氷雨と猫と君〖完結〗

カシューナッツ

文字の大きさ
上 下
93 / 94

〖第93話〗

しおりを挟む

 置いていこう。光り輝くダイヤモンドの塵と一緒に。ダイヤモンドダストと一緒に儚く全部消えてしまえばいい。

「そろそろ夜明けが近い。寒いね。手袋して。凍えちゃうよ」

 夜が明ける。車を動かし陣取った場所は凍った湖の前だった。結構カメラ待ちをしている人が多かった。

──────────

 夜が明ける。きらきらと陽の光を反射する氷の粒。肺が凍りそうなくらい冷たいけれど、澄んだ空気だ。

「出た!見える?美雨さん!」

「見えるよ!綺麗だね、真波。雪じゃない。きらきら光る空気の氷の雨みたい。ダイヤモンドが輝いてる」

「これも氷雨かもね。氷の粒の雨の乱反射。綺麗だ。来てよかった。美雨さん。また見たい?」

「充分だよ。もう置き忘れはないよ。全部置いてきたよ。暫く眺めたら行こう。綺麗ね、飽きない」

 私がダイヤモンドダストを眺めて、水筒のお茶なんかを飲む。カメラマン達が引きあげていくと、真波がそわそわし始めた。

「どうしたの? 真波。変よ?あ、トイレ?」

「ちがうよっ!あー格好つけたかったんだけどなあ……。あのさ、美雨さんこれ、あの、俺と、婚約して下さい!結婚を前提に……お願いします。俺は、美雨さんしか描けない。あなたを、愛しています」

 スターサファイアのダイヤをあしらった指輪だった。あまりの綺麗さに思わず息を飲んだ。真波と出会った日は、きらきらしたものが欲しかった。直樹に別れを告げて、本当は捨てられ、さ迷い歩き、酔った私は幻のなかできらきらしたものを見つけた。奇跡のような氷雨。

 けれど今、光りあふれる凍った氷雨の中で、星の指輪をもらった。

「こんな素敵なもの、本当に良いの?」

「うん、美雨さんの細くて華奢な指に似合うよ」

「こんなに綺麗なもの、こんな綺麗な場所で一番大切な人から貰うんだもの。私一生忘れない」

     
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

じれったい夜の残像

ペコかな
恋愛
キャリアウーマンの美咲は、日々の忙しさに追われながらも、 ふとした瞬間に孤独を感じることが増えていた。 そんな彼女の前に、昔の恋人であり今は経営者として成功している涼介が突然現れる。 再会した涼介は、冷たく離れていったかつての面影とは違い、成熟しながらも情熱的な姿勢で美咲に接する。 再燃する恋心と、互いに抱える過去の傷が交錯する中で、 美咲は「じれったい」感情に翻弄される。

目が覚めたら

美咲 如
恋愛
熱を出した私を見舞いに来てくれた、ワンコ系後輩に食べられる話。 料理上手なワンコ系狼男子×私生活は喪女なキャリアウーマン。 ※ムーンライトにも掲載しています。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

観客席の、わたし

笹 司
恋愛
何者にも、なれなかった。 夢やぶれた、女の話。

処理中です...