氷雨と猫と君〖完結〗

華周夏

文字の大きさ
上 下
91 / 94

〖第91話〗

しおりを挟む

 私は泣き喚いて、母を呼んだ。憎んだけど、愛してたよ。本当だよ。シナモンのビスケット、好きだったよね。私も大好きよ。アップルパイ、作ってくれたね。何を間違えてしまったんだろうね。一度でもちゃんと話をして、小さくなったお母さんを抱きしめれば答えは変わったのかなあ。

「美雨さん、自分を責めないで」

 真波は、私を懐に入れ、ずっと私の髪を撫でてくれた。それから真波と二人で、波打ち際に花びらを撒いた。砂を滑る波の泡立ちがレースみたいだった。色とりどりの花びらは波にゆらゆら揺らめいて、綺麗だった。

──────────

 今度は真波の家族のお墓参りに、峠越えの前にスタッドレスタイヤをよく確認し、チェーンをつけた。ドライバーは、私から真波に交代した。いつもなら雪深いはずだが今年はあまりないと真波は言う。

「これで『あまりない』の?」

 峠前の道で、除雪した跡が残る道路は、てらてらのアイスバーンで、雪雲が暗くてつけたライトを反射する。峠を下り、トンネルを出れば暫くして荒涼とした空間にでる。蕎麦の畑らしい。それから、車を山の中を走らせて、車を降りると、広がる真っ白な世界に私は驚いた。標高がかなり高い。

 車のドアを開けると、乾燥した、細かい積もるだろうと思わせる雪が車に吹き込んだ。真波の家族が眠るお寺。真波は自分が亡くなったら、墓じまいをする人が居なくなると思い、早いうちからお寺の永代供養を頼んであると言う。

 お寺のご本尊に手を合わせ、真波の家族が眠る所へ花を供えにいく。真波が冬でも熊が出るかもしれないというから熊鈴を二人分買っておいてくれた。

 結構な高台に真波の家のお墓はあった。花を供えて、手を合わせた。帰り、石の階段を滑らない気をつけながら話した。

「何て言ってきたの?」

「秘密。美雨さんは?」

「初めまして。斎藤美雨と申します。真波くんと、一緒にこれからを歩んでいきたいです。宜しくお願いします。そう心の中でお祈りしたよ」

「俺は綺麗な人でしょ?って。優しくて、温かくて、この人は幸せをくれるって自慢してきた。そして、俺は大丈夫だからって」

「……私も、両親に最後に言ったわ。この人は私に安らぎと幸せをくれるのって」

 それからまた峠を越え、山の奥深くへ分け入っていく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アラサー女子、銭湯にハマる

りー
現代文学
池内泉は27歳、アラサーの会社員である。 仕事は営業事務をしている。 忙しくてしんどい事も多いが、銭湯を楽しみに毎日頑張っている。 自分の機嫌を取れるのは自分だけをモットーに温かいお風呂に浸かってのんびりリラックスしたり、女子らしくヘアケアに勤しんでいる。 自由に自分らしく、のんびりと銭湯でのリラックスタイムを過ごしていくうちに心が安らいでいった。 新しい銭湯を開拓するべく、日々リサーチを欠かさないのである。 ローカルな銭湯のストーリーがゆっくりと幕を開けるのであった。

悪女として処刑されたはずが、処刑前に戻っていたので処刑を回避するために頑張ります!

ゆずこしょう
恋愛
「フランチェスカ。お前を処刑する。精々あの世で悔いるが良い。」 特に何かした記憶は無いのにいつの間にか悪女としてのレッテルを貼られ処刑されたフランチェスカ・アマレッティ侯爵令嬢(18) 最後に見た光景は自分の婚約者であったはずのオルテンシア・パネットーネ王太子(23)と親友だったはずのカルミア・パンナコッタ(19)が寄り添っている姿だった。 そしてカルミアの口が動く。 「サヨナラ。かわいそうなフランチェスカ。」 オルテンシア王太子に見えないように笑った顔はまさしく悪女のようだった。 「生まれ変わるなら、自由気ままな猫になりたいわ。」 この物語は猫になりたいと願ったフランチェスカが本当に猫になって戻ってきてしまった物語である。

