10 / 26
・行先はどこ?(2)
しおりを挟む
翌朝馬車が用意できたと聞いた私は、集合場所へ向かった。
「おはようございます」
溌溂と挨拶をしてきた男性は、黒髪にブラウンの瞳をした、ジュストと同じくらいの年齢の人だった。
しっかりと日焼けした肌ににやにや……じゃなくて、にこにこと笑顔を浮かべている。
「騎士のカルロです。馬車の運転は慣れてるから安心してください。それじゃあ道中よろしくお願いします」
妙にふわふわと笑っていて、ちょっとだけ気味悪くなったのは秘密だ。
お世話になるんだからフレンドリーにしないとね。
笑顔、笑顔よアリーチェ。
「おはようございます」
「おはようございます、今日からよろしくお願いしますね」
カーラの切れ長の知的な瞳が微笑みの形になると、彼はさらににやにや……にこにこと笑みを深めた。
カーラの顔もちょっと引きつっているように見える。
「あー。妙ににやにやしてる奴だけど怪しい奴じゃないから大丈夫だ。昨日隊に話したら、馬車の運転に使えって隊長からカルロを借りてきた」
「はい、怪しくないですよ。ちょっと笑顔なだけです」
「そう……よかったわ」
何を言えばいいかわからず、おざなりな返事をしてしまったがカルロは気にしていないようだ。
「いやー。嬉しいですねぇ、これから男爵夫人に会いに行くんでしょう? 楽しみだぁ」
鼻の下を伸ばしてだらしなくにやついている。
それが目的か……。
もしかして。
「あなたが噂を集めた人?」
「そうですよ、聖女様。いい噂たくさん集めるの大変だったんですからね」
「それは感謝しているわ。ありがとう」
「そうでしょう、そうでしょう」
「でも男爵夫人に会いに行かないわよ」
そう言うと、カルロは絶望したような顔になった。
「どうして!?」
「行くのは漁村だ。早く御者台に乗れよ」
ジュストが呆れ混じりの声でカルロを促す。
カーラは早々に相手をする気がなくなったのか、既に座席に座って私に手を伸ばしている。
「そんな、男爵夫人に会えると思ったからこっちに来たのに」
私はカーラ手を取り隣に乗り込む。
ジュストもカルロの背を押して無理やり御者台に座らせると、自分もその隣に腰を下ろした。
「早く操縦しろよ」
「お前なぁ、先輩に向かってその口ぶりはなんだ。お前だって男ならわかるだろ? 美人に会いたいよな?」
後ろから見ていると、まるでお酒に酔って後輩に絡むやっかいな先輩のように見える。
ジュストは嫌そうに顔を背けている。
「俺に聞くなよ」
「お前、お姉さんがいるから素直になれないのか?」
その姉さんことカーラは感情を削ぎ落したような目になってしまっている。
「早く出発してください。日が暮れてしまいます」
「はい、わかりました! お姉さん出発しますよ、しっかりつかまっててくださいね。ちなみに、俺につかまってくれてもいいですよ! なんて」
ゲラゲラと笑いながらようやく馬を走らせ始めた。
とうとうカーラが道端に落ちてるゴミを見るような目でカルロを見ている。
カーラは真面目だからこういう冗談が嫌いなのだ。あとうるさい人も。
でも私は「美人に会いたいよな?」と言ったカルロへの返事をジュストがしていないことが気になってしょうがなかった。
ジュストも美人に会いたいって思ってる?
……私も外見、悪くないと思うけどなぁ?
