
私はすまし顔で紅茶を飲んでいるように見えるかもしれないが、内心心臓が飛び出しそうにバクバクと音を立てている。
吐きそうなほどの緊張に、紅茶も飲んでいるふりが精いっぱいだ。
「ああ、そういえば冬にあったな。そんなのが」
「はい。自由参加だって聞いたんですが、せっかくですから出てみたくって。田舎に帰ったら出る機会なんてありませんから。私、他に頼めるお友達もいませんし。フィデリオに頼んでみたんですが、断られました」
これは嘘。
フィデリオには頼んでない。
でもこう言えば可哀そうって、ボランティア気分でパートナーを受け入れてくれるかもって思ったから。
「ああ、そうだろうな……」
「え?」
「もう公にしたか知らないが、フィデリオは婚約したんだ。君を断ったなら彼女をパーティーに呼んだのかもしれないな」
「へぇ……」
私は目を瞬かせた。
フィデリオには何度も会っているけれど知らなかった。
ライムント先生が紅茶のカップを持ちながら小さく頷いた。
「いいぞ」
「え?」
「俺で良ければ一緒に出よう」
「ありがとうございます!」
思わず立ち上がり、喜ぶ私にライムント先生が「大袈裟だな」と苦笑している。
「大袈裟なんかじゃないです。とっても嬉しい、ありがとうございます」
そう言った私に、先生も柔らかく目を細めて笑ってくれたのだった。
ダンスのパートナーのお誘いだけだと「何しに来た」と言われかねないので、実家から送られて来たジャムや羊のチーズをお土産にして。
実際、実家からは先生へお渡ししてね。と多めに入っていたから嘘じゃない。
ちなみに、ブローチは部屋へ置いてきている。
恐る恐る研究室を覗くと、ライムント先生を含めて3人の学生が机に座って各々何かをしていた。
私に気が付いた一人が声をかけてくれて、その声に気が付いたライムント先生が戸口まで出てきてくれた。
「どうした」
「お忙しいところ申し訳ありません」
ライムント先生が笑いながら首を振ってくれる。
「いや、教授も出かけてちょうど休憩しようかと思ってたところだ。良ければカフェに行かないか? 以前買った香水瓶の話を聞いてほしいんだ」
香水瓶は私の故郷へ行った時に通過した街で、やっていた蚤の市で買ったもののことだろう。
私は促されるまま廊下を歩く。
「香水瓶ですか?」
「ああ、そもそも香水は何故瓶に入っているか知っているか?」
ライムント先生と一緒に過ごしたお陰で、こんな突然の問題にも慣れっこになってしまった。
私はうーんと唸り、宙を見つめながら考える。
「えっと、香りが飛ばないようにでしょうか」
「そうだな。瓶は気密性、耐熱性に優れている。だから魔法もそれに準じたものがかけられていると思うだろう。例えば香りを逃しにくくするとか、鮮度を保つようなものとか。ところがだ、買った瓶には『薔薇の香り』がするように魔法がかけられていた」
ライムント先生が目を糸のように細めて笑っている。
「それは、ええっと、どの香水を入れても薔薇の香りがするということでしょうか?」
「そうだ。それどころか、水を入れても薔薇の香りがしたぞ。だが水は水だ。肌につくと香水のような香りの持続性はなかった」
「なんだかいたずらのようですね」
ライムント先生がクックッと喉を鳴らして笑っている。
「そうか、いたずらか。その可能性はありそうだな。俺は詐欺かと思っていたのだがそういう遊び心で作られたのかもしれないな」
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大学部のカフェテリアは夕方でもそれなりに人がいた。
中庭が見えるガラス窓の前の席に座る。
注文した紅茶が届くと、ライムント先生が口を開いた。
「俺の話ばかりしてしまったな。ところで君の方は……」
「あ、母からこちらを先生へと」
私は持って来た籠をそのまま渡す。
研究室には他にも人が残っていた。こういうものじゃなくて、研究室で皆が食べられるようなものも一緒に持っていくべきだったかも。
「わざわざ申し訳ない。……ああ、このハーブティーは君の伯母上のものだな。以前貰った物も飲んだが美味しかった」
「伯母が喜びます」
優しく微笑むライムント先生に私の心が温かくなる。
そこで私は「んんっ」と喉の調子を整えると軽い調子で先生へ言った。
「ところで先生、学院のダンスパーティーに私とパートナーで出てもらえませんか?」
「ん?」
私はすまし顔で紅茶を飲んでいるように見えるかもしれないが、内心心臓が飛び出しそうにバクバクと音を立てている。
吐きそうなほどの緊張に、紅茶も飲んでいるふりが精いっぱいだ。
「ああ、そういえば冬にあったな。そんなのが」
「はい。自由参加だって聞いたんですが、せっかくですから出てみたくって。田舎に帰ったら出る機会なんてありませんから。私、他に頼めるお友達もいませんし。フィデリオに頼んでみたんですが、断られました」
これは嘘。
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「ああ、そうだろうな……」
「え?」
「もう公にしたか知らないが、フィデリオは婚約したんだ。君を断ったなら彼女をパーティーに呼んだのかもしれないな」
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「ありがとうございます!」
思わず立ち上がり、喜ぶ私にライムント先生が「大袈裟だな」と苦笑している。
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そう言った私に、先生も柔らかく目を細めて笑ってくれたのだった。
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