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4.大変だけど幸せ
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翌日、店でパンの他にニシンのオイル漬けや燻製、日持ちしそうな果実と消耗品等必要そうな物を買い付ける。重い荷物は申し訳ないと思いつつもジュストに持ってもらった。
次の町へ出発する前に、運良く同じ方向へと向かう商隊がいたので一緒に同行させてもらう。
むこうも私たちが巡礼者で、騎士もいることから歓迎している様子だった。
ジュストの剣の腕前は、「一般人よりはましな程度です」とカーラは言うけれど、毎日こっそり鍛錬しているのを知っている。
きっと頼りになるはずだと私は思っている。
「修道女様方どうぞ、狭い荷台ですがよろしければお座りくださいませ」
「よろしいのですか? ありがとうございます」
エンリコさんという顎髭を蓄えた商隊の責任者が、微笑みを浮かべて誘ってくれた。
嫌味や裏表が感じられない人の良さそうな笑顔だ。
カーラを見ると頷いていたので、遠慮なく座らせてもらうことにした。
長い距離を歩いたことがなかった私は、連日の徒歩での移動で足が痛かったので助かった。
「こちらの方向ということは、聖地へ巡礼されるのですか?」
「はい。その予定です」
私が頷くと、エンリコさんは嬉しそうに微笑んだ。
どうやら熱心な女神様方の信仰者で、修道士やその関係者と話したかったらしい。さっそく先日聖都で聖女達を見たという話をしてくれた。
「まぁ、聖女様を……」
「ええ。私は遠くて姿はおぼろげでしたが、絵姿がありますからね。問題ありません」
「絵姿ですか⁉」
知らなかった。
私の顔を私が知らない人が持っているのか。考えただけで恐ろしい。
「ご覧になりますか?」
どうぞ、と言われて恐る恐る見ると、そこには聖女セレスと先代聖女リーベラ。それから幼い頃の私の姿が描かれていた。
どうやらエンリコさんは最近の絵姿は持っていないようだった。
ほっと胸を撫でおろしてカーラとジュストにも見せる。
小さな声でエンリコさんに聞こえないように「姿絵なんて出回ってたの知らなかったわ」と言うと、カーラが「一定金額以上の寄付で貰えるそうです」と答えてくれた。
ジュストはごまかすようにあさっての方向を見ているから、知っていたんだと思う。もしかして持ってる?
私はお礼を言って姿絵をエンリコさんに返した。
「お話は遠すぎて何をおっしゃっているか聞こえなかったのですがね、きっと美しいお声でお話になられたのだと思います。女神様からの御神託をいただけるだなんて、どのような徳を積めばそのような幸運に預かれるのでしょう。私もそのお声を聞いてみたいものです」
そう言うと、エンリコさんは短い祈りの言葉を捧げる。
その聖女のひとりが、ここにいますけどー。とは私も言えず、貼り付けたような笑顔を浮かべるのが精いっぱいだった。
ちらりとジュストを見ると、面白そうににやにやと笑っているのが目に入った。
私が困っているのが面白いらしい。意地悪じゃない?
「エンリコ様は旅をしていらっしゃるのですよね?」
気を取り直して私から質問してみることにした。
熱心な信徒なら何か気が付くこともあったかもしれない。
「ええ、そうですね。買い付けに各国巡ることもございます」
「いろいろな場所に行くのでしたら、どこかで聖女様のように女神様のお声を聞く力のある方と、お会いしたことはないのですか?」
今回はなかなか自然に聞けたんじゃない?
