僕を貴方の傍において~ティーカップの妖精の恋~〖完結〗

カシューナッツ

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幼い少年との別れ〖第50話〗

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『ふかやま、さん……?』

「気がついたか?私が解るか?」

少女は微笑み二回頷いた。少女は深山の膝でぼんやりと仰向けで暫く空を見ていた。少女はまだ、微睡みの中にいるような感じだった。

少女は残照に左手をかざす。

『………ふかやまさん、指輪、きれい。ありがとう。嬉しい。『わたし』と同じ石。龍は格好よくてください、強いんでしょう?早く描いてください。ふかやまさん』

「ああ、描くよ。いくらでも描いてあげるよ。アレク………すまなかった。アレク、私はずっと、君を君じゃないもう一人の君に重ねて、苦しめた。君は『アレク』だ。私の大切なアレクだよ。指輪も似合っているよ」

少女は深山を抱きしめる。暫くし、少女は腕を解き、砂浜に座り込み、うなだれる深山を支える砂にまみれた片手に、そっと片手を重ねた。

『ありがとう、ふかやまさん。わたし、いま一番しあわせです………ふかやまさん。元気で。ふかやまさん、しあわせに、なって………』

 深山は少女を見つめた。少女は儚げに笑いながら深山の頬に軽く身体を起こし口づけた。

そっと触れるだけの口づけだった。消え入るような声で、

『さよなら。ふかやまさん。わたし、ずっと、ふかやまさんが好きでした………ああ、やっと言えた………』

すっと眠りに落ちるように、少女の碧い瞳が閉じられ、くたりと脱力する。

「アレク?アレク!待ってくれ、まだ君に、言っていないことがあるんだ!」

    アレク。私は君も愛していたよ。今まで、すまなかった。君も私にとって大切な『アレク』だったんだ、と深山は意識を再び失った少女に泣きながら語りかけた。けれど、涙が邪魔をして声にならない。
    
 辺りが段々薄暗くなって行く。ずっと深山は少女を呼び続け続けた。近づく闇が、眠ってしまった少女に忍び寄り拐って行ってしまいそうな恐怖に襲われた。

「アレク。目を覚ましてくれ。頼む、頼むから………」

抱きしめる深山の腕の中でうたた寝から目覚めたように、ぼんやりとした瞳で少女は深山を瞳を開け深山を見つめる。

「目が覚めたのか?私が誰か解るか?意識は、はっきりしているか?」

少女顔つきが、変わる。あどけなさを残すあの幼い『アレク』の顔はもうなく、柔和な包み込むような、あの『アレク』の顔。

    少年は「アレクなのか?」という、深山の問いかけに何度も頷き、深山にしがみついて、肩を震わせた。深山は、ただ、抱きしめる腕に力を込めた。

暫くそうしていた。少女の柔らかな金の髪に顔を埋める。甘い匂い。少女の、あの『アレク』の匂い。幸せな匂い。そして、それと同時に失ってしまった、小さなあたたかなもの。

「君が居ない間、もう一人の小さな君がいたんだ……あの小さな君の気配が、消えてしまった。もう、何処にもない………あの子のことも私は好きだった。君とは違う感情で。……優しい子だった。とても、優しい子だったんだ。私はあの子を困らせて、悲しませてばかりだった」

「知っています。ずっと小さな私が出てくる夢のようなものを見ていました」

少女は穏やかな口調で、深山の手を握り、顔をあげ言った。

『ふかやまさん。小さな私がふかやまさんと見るのを楽しみにしていた、宵の月がもうすぐ昇ります。………あの子のために見て。描いてあげてください』

「ああ………。昇る月を描いたら、また海に来よう。夜明けに来たい。昇る朝日を描きたいんだ。二つの絵が揃えば………あの子も、寂しくないだろう」

深山は、口にした言葉に、あの子を思い出す。

『ふかやまさん!』といつも、切なさも、悲しさも、人懐っこい明るい声に隠して笑う幼い彼の影。私はあの子に幸せをあげられただろうか?

 
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