僕を貴方の傍において~ティーカップの妖精の恋~〖完結〗

カシューナッツ

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深山の手のぬくもり〖第3話〗

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『前々から疲れやすいと思っていたが、どうやら精神的に弱っているらしい。奇妙な白昼夢を見た』

そう、自分を納得させた。
昼に食べたサンドイッチも、何故か今日に限って胃もたれして、夕飯を作る気がおきなかった。

深山は半ば無理やり寝てしまおうとベッドにもぐる。遮光カーテンの隙間から見える空を焦がすような夕焼けが嫌だった。

起きるとしたら、何時になるだろう。夜11時頃か?深山はぼんやりと目を瞑る。

深山には時計のサイクルがない。陽の光の下での生活をやめて、もうどのくらい経つだろうか。そしてこんな自分を深山は、嫌いだ。



 『ご主人様があんなに怒るなんて、初めて見たわ。そう言えば八年前の今日だったわね。あの火事』

『そうそう。私たちはすぐに助けてもらったけど、ご主人様が、お父様とお母様の写真とお母様の形見の指輪を取りに戻られて………』

『あの頃からね。外にあまり出られなくなったの。私たちからみれば全く火傷の痕なんて気にならないのに』

『婚約者が全部悪いわ!コロッと寝返ってご主人様と婚約解消するなんて』

『あら、火傷を見て嫌な顔をするくらいの婚約者なんて最初から要らないわよ。視力は、火傷のせいなのかしら、それとも心因性なのかしら……』

『あ、あの……僕にも話を聞かせて下さい』

『あんた!新入りね!ご主人様をあんなに怒らせて、つらいこと思い出させるなんて、あんたなんて割れちゃえばいいんだわ!』

『そうよ!火傷を負う前は明るくて、穏やかで、幸せそうで……』

『あ、あんなつらそうな顔をさせるつもりじゃ……。僕は何処へ行っても贋物扱いされて、その上邪魔者だった。解る?誰にも信じてもらえない、贋物って決めつけられる気持ち!どうせ『特別な手』のマスターでも同じだって、このまま放っておかれるって、そう思ってたんだ!みんな僕を捨てていく。誰も信じたくなくなるよ!』

『少し、解るわ……。私は前の持ち主に飽きられたの。埃をかぶっていたところをご主人様に助けてもらったわ。最初、ご主人様に触られても知らんぷりしてた。でも、埃をはらわれて「お前は綺麗だね。家に来るのは嫌かい?」って訊かれたとき泣いちゃった……ご主人様は、普通の持ち主と違ったでしょ?』

『……マスターは、ひどいことを言ったのに、僕を洗ってくれた。埃まみれなのは僕だよ。解ってるんだ。マスターに、嫌われたくないよ。今更だけど……。で、でも僕は、目のことも、手と顔の火傷のことも知らなかった!本当だよ!傷つけるつもりじゃなかったんだ!』

『……結果論じゃよ。意図しなくても君はご主人様を傷つけた。思い出したくないことを思い出させた。馬鹿にされたと思わせた。そこでじゃ、ご主人様は孤独だ。君は『力』が強い。わし達を代表して、ご主人様を癒してやって欲しいんだが、如何か。それが君の責任の取り方にもなるのでは?』

『でも、僕は嫌われました。しゃ、喋るなって。きっと、きっと、捨てられる』

『あんたって馬鹿ねぇ』

『ぼ、僕は馬鹿じゃない!』

『はいはい。冷静になりなさいよ。あんたを捨てるつもりなら、ご主人様は爪楊枝と綿棒まで使って綺麗にしたりしないわよ』

『……じゃあ、きっと売るからだよ。マスターもきっと僕を売るんだ……僕は何処でもそうだった。あんなこと言って、マスターは怒ってる。きっと許してくれない』

『ふんっ!生意気な口をきいたからだわ』

『……そうだね。でも、マスターに丁寧に洗ってもらって……僕、幸せだった。大きな手に包まれて、心地よくて、ずっとこのままでいたいと思った。今まで生きてきて、一番幸せだった。あんなに優しくて温かい人なんて知らなかった……。マスターに謝りたい。謝りたいよ。マスターのあの手が恋しいよ。もう一度触れて欲しいよ』

ごめんなさい。マスター、ごめんなさい……。ポロポロ泣くようにティーカップから雫が伝った。
 
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