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〖第1話〗
しおりを挟む蒼の国と緋の国で激しく戦いが行われていたとき、私は緋の国の夜襲で村が焼き討ちに遇い、孤児になった所を、蒼の国の大将軍ジルベルト様の軍勢に助けられました。
もう、行くところも、生きる意味をも見失う私でしたが、蒼の国の負傷兵への配給や、年若なので周りの方々の『まかない』を作るお手伝いをしていました。
自分の料理で誰かが笑顔になることは、そのときの私の生き甲斐でした。だから、偶然ジルベルト様の屋敷の料理長に料理の腕を見込まれて、ジルベルト様の屋敷に引き取って貰ったことは、とても幸運なことでした。
与えられた仕事は城で働くひとのご飯を作ることです。所謂『まかない』。私は嬉しかった。料理は『信用』です。料理長がこんな年若の私を見込んで下さった。その他の仕事は、雑用や、調理助手です。
そして、少し時は経ち、私の料理の腕も少し上がりました。そんな時ジルベルト様の食後のデザートを作る大役を任されました。デザートを作ることは私は一番好きなことでした。食事の最後の甘い一時の贅沢です。
そのときは、丁度、蒼の国と緋の国が休戦調停を結び、束の間の平和が訪れていました。
その頃の蒼の国の孤児院は酷いものだと噂には聞いていましたから、私はとても運が良かった。優しい仲間。暖かいベッド。けれど、アップルパイを作ると、思い出してしまうのです。昔から私は家族の皆に言われていました。
『本当にイルは料理が上手ね』
『アップルパイなんてお店が出せるわ』
『イルのお菓子はひとを幸せにするなあ』
家族のことを思いだすたびに、お屋敷の抜け道の奥の、森の中、沢山の薔薇が咲く美しい庭に来ていました。私はここで蒼い薔薇を初めて見ました。
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