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君の隣は愉しい④《カエンダケ》
しおりを挟む図書室でしか会えない君
会うことを必要としない君
『隣いい?』
『構わないけど、本読んでるだけだぞ』
今日は誰かな。どんな子かな。そう思いながら君の手元を覗き込む。
ゾッとした。
背筋が凍るという言葉があるけれど、まさにそれだ。
『カエンタケ?』
地獄の炎のようだ。もしくは地獄の手。気持ちの悪い朱色に近い赤が手招くように見える。
見た目通りドクロマーク。そして赤の猛毒マーク。君は何者?
『気味が悪いキノコだよな』
『地獄の炎、地獄の使者の手みたい。気持ち悪いね』
見るからに凶悪な奴。
こっちの世界には中々いない。
いや、いる。カエンタケはいる。
クラスで僕が窓側に座っているのを解ってて窓ガラスの外から石を投げたあいつら。
冬場、ベランダで『オンナオトコに効く除菌』とバケツで水をかけられ、鍵をかけて三階のベランダに締め出したあいつら。そこで笑っていた人たち。
『さあ、こっちに来いよ』
絶対に触れては行けないとは解っている。
『もう、解放されたいだろ。ほら、手折ってみろよ、食ってみろよ。まあ、食う勇気がお前にあるかは解らないけどな』
奴らは笑う。カエンタケは笑う。あまりの毒に歯向かえないのを知っていて僕を笑う。
歯向かう勇気なんてない。それ以上の仕打ちが待っているから。
少し可愛いものが好き。
男の人が初恋だった。
それがそんなに悪いこと?
蔑められなきゃ駄目なこと?
放課後、暗くなってから助けてくれた守衛さんも、最初は優しかったけど、僕の素性を知ると、態度は知らぬ存ぜぬになり、ぞんざいになった。
初めて『ひとりぼっち』を知った。
解っていたはずなのに。
他人なんか信じるな、希望を抱くな。
家族でさえ、僕をバイ菌扱いなんだから。
『きのこはいいなあ。みんな仲間だ。生命を咲かせるようにカサを開かせるときも、季節に終わりを告げられて眠りつくときも』
『凛太郎、ん、これ使え。ハンカチはやるよ』
僕は泣いていた。君はハンカチと飴をくれた。
『………リンゴの、のど飴?美味しい』
『生きていさえすれば、良いことは必ずある。だから、今だけはクソみたいな奴らのことはあんまり考えるな』
『さて、カエンタケだ。読むぞ』
───食後三十分から、発熱、悪寒、嘔吐、下痢、腹痛、手足のしびれなどの症状を起こす。二日後に消化器不全、小脳萎縮による運動障害など脳神経障害により死に至ることもあるみたいだ。きのこの汁が皮膚に付くだけで炎症を起こすって。回復しても小脳に後遺症が残ることがあるとされています。触っても火傷みたいに、なんかパンパンになってんな。写真じゃ良くわかんねぇ。致死量3グラムって!マジかよ!一円3個の重さで。コイツにとってはヒトの生命は3グラムかよ!───
カエンタケはニヤッと、笑う。不適ではなく、不遜。
『触ったり食べたりしたら、どうなるか知らないよ。見たら解るよね、君なら解るよね。僕がどんな毒をもっているか』
────────────《続》
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