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11.著作権?
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ソフィアと義父はシヴィル伯爵家のガーデンパーティーに出席していた。
ここ数日は雨もなくカラリとした天気だった。
空は青く、芝生も湿っておらずソフィアは密かにドレスに汚れが付かないことに感謝していた。
初夏のガーデンパーティーはこの時期しか見られないような、色とりどりの花がふんだんに用意されていて、華やかな雰囲気を醸し出している。
パーティーの端の方では楽団が音楽を奏でていて、優雅さを演出していた。
手を取り踊り出す人はいないけれど、女性は意中の男性に話しかけられるのを待っているようだったし、男性の方も素敵な女性を探すのに忙しいようだった。ソフィアは、これは舞踏会でもガーデンパーティーでも変わらないのだなと心の中で思った。
今日ソフィアは付き添いとしてでなく、正式に出席をしている。
ルーカスからは自分も出席するので、フローラの付き添いはいらないと断られたからだ。
フローラとルーカスも来ると聞いていたが、まだ来ていないようだった。
交流してみて知ったけれど、ルーカスはあまり社交を楽しんでいないようだった。それよりは、領地に引きこもって過ごしたいと考えている様子にみえた。
彼の、人嫌いの噂はそこからも来ているのだろうなと感じた。
「ソフィー」
華やかな声に振り向くと、シエナが夫と共にこちらへ向かってきている。
明るいクリーム色のドレスに身を包み、同じ色の帽子を被っている。
手には日傘をさしていて、反対側の手は夫の腕に添えられている。
義父と共に丁寧に挨拶を交わすと、早速シエナはソフィアを散策へ連れ出した。
「早速だけど、2つ話したいことがあるの。いいことと悪いことよ」
「なぁに、それ。まるで劇の台詞回しみたいな言い方ね」
「わかる? 昨日見に行った劇が素敵だったから、真似したの」
シエナはにこにこと陽気な様子で笑った。
「それから2つじゃなくて3つあるわ。良いことと悪いことと、普通のことよ」
「……普通のことから聞こうかしら」
「普通の事は、出版のことよ。夫の弟が法律家だって言ってたでしょ?それで聞いてもらったんだけど、出版は持ち込みも受け付けているらしいわ。でもね、出版社も確実に売れるものを出したいから、持ち込みしても出してもらえるかわからないそうよ。その場合は、自費出版って手もあるそうだけど……」
これくらい。と言われた金額を聞いて、ソフィアは小さく悲鳴をあげた。
「無理だわ」
「そうよねぇ」
「でも話は面白いわ。女性はきっと夢中になるんじゃないかしら?」
「ソフィー、私もそう思う。でも、女性が購買層だと言ったら渋られたようなの。厚い本は売れないって言われたそうよ……」
不愉快な気持ちが湧き上がったけれど、売れない本を売りたくない出版社の事情もわかる。
「それからね、私よくわからなかったんだけど、作者には権利があって勝手に翻訳出版してはいけないらしいわ」
「作者に許可を取るってこと? それなら本の感想と一緒に翻訳したものを出版したいってお願いのお手紙を書いて送ってるわ」
「素敵な行動力ね。でもね、そういう事じゃないみたい。なんだったっけ? 著作権って言ってたと思うわ」
シエナは記憶を手繰るように、こめかみを指先でトントンと叩いた。
「作者は書籍出版組合と契約しているはずだって。そこから売り上げか、もし寄稿料をもらっているのだけど、こちらでそこを通さずに出版すると印刷業者が起訴される可能性があるそうなの。私もさらっと聞いただけだから、これ以上詳しくは専門家に聞かないとわからないわ」
「そうなのね。全然知らなかったわ……」
なんだか難しくて考えることが多すぎる気がした。私にできるだろうか?不安になりソフィアは小さくため息を吐いた。
