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君の隣、いい?寂しいんだ《エピローグ》ラスト
しおりを挟む凛太郎は、君のせいじゃない、そう言った。それから一年、自分がどうやって生きてきたか憶えてない。
きっと凛太郎、君は優しいから俺が耐えられないと思ったんだろう?
でも、凛太郎、つらかったんだよな。
一周忌、凛太郎の家へ行った。寂しいものだった。
不自然に、凛太郎のことを凛太郎の『存在』を無かったことにしているように感じた。
あの日帰ってきてから、見合いの話と凛太郎の性癖のことを家族で話で喧嘩したと訊いた。
普段逆らったことのない凛太郎が、泣きながら
『僕だって人間なんだ!傷つけられたら痛いんだ。心も!』
俺が、凛太郎に貸して欲しいっていわれた、花と鳥の本を、
恋人からもらった本だって決めつけられて、勉強もしないでこんなもん読んでるから、反抗的なオトコオンナになるんだと言われて、
『穢い』
って、庭で燃やされたって聞いた。
俺が描いた絵まで燃やされたって
君は初めてお父さんとお母さんに泣きながら、怒鳴りながら、初めて反抗したと聞いた。
靴下のまま庭にでて、
花の水やりホースで本についた火を消して、
ほとんど灰になった本を抱きしめながら、お父さんを睨んで言った。
『恋人じゃない!けれど、僕は、僕は、好きな人から借りた本を持つことすら許されないの?見合いはしない。卒業したら街に行くんだ!』
『頭を冷やせ』
そう言って、外から鍵を閉めて凛太郎のお父さんは、即座に見合いの話を進めた。
灰になった俺の本と、死の天使を胸にかかえ、凛太郎、君は旅立った。空へ。心配しなくていいよな。天使が案内してくれる。
街に、凛太郎と行きたかったな
植物園が、沢山ある。
鳥もいるんだ。
とても綺麗なんだ。
凛太郎にも見せてやりたかった。
一人の、街は寂しかった。
老いても独りで過ごした。
誰かを左に置きたくなかった。
凛太郎を重ねてしまうから。
君はずっと若いまま。
君を抱きしめたら、服だけになってしまったことがあった。骨の君すら愛せなかった。
君の服を抱いて泣いた。
あの時、素直になれてたら。
君を失わずにすんだ。
──────────
『気持ち悪いかもしれないけど、君が好きです。いつも、図書室で本を読む君を……見て、ました』
『っても、俺お前のことしらないし』
『え……ごめっ……気持ち、悪くない?』
『べつに』
『じゃあ、君も街に行くんだね?待ってるから。君を待ってるから。忘れないで。僕がいること、僕、凛太郎っていうよ。と、隣、いいかな?』
──────────
「凛太郎、そこにいるんだろ?やっぱり幽霊って足無いんだな。いつか迎えに来るからって言ってた俺の最後、一人の独居老人だよ。菌類の大家でも、愛しい人をキノコ食べて自殺されては、なんも肩書きがないほうがましだよ。街なんか人が多すぎて、他人を気にする暇ないよ。皆それぞれを生きてる」
『いいなあ、街』
「凛太郎、一緒に行こう、街に、街に行こう。きっとうまく行く」
声が不思議と若くなっていく感じがした。昔のやり直しの会話みたいだ。
『どうして君はそんなに僕に親切なの?好きだって言われて優越感に浸ってるの』
「なんとなく、いや、正直、複雑だけど、素直に嬉しかったよ?勇気振り絞ったんだろうなって。中々言えないもんだな。上手い返しの言葉ってさ。とにかく、自分のこと好きって言ってくれる人がいるって幸せなことなんじゃねぇの?よっぽど相性悪い奴じゃない限り」
『僕と君は?』
「いいと思うよ。俺、凛太郎のこと嫌いじゃないよ」
『じゃあ好きなの?』
──見つめるだけの恋でいい。友達のままでいい。欲を出せば終わりが来るから。
凛太郎の大きな二重の瞳を、
俺はちらりと盗み見る。
「好きだよ。悪いかよ」
あの時、そう言ってしまえたなら、未来は変わったかな。
多分変わってた。
俺が勇気を出さなかったせいだ。
「ごめんな、凛太郎。俺は狡い。お前から、村の連中から逃げた」
凛太郎は、俺に伝えてくれたのに。
『君のせいじゃないよ』
凛太郎は笑う。
『やっと会えたな。ずっと待ってた』
俺は泣いた。
窓から風。開くキノコの辞典のページ
ハナイグチ
別名 カラマツモダシ
ドクツルタケ
別名 殺しの天使
──────────────
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