僕を貴方の傍において~ティーカップの妖精の恋~〖完結〗

カシューナッツ

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初めてのデート〖第23話〗

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『僕の記憶が抜け落ちた時間が、紅い瞳の僕の時間と言うことですか。妖艶な僕って、ふかやまさんは、紅い瞳の僕の方が、好きなんですか?』

 深山は少年の言葉に微笑んだ。

「もし、そうだったらランプシェードを主電源から抜いたりしない。私は『君』が好きなんだよ。だから、もう二度と自分の事を『使用人』だなんて言わないでくれ。今度近いうちに二人で出かけよう。『デート』だ。行き先が眼科とは味気ないが。帰り、ゆっくり散歩でもしよう」

『デート、ですか。嬉しいです。ふかやまさんと色んな物を一緒に見たい。とっても待ち遠しいです。早く行きたい。ふかやまさん、もうお休みになられるのですか?』

「少しだけ。夕食は取る。君の料理はとても美味しいよ。いつも楽しみにしてるんだ。ありがとう。ところでだが、君の寝姿を見たことはほとんど見ないが、君は寝なくて大丈夫なのか?」

『大丈夫です。意識を失うなんて昨日が初めてで。あの……少しこのままで良いですか?夕御飯は、今日は庭でとった茗荷を使ったお素麺と、茄子の揚げ浸しの予定です。ふかやまさん、好きでしょう?夕御飯の二十分前くらいには起こしますから』

 ゆっくり休んでください。小さく少年は言った。口づけ合い、深山は、少年に腕を絡ませ眠る。いつもは広いベッドが、窮屈で心地良い。幸せだが、少し怖かった。

    不意に『満月は怖いです』と前に少年が言った言葉を思い出す。『満ちたものは、欠けるだけですから』と切なげに笑う少年は何より儚かった。

「アレク」
    
 そう呼ぶと少年は穏やかに微笑み

『何ですか?』
    
 と言った。深山は少年を抱きしめ、その甘い匂いのする細い首筋に顔を埋める。

「………君の孤独には及ばないが、私の孤独を救ったのは君だよ、アレク………君に出会えて、良かった」

─────────────

 ティーカップをクッション性のある化学繊維で包み、籠に入れ、箱に入れ、バッグにつめた。少年は照れ臭そうに笑い、深山の袖を掴む。

『頂いた服を着てみました。どうですか?』

    いつものふわりとしたシャツと黒のズボンではなく、深山がインターネットでつい買った少年の服。白のシャツにグレーの薄地の、細い紺色の縦縞が入り、麻が混じって入ったズボン。喜んでくれるか不安だったが杞憂だった。少年は何回も姿見の鏡を見つめ、すました顔や、照れ臭そうな顔を繰り返していた。

「清潔感があって、涼しげだ。素敵だよ」

『ふかやまさんも、とても素敵です。デート、ですよね?僕、初めてです』

    少年は深山を見上げ、恥ずかしそうに笑って、右腕にしがみついた。

    深山は一応お洒落をした。
夏用三揃えのスーツ、淡い水色のシャツ。
青に少しだけグリーンを足したようなネクタイ。久々につける、父から二十歳の時に譲られたクラシックなブランドの腕時計。
靴は古くから使っている、手入れの行き届いた黒い革製の物だ。
歩きやすく深山の足を痛ませることはない。眼鏡もかける。
視力もそうだが、紫外線カットになっている。髪も櫛をきちんと通した。
    
 街を歩く。通り過ぎるひとが必ず振り返る。少年に見惚れ、目を合わそうとしているようだった。
 少年は深山のスーツの裾を掴み、少し緊張しながらも楽しそうに辺りを見渡しながら深山を見上げる。

「楽しいか?アレク」

『はい。ふかやまさんと、こうしていられて、とても楽しいです。不思議な建物ばかり』

 出会った頃は、窓ガラスに映らなかった。しかし今の少年はきちんと他人に映る。思い当たるのは、指輪だった。深山は、指輪と同じ石を施されたカップに通じ合うものを感じたのかと思った。
 
 こういった日に限って暑さがシーズンで一番だったりする。頭からじりじりと陽に照らされ眩暈がした。深山は普段あまり汗をかかないが、こめかみから、すっと汗が伝う。

 信号待ち、街路樹の影がありがたかった。欅の緑は黒に近いほど光合成を重ねている。蝉は鳴くことが仕事のように鳴いていた。限られた時間の中で伴侶を見つけるのだから仕方がない。

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