「おはようございます」
溌溂と挨拶をしてきた男性は、黒髪にブラウンの瞳をした、ジュストと同じくらいの年齢の人だった。
しっかりと日焼けした肌ににやにや……じゃなくて、にこにこと笑顔を浮かべている。
「騎士のカルロです。馬車の運転は慣れてるから安心してください。それじゃあ道中よろしくお願いします」
妙にふわふわと笑っていて、ちょっとだけ気味悪くなったのは秘密だ。
お世話になるんだからフレンドリーにしないとね。
笑顔、笑顔よアリーチェ。
「おはようございます」
「おはようございます、今日からよろしくお願いしますね」
カーラの切れ長の知的な瞳が微笑みの形になると、彼はさらににやにや……にこにこと笑みを深めた。
カーラの顔もちょっと引きつっているように見える。
「あー。妙ににやにやしてる奴だけど怪しい奴じゃないから大丈夫だ。昨日隊に話したら、馬車の運転に使えって隊長からカルロを借りてきた」
「はい、怪しくないですよ。ちょっと笑顔なだけです」
「そう……よかったわ」
何を言えばいいかわからず、おざなりな返事をしてしまったがカルロは気にしていないようだ。
「いやー。嬉しいですねぇ、これから男爵夫人に会いに行くんでしょう? 楽しみだぁ」
鼻の下を伸ばしてだらしなくにやついている。
それが目的か……。
もしかして。
「あなたが噂を集めた人?」
「そうですよ、聖女様。いい噂たくさん集めるの大変だったんですからね」
「それは感謝しているわ。ありがとう」
「そうでしょう、そうでしょう」
「でも男爵夫人に会いに行かないわよ」
そう言うと、カルロは絶望したような顔になった。
「どうして!?」
「行くのは漁村だ。早く御者台に乗れよ」
ジュストが呆れ混じりの声でカルロを促す。
カーラは早々に相手をする気がなくなったのか、既に座席に座って私に手を伸ばしている。
「そんな、男爵夫人に会えると思ったからこっちに来たのに」
私はカーラ手を取り隣に乗り込む。
ジュストもカルロの背を押して無理やり御者台に座らせると、自分もその隣に腰を下ろした。
「早く操縦しろよ」
「お前なぁ、先輩に向かってその口ぶりはなんだ。お前だって男ならわかるだろ? 美人に会いたいよな?」
後ろから見ていると、まるでお酒に酔って後輩に絡むやっかいな先輩のように見える。
ジュストは嫌そうに顔を背けている。
「俺に聞くなよ」
「お前、お姉さんがいるから素直になれないのか?」
その姉さんことカーラは感情を削ぎ落したような目になってしまっている。
「早く出発してください。日が暮れてしまいます」
「はい、わかりました! お姉さん出発しますよ、しっかりつかまっててくださいね。ちなみに、俺につかまってくれてもいいですよ! なんて」
ゲラゲラと笑いながらようやく馬を走らせ始めた。
とうとうカーラが道端に落ちてるゴミを見るような目でカルロを見ている。
カーラは真面目だからこういう冗談が嫌いなのだ。あとうるさい人も。
でも私は「美人に会いたいよな?」と言ったカルロへの返事をジュストがしていないことが気になってしょうがなかった。
ジュストも美人に会いたいって思ってる?
……私も外見、悪くないと思うけどなぁ?
13
お気に入りに追加
106
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります
みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」
私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。
聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?
私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。
だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。
こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。
私は誰にも愛されていないのだから。
なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。
灰色の魔女の死という、極上の舞台をー
氷の騎士は、還れなかったモブのリスを何度でも手中に落とす
みん
恋愛
【モブ】シリーズ③(本編完結済み)
R4.9.25☆お礼の気持ちを込めて、子達の話を投稿しています。4話程になると思います。良ければ、覗いてみて下さい。
“巻き込まれ召喚のモブの私だけが還れなかった件について”
“モブで薬師な魔法使いと、氷の騎士の物語”
に続く続編となります。
色々あって、無事にエディオルと結婚して幸せな日々をに送っていたハル。しかし、トラブル体質?なハルは健在だったようで──。
ハルだけではなく、パルヴァンや某国も絡んだトラブルに巻き込まれていく。
そして、そこで知った真実とは?
やっぱり、書き切れなかった話が書きたくてウズウズしたので、続編始めました。すみません。
相変わらずのゆるふわ設定なので、また、温かい目で見ていただけたら幸いです。
宜しくお願いします。
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
二度目の召喚なんて、聞いてません!
みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。
その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。
それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」
❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。
❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。
❋他視点の話があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる