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たいせつなひと〖第13話〗
しおりを挟む下を向いて泣き続ける少年に肩を貸し、金色の髪を優しく撫でた。初めて触れる少年の髪は柔らかくいつまでも触れていたい気持ちにさせた。
「私は君と居ると苦しいんだ。私の最後の我儘だ。きいてくれるね?君は泣き虫だな。あの日も、泣いていたね。初めて君が淹れたミルクティーを飲んだ日だ。次の日も。本当は君の剥いた林檎は嬉しかったよ。私は愛想なく君にティッシュを差し出したんだったな。懐かしいよ。月日が経つのは早いな。さよならだ。私は君に幸せをあげられなかったな」
少年を、見つめる。深山と目が合うと長い睫毛にまでびっしり涙を貯め、少年は倒れ込むように深山にしがみつき、子供のように泣きじゃくり、涙声で、縋るように訴えた。
『僕、マスターの傍に居ます。ずっと傍に居ます!マスターは、僕のことが嫌になったんですか?役立たずで、仕事が遅いからですか?僕はふかやまさんがいい!傍に、傍にいさせてもらうだけで良いんです。契約を解消されても、ずっと、ふかやまさんの傍にいます。ぼ、僕、ふかやまさんからしたら、ただの、ティーカップだけど、こんなの変かもしれないけど、僕は、ふ、ふかやまさんが好きです。ふかやまさん、お願いします、悪いところは全部、全部直します。だから、傍にいさせてください。お願いします。お願い……』
全身で悲しいと訴え、縋るようにしがみついて泣きじゃくる少年を、深山は恐る恐る抱きしめた。
少年の背中には温度があった。深山にしがみついた手は熱く、身体から立ちのぼった甘い匂いは、いつも深山が頼むミルクティーより柔らかく、より甘い匂いがした。そして少年の口から耳を疑う言葉。『ただ好きだ』という素直な感情。
伝えてもいいだろうか。自分の想いを。弱さを。この少年を想って、苦しんできた月日は長く苦しいものだった。今、自分自身に嘘をつき、無かったことにしたら、永遠にこの少年を失う。そんな気がした。少年が必死の思いで口にした『好き』という言葉の先は『マスター』ではなかった。少年が見ているのは『ふかやまさん』だった。
「君に泣かれると、つらい。だから泣かないで欲しい。君が、好きだ。本当は君を何処にもやりたくなんかない。傍にいて欲しい。ずっと………ずっと、君が好きだった……」
少年は深山の胸の中から見上げるように深山を見た。
『ふかやまさん……ふかやまさんが好きです。ずっと好きです。ふかやまさん、でも、どうして、僕をす、好きなら、よそにやるなんて思ったんですか?それに、何故、僕と居ると苦しいんですか?』
「知りたいか?」
濡れた碧い瞳が深山を見つめる。つやつやと光る宝石の瞳に深山は目を奪われる。深山は隣に控えめに座る少年の右頬を左手で包むようにし、親指で潤んだ目許を拭う。
長い睫毛と金色の髪が、眩しい月を反射して控えめに光る様子は美しかった。
深山は、そっと少年の綺麗な額に口づける。少年が軽く震えた。深山は優しく少年の震える手に右手を添える。左手で少年の頬をくるむ。口唇を離すと少年は、深山の頬をくるむ左手に自らの手を添えて、深山を見つめた。碧い瞳が、綺麗だ。
「君は『マスター』である私を求めているのであって、私自身を必要としているのではないと思っていた。好きだから………君を好きだから、苦しかった」
『僕も、苦しかったです。気持ちを伝えたら「ティーカップのくせに」って言われたら、もうここには居られなくなると思って、言えませんでした。それに、ここずっと、ふかやまさんは寂しそうで、悲しそうで……僕を見るともっと悲しそうな顔をして……嫌われてしまったのかと、思って……。『マスター』と呼ばないと、振り向いてもらえないような気がして、怖かったんです』
深山は少年の添えられた手を掴み、白い線の細い指に口づけ、手首を引いた。少年は深山の胸に収まり、そのまま深山は少年を強く抱きしめた。
温かい、細い身体。離したくない。ずっとこのままでいたい。少年は深山に身体を預け、深山の胸元に顔を埋めた。
「私は……君が好きだよ、アレク。何よりも大切に想っているよ」
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