君の隣の席、いいかな?

カシューナッツ

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君の隣は愉しい⑧《ゲルセニウム・エレガンス》

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図書室でしか会えない君

会うことを必要としない君

『隣いい?』

『構わないけど、本読んでるだけだぞ』




今日も、植物図鑑?
君は誰?優しい黄色の蔓の君。

ゲルセミウム・エレガンス、最強の毒草?こんなに、優しい小さな花。

毒々しい自己主張なんて、してない。
トリカブトと大違いだ。
どうして?



「凛太郎。お前が一番知っているんじゃねぇのか?見た目と中身は一番違う。
いや、優しい姿に、
優しい人もいるだろうさ。
でも、一番厄介なのは笑顔の下の悪意だろ?ニコニコしながら、顔と腹と、
言葉と思っていることが違うのは、
お前が一番解ってるんじゃないか?」





君の言葉には、いつもハッとさせられる。

僕を苦しめてきた一番厄介なものは
君が言ったそれだった。

のらりくらりかわされて
僕は独り。誰もいない。

はじかれたビー玉は、下り坂。
悲しくて悲しくてどんどん

孤独を加速させていった。
独りは、嫌だ。
でも、ずっと僕は独りだった。

小学生の拙い知識で同級生にあげたバレンタインデーのチョコレート。



『気持ちわり。オトコオンナ』







田舎って嫌だね。こんなニュース1日で伝わる。その日に転校手続き。
父方の祖父母の家が僕を育ててくれた。




久方ぶりに戻ってきた我が故郷。
皆笑う。好奇心・嘲り。マイナスの笑い。




でも、灯火が見えた。

君だった。

すること、一緒に本を読むだけ。

遅くまで残っていたら、いつの間にか君と二人だけになっていた。


図書室の先生は大きな花束を持っていた。

「まだ、残ってたの?そうね、お茶でも飲んでく?やっぱり最後くらい、本の匂いを嗅ぎたくて」

淹れてもらったハーブティー。

ラベンダーの香り。

先生は結婚すると言っていた。
あまり幸せそうには見えなかった。


『結婚が最高の幸せの形じゃないのかもしれないな、凛太郎』

呟くように小さく君は言った。

「先生、ちょっぴり寂しそうです。やり残したことありますか?」

「教職を離れたくなかったのよ。君たちみたいな本が好きな生徒と、本について語りたかったわ」

そう言い、無理して笑う初めて会う名前も知らない先生は、僕たちにハーブティと、ふわふわのマシュマロをくれた。

暖かくて、
いい香り。
随分お喋りをして家路につく。

そして君から借りた植物図鑑。





幸せって色々なところに、
天使の落とし物みたいに幸せってあるんだな。もう少し頑張ろう。
卒業するまで。何か変わるかもしれない。何が変わって、何を頑張るかは、今の僕には解らないけれど。

そう自分の部屋で、いつか切ってしまおうと思っていた手首の蒼白い静脈を見た。


部屋にプリントアウトしたゲルセミウム・エレガンスの写真を貼る。



紅い口唇の美女を連想する。
G・エレガンスは語る。

私、史上最強の毒草なの。
あのトリカブトさえアコニチンの致死量は体重1キロに対して、0.308mg。
私のゲルセミンの致死量は、たったの0.05mg。
携帯に便利、速効性もある。
私、正倉院に『冶葛』という名前で私がいたの。
正倉院に冶葛が納められたのは、756年6月21日。分量は32斤。まあ約14キログラム。
政治の転換期に持ち出され、今は390グラムしかない。
そして、千二百年が過ぎた現代。
1996年、正倉院の薬物の大規模な調査。冶葛はゲルセミウム・エレガンスであり、毒性がいささかも劣っていないの。千年の時を超えた毒よ。

私って最強。格好いいでしょ?
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