7 / 12
君の隣は愉しい⑥《ナラタケ》
しおりを挟む図書室でしか会えない君
会うことを必要としない君
『隣いい?』
『構わないけど、本読んでるだけだぞ』
この子は、生食不可。
といってもキノコは食べる時ほぼ全部火を通した方がいいらしい。
(ギリギリ、マッシュルームは生食OKらしいけど、やっぱりキノコは基本生食は向かないらしい)
ページの端のマークは、これはお椀マーク!食用キノコ。
名前は君は何て言うの?なんてね。君の正体は知ってるよ。
『ナラタケ』
お祖母ちゃんが豚汁にいれてたなあ。
でも、山でこの子を採るときは
『オリミキ』
『オリミキ』って言ってた。
キノコ汁、美味しかったなあ。
頭の中でしかもう描けない、
味や
香りや
温もり。
お祖母ちゃんの、東北訛りのあったかい方言。
僕はあそこだと、生きていられた。
呼吸ができた。
雪が振る、豪雪地帯。
熊も、狸も、猪もでる。
戸締まり厳重
掘りごたつの夕べ
甘酒を飲みながら。
お父さんの実家なのに、お父さんは
『ホームにでも早く入ればいい。親父もお袋も。これだから田舎の年寄りは』
と、吐き捨てるように、馬鹿にしていっていた。
田舎の何が悪いのか。
確かに不便で、急な病気や怪我なら命に関わる。
でも、心の豊かさってある。父も母も貧しい。品性が貧しい。
持ち物のブランド?住んでるところ?天変地異が起こってみなよ。ヒエラルキーの一番上は第一次産業じゃないか。
お祖母ちゃんもお祖父ちゃんも、無理やり認知症だってことにされて、その専門の、ホームに無理やり入れられた。
ずっと『帰りたい』っていっていた。
普通に話すテープをお医者さんに聞かせても、
『いったり来たりをくりかえすんですよ』の一点張りだった。
悔しくて
悔しくて
悔しくて
お祖父ちゃんが心臓で逝って
元気をなくしたお祖母ちゃんが『お墓参り』という名目で、看護師と一緒にならと、外出許可をもらって、家に帰った。キノコ汁を作ってくれた。
変わらない味。いつもの味。
そして、後から聞いた話。
お祖父ちゃんも、お祖母ちゃんも認知症じゃなかった。ホームの院長と父の何らかの忖度があったらしい。
帰りたい
帰りたい
あの山に
あの河に
49日の法事の帰りに田舎にある道の駅に寄ってもらった。
ナラタケを買った。
両親には呆れられた。
泣きながらキノコ入りの祖父母に教わった豚汁を作った。
さよなら。さよなら。
守れなくて、ごめん。
…………………………………………
「ほら、ハンカチ」
「え?」
「泣いてる。やるから。泣いていいから。よっぽどだろ?凛太郎がそんな顔するなんて。ナラタケアレルギー?」
「大好きだったひとが教えてくれた料理。ナラタケとかをいれた豚汁。美味しかったんだ。自分で作っても、味がしなくて、泣きながら食べたよ」
「そうか。でも、凛太郎が大好きだったひとは、喜んでるよ。だって、俺なら嬉しいから。忘れられてないって。存在も、教えた料理も」
君は続けた。
だからさ、ナラタケを思い出しても哀しくなくなったら、その美味しい豚汁、俺に作ってくれよ。
君は通りすぎるひとがきっと変な目でみてるんだろうと知りつつ、泣き止まない僕の背中を撫でてくれた。
優しいな、君の手はあったかいな。
僕はこんなあったかい手をしたひとを祖父母以外知らない。
─────────────
10
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
彼女は『好き』という方程式が解けない【読み切り】
カシューナッツ
恋愛
女の子を、しかも親友を好きだなんて絶対に言えない。
長い髪に触れたいなんて思ったなんて絶対に言えない。
そう恋を騙し、自分も騙し、親友であり続けようとした私──二条奏。
それでも良かった。
そうするつもりだった。
高校最後の冬が来る。別れの冬が──。 ソフトGLです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

続・上司に恋していいですか?
茜色
恋愛
営業課長、成瀬省吾(なるせ しょうご)が部下の椎名澪(しいな みお)と恋人同士になって早や半年。
会社ではコンビを組んで仕事に励み、休日はふたりきりで甘いひとときを過ごす。そんな充実した日々を送っているのだが、近ごろ澪の様子が少しおかしい。何も話そうとしない恋人の様子が気にかかる省吾だったが、そんな彼にも仕事上で大きな転機が訪れようとしていて・・・。
☆『上司に恋していいですか?』の続編です。全6話です。前作ラストから半年後を描いた後日談となります。今回は男性側、省吾の視点となっています。
「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる