【完結】乙女ゲームの男爵令嬢に転生したと思ったけれど勘違いでした

野々宮なつの

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9.ちょっと意地悪?

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 日曜日、私は大学部の図書館の裏庭に来ていた。
 ほんの少し離れた場所には車座になって座る子ども達と年配のご婦人がひとり。
 
 今日は読み聞かせのボランティアのためにここに来ていた。
 以前、ここで読み聞かせの様子を見た時は故郷でもいいかもなんて思っていたけど、よく考えたら故郷でやる前にちょっとだけでも練習したいじゃない?

 だから思い切って図書館の職員さんから連絡を取ってもらったのだ。
 そうしたら、読み聞かせをしていた夫人が私にも是非やって欲しいと言ってくれて。日曜日なら私も参加しやすいでしょうということで今日に至ったのだった。

 芝生の上には真剣に聞いている子もいれば、退屈そうにしている子もいて。
 私上手に本を読めるかな?
 相手は子ども。
 でも緊張するっ!

 私は緊張をほぐそうと、手を何度も握ったり開いたりを繰り返していた。
 すると、すぐ後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「君、今日はここでどうしたんだ?」
「ライムント先生!」

 驚きで目を見開く。
 図書館だからライムント先生がいてもおかしくないけど会うとは思わなかった。
 
 先生は私の手元の本と、視線の先を見てなるほどと呟いた。

「ボランティア活動か。感心だな」
「ありがとうございます」

 私はちょっと微笑むとすぐに視線を戻した。
 今は緊張しすぎてちょっとライムント先生と話している場合じゃない気分なので。
 
「緊張しているのか?」
「そうですね」
「子供だぞ?」

 わかってます、わかってますってば! でも勝手に緊張するんだもの。
 もうすぐ順番だ。
 私は本をぎゅっと抱きしめると笑顔を準備した。

「じゃあもうすぐなので」

 帰ってください。そういう意味で言ったのに。
 私のこわばった笑顔を見て、面白そうだと思ったらしい。

「せっかくだから俺も聞いて行こう」

 そう言うと、ライムント先生も子ども達と一緒に円になって座ったのだった。
 
 先生ちょっと意地悪なのね……。

 * * *

 読み聞かせが終わると私はお世話になった夫人に挨拶をして別れた。
 また来週もどうですか? と言ってもらえて思わず顔がにやけてしまった。

 結局ライムント先生も最後までお話を聞いていた。
 お陰で余計に疲れた気がする。

「先生つまらなかったんじゃないですか?」
「なかなか面白かった。ところで君はこの後どうするんだ?」
「郵便局に行こうと思ってます」

 婚約者への手紙を出しに行くのだ。

「平日なら学院に頼めば出してもらえるだろう」

 先生は不思議そうに首を傾げた。

「そうなんですか⁉」
「あるだろう、手紙を預かってくれる場所が」

 知らなかった。
 どうやら、寮で暮らす人達が遠方のご両親に手紙を出せるように学院にも簡易郵便局があったらしい。
 これまでは授業が終わってから急いで郵便局まで出しに行っていたのに。そんな必要なかったのね。

「それに日曜日は郵便局が休みだぞ」
「知らなかったです……」

 私の故郷では郵便局がないので、雑貨屋さんにその村の手紙がまとめて届けられる仕組みだった。
 皆お買い物はそこでするので、その時に郵便物が届いていたら受け取るのだ。
 田舎のゆるい感じで、休みの日でも雑貨屋の主人が荷物が届いていたら渡してくれていた。だから休みに対する考えも失念していたのだ。

「そっか、どうしようかな……」

 手紙は明日学院から出せばいいし、勉強でもしようかな。
 そう思って先生を見上げた時、フィデリオのことが思い出された。
 フィデリオにはいつものお礼といってサブレを渡した。じゃあライムント先生にも何かお礼すべきかも?

「そういえばライムント先生、何か好きな物ってありますか?」
「何だ突然」
「いえ、ブローチの件や他にもお世話になっているなって思いまして。何かでお礼をできたらって思ったんですが……」
 
 そう言ってから、私はふと過去の光景を思い出した。
 ライムント先生が豪華なドレスの美女をこっぴどく袖にしたときの事を。
 その時の事を思い出して背筋がヒュッと寒くなる私。

 腕を組んで何かを考えている様子の先生。

 私、誘ったみたいになってないよね? あの人みたいに「俺を誘う時間があるならその空っぽの頭に貴族の常識でも叩き込んでおけ!」って言われたら立ち直れないかも……。

 表情を固まらせて動きを止めた私だったが、先生は小さく頷いただけだった。
 
「そうか。俺はこの後研究室の珈琲を買いに行こうと思ってたんだが」

 私はほっと息を吐きだした。
 少なくとも怒鳴られたりはしないようだ。

「あ、でしたら私に珈琲豆をプレゼントさせてください。好みを教えていただけたら似たようなのを買ってきます」
「それには及ばない」

 私の提案はあっさりと断られたが、ライムント先生は少し言いづらそうに口を開いた。
 
「実は明日から教授が他大学の研究会に行く予定なんだが、その時に世話になる相手へ菓子を渡したいと言っていて。去年もあって、その時俺が選んだ物は『なんでもいいから』と言ってた割には戻ってきてからグチグチと言われてしまって」
「はぁ」
「だから菓子を一緒に選んでもらえないか? 渡す相手の教授も女性だから俺が選ぶより良いと思うんだ」

 田舎者の私が良いお菓子を選べるかな。
 少し不安だったけど、珍しく自信がなさそうな表情の先生を見ると、私でも役に立ちそうだと思えてきたのだ。
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