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君の隣は愉しい⑤《ツキヨタケ》
しおりを挟む図書室でしか会えない君
会うことを必要としない君
『隣いい?』
『構わないけど、本読んでるだけだぞ』
君は図鑑、キノコの図鑑を開く。
椎茸に似た美味しそうなキノコの群れ。
樹に並んで生える様は、やはり椎茸そっくり。
『このキノコ、美味しそうだろ』
『うん。でも、椎茸そっくりだけど、また「違うよ」って言うんでしょ?』
僕は頁の端を指差して、
『だって、ここ!ページの隅。病院のマークついてるよ?」
この子は、誰?
『ツキヨタケ』
綺麗な名前だよな。でも、手離しに風情ある名前とは言えないみたいだ。
図鑑の隅の救急車のマーク。
僕は君が繋いだ言葉の続きがききたくて、君をじっと見詰める。
君は『お前の目、ラグドールの目みたいだな』
といい、控えめに笑った。
『そんな』
少し恥ずかしくなる。ラグドールというのは『ぬいぐるみ』という意味の長毛種の大型の猫だ。
ラグドールは名前の通り、だっこが大好きな甘えん坊。
僕はそんなに君に甘えてる?………甘えてる。この時間だけが僕の細胞が息を吹き返す時間だ。
君がここに来るのは、授業が終わってから十分くらい過ぎてから。
僕はそれから少し遅れてから図書室に入る。
君の斜め60度のアングルは綺麗だ。
そしていつものルーティン。
『隣いい?』
『構わないけど、本読んでるだけだぞ』
そう言いながら机の本を僕の方にも傾けて、見やすいようにしてくれる。
………………………………………………
『もしかして、やっぱり』
『毒キノコ』
『あたり』
『綺麗な名前なのに。「月夜」なんて』
あんまりいい人だと思う人を、信用しない方がいい。
そう言いながら君は次のページを見せた。
夜に妖しく光るキノコ。
禍々しいほどに綺麗だった。
害のあるものだと思わせる蛍光色の緑色のキノコの発する光。
『どんな、毒なの?』
『えっと、ツキヨタケは摂食後30分から3時間で発症し、下痢と嘔吐中心。腹痛をも併発。景色が青白く見えるなどの幻覚症状がおこる場合もあり、重篤になると、痙攣・脱水・アシドーシスショックなどをきたす。死亡例はキノコの毒成分自体によるものではなく、激しい下痢による脱水症状であると考えられる、だって』
中毒例でさ、吐いたゲロが光ってたって。
本当最悪だな。
馬鹿にされたみたいだよ。
ちゃんと手当てをすれば10日くらいで回復するって。
大切な人が苦しんで吐いた吐瀉物が光っていたら何か腹が立つ。君が怒るのも解るよ。
『こいつ、裂くと根本に黒いシミがある』
『意味深だね。僕はどんなに嫌な奴になってもツキヨタケみたいな奴にはなりたくないよ』
私だって好きで椎茸に似て
夜に光って
根本が黒くなった訳じゃないわ。
だから、気をつけて。
間違っても、食べたりしないで。
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