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〖第6話〗
しおりを挟む「…下賤の私には触れて良いということですか。そうですよね。私はただの孤児です。親もいない、まともな教育も受けていない…でも、でも…私にも自尊心くらいはあるんです…アップルパイは見習いのルークにレシピを書いてあげます。ルークは私より料理のセンスがあります。だからきっと、食後のアップルパイは私よりずっと美味しくなるはずです。私なんかが作る田舎臭いアップルパイより、ずっと。他のデザートもルークに頼んで下さい」
声が震えてしまいます。無様なんでしょう。ああ、美しくなりたかった。誰もが息をのむ絶世の美女に。ですが、もしそうであっても、あの方は、私に見向きもしないでしょう。あの人にはエリアラ様がいる。
「…私は……『私自身』はどうでも良かったんですね。ここにジルベルト様と過ごす時間を楽しみに来ていた私は馬鹿みたいです。本当に、馬鹿みたい……ジルベルト様が見ているのは私じゃなかったのに……」
「イル……すまない……」
力なく、ジルベルト様は私の手を離しました。熱が、ジルベルト様の体温が消えていきます。
この方の、こういうところが好きでした。優しくて、不器用で、あまりに一途に蒼の国の『勝利の女神』と称されるエリアラ様を想うこの方が好きでした。けれど、あまりにも残酷です。今の言葉で、ジルベルト様は全てを肯定したのです。ジルベルト様が見ているのは私じゃなかった。楽しいティータイムも私である必要はなかった。憶測は真実に変わります。
「私はイルです!エリアラ様じゃない!アップルパイなんて、もう二度と作らない!アップルパイなんて、大嫌い!」
私は泣きながら叫ぶようにジルベルト様に言いました。そしてバスケットを持って蒼い薔薇の庭から兎のように立ち去りました。
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