氷雨と猫と君〖完結〗

カシューナッツ

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〖第91話〗

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 私は泣き喚いて、母を呼んだ。憎んだけど、愛してたよ。本当だよ。シナモンのビスケット、好きだったよね。私も大好きよ。アップルパイ、作ってくれたね。何を間違えてしまったんだろうね。一度でもちゃんと話をして、小さくなったお母さんを抱きしめれば答えは変わったのかなあ。

「美雨さん、自分を責めないで」

 真波は、私を懐に入れ、ずっと私の髪を撫でてくれた。それから真波と二人で、波打ち際に花びらを撒いた。砂を滑る波の泡立ちがレースみたいだった。色とりどりの花びらは波にゆらゆら揺らめいて、綺麗だった。

──────────

 今度は真波の家族のお墓参りに、峠越えの前にスタッドレスタイヤをよく確認し、チェーンをつけた。ドライバーは、私から真波に交代した。いつもなら雪深いはずだが今年はあまりないと真波は言う。

「これで『あまりない』の?」

 峠前の道で、除雪した跡が残る道路は、てらてらのアイスバーンで、雪雲が暗くてつけたライトを反射する。峠を下り、トンネルを出れば暫くして荒涼とした空間にでる。蕎麦の畑らしい。それから、車を山の中を走らせて、車を降りると、広がる真っ白な世界に私は驚いた。標高がかなり高い。

 車のドアを開けると、乾燥した、細かい積もるだろうと思わせる雪が車に吹き込んだ。真波の家族が眠るお寺。真波は自分が亡くなったら、墓じまいをする人が居なくなると思い、早いうちからお寺の永代供養を頼んであると言う。

 お寺のご本尊に手を合わせ、真波の家族が眠る所へ花を供えにいく。真波が冬でも熊が出るかもしれないというから熊鈴を二人分買っておいてくれた。

 結構な高台に真波の家のお墓はあった。花を供えて、手を合わせた。帰り、石の階段を滑らない気をつけながら話した。

「何て言ってきたの?」

「秘密。美雨さんは?」

「初めまして。斎藤美雨と申します。真波くんと、一緒にこれからを歩んでいきたいです。宜しくお願いします。そう心の中でお祈りしたよ」

「俺は綺麗な人でしょ?って。優しくて、温かくて、この人は幸せをくれるって自慢してきた。そして、俺は大丈夫だからって」

「……私も、両親に最後に言ったわ。この人は私に安らぎと幸せをくれるのって」

 それからまた峠を越え、山の奥深くへ分け入っていく。
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