インスタントフィクション 400文字の物語 Ⅰ

蓮見 七月
現代文学
インスタントフィクション。それは自由な発想と気軽なノリで書かれた文章。 一般には文章を書く楽しみを知るための形態として知られています。 400文字で自分の”おもしろい”を文中に入れる事。それだけがルールの文章です。 練習のために『インスタントフィクション 400文字の物語』というタイトルで僕の”おもしろい”を投稿していきたいと思っています。 読者の方にも楽しんでいただければ幸いです。 ※一番上に設定されたお話が最新作です。下にいくにつれ古い作品になっています。 ※『スイスから来た機械の天使』は安楽死をテーマとしています。ご注意ください。 ※『昔、病んでいたあなたへ』は病的な内容を扱っています。ご注意ください。 *一話ごとに終わる話です。連続性はありません。 *文字数が400字を超える場合がありますが、ルビ等を使ったためです。文字数は400字以内を心がけています。

甘くも苦いバレンタイン

まりぃべる
現代文学
中学一年生の私。 きっと私の存在も知らない先輩に、私の想いを思い切って伝える事にした。

Aegis~裏切りに報いる影の正義

中岡 始
現代文学
優子は結婚を夢見て信じた男性・大谷信之に裏切られ、貯蓄をすべて失うという冷酷な現実に直面する。通常の法的手段ではどうにもならない絶望の中、手を差し伸べたのは「リーガルアシスタンスネットワーク(LAN)」だった。被害者のために特別な「代替支援」を行うというLANの提案に、優子は一筋の光を見出す。 だが、その裏で動いていたのはLANとは異なる、影の組織Aegis(イージス)。Aegisは法を超えた手段で被害者のために「逆詐欺」を仕掛けるプロたちの集団だ。優子の加害者である大谷から金銭を取り戻し、彼に相応の報いを与えるため、Aegisのメンバーが次々と動き出す。怜は純粋で結婚を夢見る女性として大谷に接近し、甘く緻密に仕組まれた罠を張り巡らせていく。そして、情報の達人・忍がその裏を支え、巧妙な逆転劇の準備を整えていく。 果たしてAegisの手によって、大谷はどのような制裁を受けるのか? そして優子が手にするのは、失った以上の希望と新たな始まりなのか? 裏切りと復讐が交錯する、緊張の物語が今、動き出す。

感謝の気持ち

春秋花壇
現代文学
感謝の気持ち

心ゆくままにまにまに

DEN楽
現代文学
日常で思いついた言葉や詩を書き綴っていきたいと思います。 よろしくお願いします

あなたを失いたくない〜離婚してから気づく溢れる想い

ラヴ KAZU
恋愛
間宮ちづる 冴えないアラフォー  人気のない路地に連れ込まれ、襲われそうになったところを助けてくれたのが海堂コーポレーション社長。慎に契約結婚を申し込まれたちづるには、実は誰にも言えない秘密があった。 海堂 慎 海堂コーポレーション社長  彼女を自殺に追いやったと辛い過去を引きずり、人との関わりを避けて生きてきた。 しかし間宮ちづるを放っておけず、「海堂ちづるになれ」と命令する。俺様気質が強い御曹司。 仙道 充 仙道ホールディングス社長  八年前ちづると結婚の約束をしたにも関わらず、連絡を取らずにアメリカに渡米し、日本に戻って来た時にはちづるは姿を消していた。慎の良き相談相手である充はちづると再会を果たすも慎の妻になっていたことに動揺する。 間宮ちづるは襲われそうになったところを、俺様御曹司海堂慎に助けられた。 ちづるを放っておけない慎は契約結婚を申し出る。ちづるを襲った相手によって会社が倒産の危機に追い込まれる。それを救ってくれたのが仙道充。慎の良き相談相手。 実はちづるが八年前結婚を約束して騙されたと思い込み姿を消した恋人。そしてちづるには誰にも言えない秘密があった。

処理中です...