今までの失敗を糧に、少しは成長した自分を内心誇らしく思っているとエンリコさんは驚いたように声をあげた。
「まさか! そのようなお力があるのは聖女様だけですよ。仮にそのような事を言う人間がいたら、それはペテン師です。聖女様を騙る偽物です!」
目をギラギラと見開いてそう言い切られてしまった。
「そ、そうでしょうか……」
「ええ。女神様方を冒涜する行為です」
冒涜とまで言われてしまった。
じゃあ何の力もないのに聖女をしていて、女神の神託について嘘をついた私は死刑まっしぐらになってしまう。
見えないのに自分の頬が引きつってるのがわかる。
「あの、次の町で何か最近話題の場所や人などいますでしょうか? 私たちは聖都から離れるのは初めてなので」
言葉に詰まった私に代り、カーラが助け舟を出してくれた。
本当に頼りになるお姉さんだ。
「そうですね……」
エンリコさんは顎髭を触りながら、空を見上げた。
空は青いけれど、遠くの山に雲がかかっているのが見えた。
「今時期でしたら大道芸人が来ていると思いますよ。広場で芸をみせていますから、皆さまも気にせず見られると思いますよ」
「大道芸人なんて楽しそうですね」
カーラが微笑みながら相槌を打つ。
「ええ。他には火を噴く人間もいるとか」
「人間が火を噴くのですか⁉」
「ああ、芸ですよ。私は仕組みはわかりませんけれどね」
鷹揚に笑いながら教えてくれたエンリコさんに私は微笑みながらも、心の中ではやっぱり手がかりを見つけるのって難しい。とこっそりため息を吐いたのだった。
次の町へ出発する前に、運良く同じ方向へと向かう商隊がいたので一緒に同行させてもらう。
むこうも私たちが巡礼者で、騎士もいることから歓迎している様子だった。
ジュストの剣の腕前は、「一般人よりはましな程度です」とカーラは言うけれど、毎日こっそり鍛錬しているのを知っている。
きっと頼りになるはずだと私は思っている。
「修道女様方どうぞ、狭い荷台ですがよろしければお座りくださいませ」
「よろしいのですか? ありがとうございます」
エンリコさんという顎髭を蓄えた商隊の責任者が、微笑みを浮かべて誘ってくれた。
嫌味や裏表が感じられない人の良さそうな笑顔だ。
カーラを見ると頷いていたので、遠慮なく座らせてもらうことにした。
長い距離を歩いたことがなかった私は、連日の徒歩での移動で足が痛かったので助かった。
「こちらの方向ということは、聖地へ巡礼されるのですか?」
「はい。その予定です」
私が頷くと、エンリコさんは嬉しそうに微笑んだ。
どうやら熱心な女神様方の信仰者で、修道士やその関係者と話したかったらしい。さっそく先日聖都で聖女達を見たという話をしてくれた。
「まぁ、聖女様を……」
「ええ。私は遠くて姿はおぼろげでしたが、絵姿がありますからね。問題ありません」
「絵姿ですか⁉」
知らなかった。
私の顔を私が知らない人が持っているのか。考えただけで恐ろしい。
「ご覧になりますか?」
どうぞ、と言われて恐る恐る見ると、そこには聖女セレスと先代聖女リーベラ。それから幼い頃の私の姿が描かれていた。
どうやらエンリコさんは最近の絵姿は持っていないようだった。
ほっと胸を撫でおろしてカーラとジュストにも見せる。
小さな声でエンリコさんに聞こえないように「姿絵なんて出回ってたの知らなかったわ」と言うと、カーラが「一定金額以上の寄付で貰えるそうです」と答えてくれた。
ジュストはごまかすようにあさっての方向を見ているから、知っていたんだと思う。もしかして持ってる?
私はお礼を言って姿絵をエンリコさんに返した。
「お話は遠すぎて何をおっしゃっているか聞こえなかったのですがね、きっと美しいお声でお話になられたのだと思います。女神様からの御神託をいただけるだなんて、どのような徳を積めばそのような幸運に預かれるのでしょう。私もそのお声を聞いてみたいものです」
そう言うと、エンリコさんは短い祈りの言葉を捧げる。
その聖女のひとりが、ここにいますけどー。とは私も言えず、貼り付けたような笑顔を浮かべるのが精いっぱいだった。
ちらりとジュストを見ると、面白そうににやにやと笑っているのが目に入った。
私が困っているのが面白いらしい。意地悪じゃない?
「エンリコ様は旅をしていらっしゃるのですよね?」
気を取り直して私から質問してみることにした。
熱心な信徒なら何か気が付くこともあったかもしれない。
「ええ、そうですね。買い付けに各国巡ることもございます」
「いろいろな場所に行くのでしたら、どこかで聖女様のように女神様のお声を聞く力のある方と、お会いしたことはないのですか?」
今回はなかなか自然に聞けたんじゃない?
今までの失敗を糧に、少しは成長した自分を内心誇らしく思っているとエンリコさんは驚いたように声をあげた。
「まさか! そのようなお力があるのは聖女様だけですよ。仮にそのような事を言う人間がいたら、それはペテン師です。聖女様を騙る偽物です!」
目をギラギラと見開いてそう言い切られてしまった。
「そ、そうでしょうか……」
「ええ。女神様方を冒涜する行為です」
冒涜とまで言われてしまった。
じゃあ何の力もないのに聖女をしていて、女神の神託について嘘をついた私は死刑まっしぐらになってしまう。
見えないのに自分の頬が引きつってるのがわかる。
「あの、次の町で何か最近話題の場所や人などいますでしょうか? 私たちは聖都から離れるのは初めてなので」
言葉に詰まった私に代り、カーラが助け舟を出してくれた。
本当に頼りになるお姉さんだ。
「そうですね……」
エンリコさんは顎髭を触りながら、空を見上げた。
空は青いけれど、遠くの山に雲がかかっているのが見えた。
「今時期でしたら大道芸人が来ていると思いますよ。広場で芸をみせていますから、皆さまも気にせず見られると思いますよ」
「大道芸人なんて楽しそうですね」
カーラが微笑みながら相槌を打つ。
「ええ。他には火を噴く人間もいるとか」
「人間が火を噴くのですか⁉」
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