蒼薔薇と禁忌の果実〖完結〗(黒将軍と蒼薔薇の庭とは話が少し異なります)

カシューナッツ

文字の大きさ
上 下
12 / 19

〖第12話〗

しおりを挟む

 エーメ男爵はダンピエール伯爵の手駒になって、他にも様々な事を行ってきたこと。しかし、愚かな男爵本人は、いつでもダンピエール伯爵ひいてはエヴルー侯爵家が守ってくれると信じていたそう。
 今回の件についても私に向かって堂々と「揉み消してもらう」などとのたまっていたが、彼は本気でそう思っていたんだろう。当のエヴルー侯爵は「知らない」と当然のようにトカゲのしっぽ切りをして男爵を見捨てたわけだが。

 エヴルー侯爵が、孫娘ルイーズを王太子の正妃にするために一番邪魔なのは、ルテール公爵令嬢アリス。
馬車の事故を装って、邪魔なアリスを消そうとしたが、幸いなことにかすり傷ですんでしまった。その後、学園までの通学に、公爵家は護衛を増やしたので次の機会を伺っていたそう。

 そこに偶然、エーメ男爵が下町でアリスと遭遇したことを聞いたダンピエール伯爵は、男爵夫人を使ってアリスをお茶会に招き、男爵邸にて拉致・略取することを計画した。
 ちなみに殺害を指示されたが、男爵は私を奴隷として売るつもりだったらしい。

 それが男爵が口にしていた「取引」なのかな?
 もしかしたら、お金が欲しかったのかもしれない。殺したふりをして、実際は殺さないかわりに国に戻って来るなという「取引」をしようとしたのかも……もうどうでもいいけど……。

「現段階で物的証拠は何もなく、ただ、男爵の自白のみ。だが、そもそも王太子殿下が正妃をまだ決めていない事に端を発したわけだから、殿下がこうおっしゃったそうだ……」

 私は、手を握り締めて沈黙していた。
 断りたい。是非ともお母様に力添え頂いて断りたい!!


 王家からの遣いによる伝言はこうだった。

「アリスと結婚したい」
「僕がアリスの立場をはっきりさせていたら、今回のような事件は起きなかったかもしれない」
「許されるならば、正式に婚約の申し出をしたいので、明日にでも公爵家を訪問したい」

 書面ではなく口頭での使者だが、王太子付きの侍従長自らが来たそうだから、ラファエル様は本気なんだろう。

 彼なりに心配してくれたんだろうけど……
 ……だから私の気持ちを考えろと言ったはずだが?
 しかも明日? ……って今日じゃん!!!


「ルテール公爵家としては断る理由はない」

 父の言葉に私と母は黙った。公爵家としてはない。アリス個人としてはあるけれど。
 なんとか声を絞り出して言った。

「……体調がすぐれないということで保留できませんか?」

 浅知恵しか浮かばない。体調が回復したら、返事はしなくてはならない。

「分かった。急ぐ理由もなくなったし、ひとまずはそう返事しよう」

 てっきりお父様は一刻も早く返事したいのではと思っていたから、驚いて聞いた。

「急ぐ理由がなくなったとは……?」
「アリスには伝えておこう。これもまだ内々のことで国王陛下にも王太子殿下にもお伝えしていない……」

 何だろうと思ってお父様を見ると、父はにっこりと笑っていた。

「マクシムはルイーズ嬢と婚約することになるよ」


 その言葉に目の前が真っ暗になった気がした。

 ……嗚呼、お兄様……。
 王太子妃の第二候補者がいなくなってしまった……。
 確かに、お父様の言う通り、私とラファエル様の婚約を急ぐ必要はない。こうなれば、必然的に私が王太子妃になるのだろうから。

 エヴルー侯爵とダンピエール伯爵の画策も、ルイーズ嬢の恋によって何の意味もなくなってしまったという事かあ……。
お茶会の日程が重なったのは、偶然だったんだ。
 これがもし、ルイーズ嬢のお茶会が一週でも早かったら、事態は変わっていただろう。
 さらわれ損じゃん、私……。

 うなだれた私の頭の中には「バッドエンド」の文字が踊り、今度こそ思考回路がショートした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黒将軍と蒼薔薇の庭〖データが飛んだので改稿です。読み切り〗

カシューナッツ
恋愛
『蒼薔薇と禁忌の果実』の元になった話です。手違いでデータを飛ばしてしまったのでデータが確保できた所から記憶をたどり改稿しました。 禁忌の果実より、切ない話になっています。 一気読みのかたちになっています。

物置小屋

黒蝶
大衆娯楽
言葉にはきっと色んな力があるのだと証明したい。 けれど、もうやりたかった仕事を目指せない…。 そもそも、もう自分じゃただ読みあげることすら叶わない。 どうせ眠ってしまうなら、誰かに使ってもらおう。 ──ここは、そんな作者が希望や絶望をこめた台詞や台本の物置小屋。 1人向けから演劇向けまで、色々な種類のものを書いていきます。 時々、書くかどうか迷っている物語もあげるかもしれません。 使いたいものがあれば声をかけてください。 リクエスト、常時受け付けます。 お断りさせていただく場合もありますが、できるだけやってみますので読みたい話を教えていただけると嬉しいです。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

Fly high 〜勘違いから始まる恋〜

吉野 那生
恋愛
平凡なOLとやさぐれ御曹司のオフィスラブ。 ゲレンデで助けてくれた人は取引先の社長 神崎・R・聡一郎だった。 奇跡的に再会を果たした直後、職を失い…彼の秘書となる本城 美月。 なんの資格も取り柄もない美月にとって、そこは居心地の良い場所ではなかったけれど…。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

マンドラゴラの娘

まさみ
ホラー
植物学者の父親と大きな屋敷に暮らす13歳の少女、ミラ。 学校へ行くのを禁じられ退屈していたミラは庭師見習いの少年・デュークと仲良くなるが、ある日突然彼が蒸発。 「裏庭の温室に行ってはいけないよ」 父の戒めに隠されたおぞましい秘密とは。 (ホラー/洋風) イラスト:ハルキ(@haruki_358)様 宮菜(@miyanamiya38)様

過労薬師です。冷酷無慈悲と噂の騎士様に心配されるようになりました。

黒猫とと
恋愛
王都西区で薬師として働くソフィアは毎日大忙し。かかりつけ薬師として常備薬の準備や急患の対応をたった1人でこなしている。 明るく振舞っているが、完全なるブラック企業と化している。 そんな過労薬師の元には冷徹無慈悲と噂の騎士様が差し入れを持って訪ねてくる。 ………何でこんな事になったっけ?

処理中です...