そんなソフィアを勇気づけるように、シエナは殊更明るく言った。
「まだ2つ分かっただけよ。厚い本は売れにくいってこと、著作権があるってこと! それ以外はまだ何も決まってないわ。ソフィー、方法は探せばあると思うから諦めないで見つけましょう」
ソフィアはシエナの前向きな発言と考え方に、感嘆の念を抱かずにはいられなかった。
「シエナ、あなたってすごいわ。あなたの言葉を聞いていると、いつか出版にたどり着けるんじゃないかなって気持ちになる」
「ソフィーは少し考えすぎるきらいがあるわね。慎重なのは良い事だけどたまにはもっと簡単に考えた方が良い事があるかもしれないわよ」
必要以上に落ち込みすぎる、自分への励ましにソフィアは緩く微笑んだ。
「それから、家庭教師の紹介先が見つかりそうよ」
「家庭教師?」
「ええ。お友達のご婦人に4人目のお子様ができたそうなの。4人も子どもがいるなら家庭教師も1人じゃ足りないかもしれないでしょう? 必要になったら声をかけてってお願いしておいたわ。これが良い事ね」
家庭教師! そういえばシエナに頼んでいたのだった。
忘れていたわけではなかったけれど、最近いろいろなことがありすぎて……忘れていた。
ソフィアは返事が遅れたことのごまかしのために咳払いをすると、意識して口元に笑みを浮かべた。
「まぁ! 見つかって嬉しいわ。シエナありがとう」
「なんなら私の子が大きくなったら家庭教師をしてもらってもいいのよ?」
「ええ。ありがとう」
ソフィーの返事を確認すると、シエナは真面目な表情になった。おもむろにソフィーの腕を組むと、距離をつめる。近い距離に驚く間もなく、シエナは声を潜めてすばやく言った。
「それから最近フォルス男爵の後継を名乗る男性がパーティーに出ているらしいわ」
「なんですって⁉」
「噂だけれど。夫が紳士クラブで小耳に挟んだらしいの。新しい貴族の人たちに伝手があるのかもしれないわ」
「そんな……」
「とにかく気を付けてね」
シエナは真剣な顔をしてソフィアに言い聞かせた。
ここ数日は雨もなくカラリとした天気だった。
空は青く、芝生も湿っておらずソフィアは密かにドレスに汚れが付かないことに感謝していた。
初夏のガーデンパーティーはこの時期しか見られないような、色とりどりの花がふんだんに用意されていて、華やかな雰囲気を醸し出している。
パーティーの端の方では楽団が音楽を奏でていて、優雅さを演出していた。
手を取り踊り出す人はいないけれど、女性は意中の男性に話しかけられるのを待っているようだったし、男性の方も素敵な女性を探すのに忙しいようだった。ソフィアは、これは舞踏会でもガーデンパーティーでも変わらないのだなと心の中で思った。
今日ソフィアは付き添いとしてでなく、正式に出席をしている。
ルーカスからは自分も出席するので、フローラの付き添いはいらないと断られたからだ。
フローラとルーカスも来ると聞いていたが、まだ来ていないようだった。
交流してみて知ったけれど、ルーカスはあまり社交を楽しんでいないようだった。それよりは、領地に引きこもって過ごしたいと考えている様子にみえた。
彼の、人嫌いの噂はそこからも来ているのだろうなと感じた。
「ソフィー」
華やかな声に振り向くと、シエナが夫と共にこちらへ向かってきている。
明るいクリーム色のドレスに身を包み、同じ色の帽子を被っている。
手には日傘をさしていて、反対側の手は夫の腕に添えられている。
義父と共に丁寧に挨拶を交わすと、早速シエナはソフィアを散策へ連れ出した。
「早速だけど、2つ話したいことがあるの。いいことと悪いことよ」
「なぁに、それ。まるで劇の台詞回しみたいな言い方ね」
「わかる? 昨日見に行った劇が素敵だったから、真似したの」
シエナはにこにこと陽気な様子で笑った。
「それから2つじゃなくて3つあるわ。良いことと悪いことと、普通のことよ」
