蒼薔薇と禁忌の果実〖完結〗(黒将軍と蒼薔薇の庭とは話が少し異なります)

カシューナッツ

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〖第9話〗

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 私は新入りのルークにレシピを渡し、部屋で休んでいました。
   
「悲しいことがあったのかい?」

 料理長のレモンさんは、私の舌と香りのリハビリに付き合ってくれています。

 出会いは幾分か前。偶々たまたま川魚を捌く人の手伝いをした、戦争孤児の私の、手を見て言いました。

「辛いと思うがこれから炊き出しを手伝ってくれないか?事の次第では、大きな声では言えないが、中々良い働き口も紹介する。3食ベッド付の住み込みのコック見習いだ」

「え………?」

「そなたの手は癒す手だ。人の口に運ぶものは身体を心を癒す。そこから、信頼が生まれる、生きる希望も見えてくる。頼まれてくれないか、お嬢さん」

──────────

 私はあの方を幸せにしたのでしょうか。答えは私は知りません。私が、逃げたから。

 今の夜のリハビリのメニューはラム肉の香草焼きです。そして、私の役目だったですがはレモンさんとの手探りです。ハーブ、スパイス、塩加減、デザートは甘さの増減を探します。

「ん、大丈夫だ。もう、イルの味だ。心配することはないよ」

 レモンさんは頭をくしゃくしゃっと私をまるで猫か何かのように撫で、微笑みました。

「レモンさん、今までありがとうございました。私から料理を取ったら、器量の悪いただの子供です」

 私は笑いました。ですがレモンさんの手が温かくて、安心して、今は亡い家族を思い出して、視界が滲んでいくのを止められませんでした。

「器量の悪いなんて、イルは鏡を見ないのかい?別嬪のお嬢さんだよ。イルが作るデザートが食べたいとあのジルベルト様が肩を落としておられる。イルのスイーツは絶品だからなあ」

 家族の、お母さんや皆の声がよみがえります。『私のお菓子はみんなを幸せにするよ』と。『食べると自然と笑顔になる』と。ですが私はあの方を幸せにしたいとも、笑顔にしたいとも、どうしても思えないのです。

 ──作りたく、ない。あの方の幸せに私はいないから──
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