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エピローグ

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 ソフィアは光がたっぷりと降り注ぐ温室で本を読んでいた。
 
 温室には薔薇や菫等の花の他に、ルーカスが研究している野菜等も植えられている。
 昔ダンスをしながら教えてくれた「農作業をしている」というのも嘘ではなく、貴族としては珍しく本当に農民たちと一緒に作業をしていることもあった。
 初めて堆肥の匂いを身にまとって泥だらけで館に帰って来たときは、ソフィアも度肝をぬかれたものだ。
 今はもう見慣れた景色になったし、ソフィアもたまにルーカスについて街に降りて行くようになった。
 そこでルーカスの慕われている様子を見て、ソフィアも嬉しい気持ちになるのだった。
 
 ソフィアは温室の暖かく、甘い香りがする空気を胸いっぱいに吸い込むと、傍らのベビーベッドを揺らして様子を覗きこんだ。

 黒い髪と緑の瞳を持つ赤子が機嫌良さそうに笑っていた。
 ルーカスの色をそっくりそのまま受け継いだ子だった。
 
 燦々と降り注ぐ陽光を、父親譲りの黒髪が反射して天使の輪を作っている。
 ソフィアはこの子に羽が生えていないことが不思議に思うほど可愛らしい赤ん坊だと思った。

「あら、お昼寝から目覚めたのかしら?」

 ソフィアは人差し指で赤子の頬をくすぐると、赤子はさらに大きな声で笑い声をあげた。
 
 ベビーベッドから赤ん坊を優しく持ち上げて、こっそりと赤子の背中を撫でる。本当に羽が生えていないことを確認してほっと息を吐きだす。
 乳児特有の甘くて柔らかい香りが鼻孔をくすぐる。
 その香りをかぎながらソフィアは自分の幸せの重みをかみしめていた。
 
「お腹すいた? おしめは大丈夫かしらね。それなら……」
 
 ソフィアは赤ん坊を膝の上に座らせると、傍らによけていた本を手に取った。

「一緒に本でも読みましょうか。これはね、ひとりの男爵令嬢が真実の愛を求めるお話よ。男の子のあなたにはちょっと甘すぎるお話かもしれないわね」

 赤ん坊は大きな目をぱちりと見開いて、もごもごと言葉らしきものを話している。
 ソフィアはパッと表情を明るくすると喜んだ。
 
「あら、もしかしてもう読めるの? 天才かもしれないわね」

 クスクスと笑いながら親ばかね、と言って微笑む。
 
「あなたはどんなお話が好きかしら? 騎士のお話? それともドラゴンで冒険するお話かしら? 大きくなったら私に教えてね」

 そう言って、ソフィアは赤子の柔らかな頬に唇を寄せたのだった。


 END
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