「……普通のことから聞こうかしら」
「普通の事は、出版のことよ。夫の弟が法律家だって言ってたでしょ?それで聞いてもらったんだけど、出版は持ち込みも受け付けているらしいわ。でもね、出版社も確実に売れるものを出したいから、持ち込みしても出してもらえるかわからないそうよ。その場合は、自費出版って手もあるそうだけど……」
これくらい。と言われた金額を聞いて、ソフィアは小さく悲鳴をあげた。
「無理だわ」
「そうよねぇ」
「でも話は面白いわ。女性はきっと夢中になるんじゃないかしら?」
「ソフィー、私もそう思う。でも、女性が購買層だと言ったら渋られたようなの。厚い本は売れないって言われたそうよ……」
不愉快な気持ちが湧き上がったけれど、売れない本を売りたくない出版社の事情もわかる。
「それからね、私よくわからなかったんだけど、作者には権利があって勝手に翻訳出版してはいけないらしいわ」
「作者に許可を取るってこと? それなら本の感想と一緒に翻訳したものを出版したいってお願いのお手紙を書いて送ってるわ」
「素敵な行動力ね。でもね、そういう事じゃないみたい。なんだったっけ? 著作権って言ってたと思うわ」
シエナは記憶を手繰るように、こめかみを指先でトントンと叩いた。
「作者は書籍出版組合と契約しているはずだって。そこから売り上げか、もし寄稿料をもらっているのだけど、こちらでそこを通さずに出版すると印刷業者が起訴される可能性があるそうなの。私もさらっと聞いただけだから、これ以上詳しくは専門家に聞かないとわからないわ」
「そうなのね。全然知らなかったわ……」
なんだか難しくて考えることが多すぎる気がした。私にできるだろうか?不安になりソフィアは小さくため息を吐いた。
そんなソフィアを勇気づけるように、シエナは殊更明るく言った。
「まだ2つ分かっただけよ。厚い本は売れにくいってこと、著作権があるってこと! それ以外はまだ何も決まってないわ。ソフィー、方法は探せばあると思うから諦めないで見つけましょう」
ソフィアはシエナの前向きな発言と考え方に、感嘆の念を抱かずにはいられなかった。
「シエナ、あなたってすごいわ。あなたの言葉を聞いていると、いつか出版にたどり着けるんじゃないかなって気持ちになる」
「ソフィーは少し考えすぎるきらいがあるわね。慎重なのは良い事だけどたまにはもっと簡単に考えた方が良い事があるかもしれないわよ」
必要以上に落ち込みすぎる、自分への励ましにソフィアは緩く微笑んだ。
「それから、家庭教師の紹介先が見つかりそうよ」
「家庭教師?」
「ええ。お友達のご婦人に4人目のお子様ができたそうなの。4人も子どもがいるなら家庭教師も1人じゃ足りないかもしれないでしょう? 必要になったら声をかけてってお願いしておいたわ。これが良い事ね」
家庭教師! そういえばシエナに頼んでいたのだった。
忘れていたわけではなかったけれど、最近いろいろなことがありすぎて……忘れていた。
ソフィアは返事が遅れたことのごまかしのために咳払いをすると、意識して口元に笑みを浮かべた。
「まぁ! 見つかって嬉しいわ。シエナありがとう」
「なんなら私の子が大きくなったら家庭教師をしてもらってもいいのよ?」
「ええ。ありがとう」
ソフィーの返事を確認すると、シエナは真面目な表情になった。おもむろにソフィーの腕を組むと、距離をつめる。近い距離に驚く間もなく、シエナは声を潜めてすばやく言った。
「それから最近フォルス男爵の後継を名乗る男性がパーティーに出ているらしいわ」
「なんですって⁉」
「噂だけれど。夫が紳士クラブで小耳に挟んだらしいの。新しい貴族の人たちに伝手があるのかもしれないわ」
「そんな……」
「とにかく気を付けてね」
シエナは真剣な顔をしてソフィアに言い聞かせた。
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